セリーヌ・ディオン(Celine Dion)のコンサートなのか、ローマ法王のパリ訪問なのか、それともさまざまな労働者のストライキなのか?とにかくいつも以上の渋滞で優先レーンが張り巡らされているタクシーさえなかなか動かなかった今回のパリ・ファッション・ウイークの経験者は、「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」のセットのような時代の到来を心待ちにしているかもしれない。
ニコラ・ジェスキエール(Nicolas Ghesquiere)は、ルーブル美術館の中庭にアスファルトのランウエイを設置。道路の上には、タクシーのような、窓のない乗り物が数十台走っている空間を作り上げた。未来の車をナビゲートするかのように赤いランプが明滅する空間はまるで、SFの世界。現代人が見据える未来というよりは、昔の人たちが今を飛び越えて想像する未来のようだ。過去と現在、そして未来を旅する「ルイ・ヴィトン」らしい。未来の人間は、こんな車にトランクを押し込んで旅をするのだろうか?
ニコラは今シーズン、空を自由に飛ぶ車のように「軽やかさや流動性」を意識した。「シンプルな感覚、ある種の純粋さを追求したかった。私は長年、『アーマー(鎧)』のスペシャリストだったから(笑)」と話し、今回は構築的なシルエットから距離を置く。
ダブルフェイスにしても
シフォンより薄く、Tシャツより軽いカシミア
ファーストルックは、前あわせの白一色のドレス。モデルの体が透けているが、生地はナイロンのような素材とメッシュを貼り合わせているように見える。これに続くのは、胸元をピンでつまんでドレープを生み出したドレス。こちらは生地に熱加工を施しているのだろう。裾がほんのりフリルのように波打っている。序盤のコレクションは、驚くほどミニマルだ。だが、ミニマルとシンプルは違う。3つの生地で切り返したボーイフレンドシャツとスカートのセットアップ、タンクトップに重ねたメタルメッシュのビスチェ、箔プリントするから花形がシルバーに浮き出るレースのミニドレスなど、控えめながらテクニックは健在。ジャケットのスタイルは、柔らかな生地を使いつつも、宇宙ステーションで働く人たちのようにシャープだ。呼応するかのように、バッグも今シーズンはミニマルに仕上げている。
中盤以降は、未来的な素材でフリルを作りバロックな風味をプラスした化繊のロングブルゾンをガウンのように羽織ったり、玉虫色のホログラムをダイヤモンド柄に切り出して貼り付けたペチコートのようなミニドレスを提案し、過去と未来を行き来する。ニコラによると、近未来的に思える洋服のいくつかは化繊ではなくカシミヤなどで作られており、それらはダブルフェイスにしてもシフォンより薄く、コートでもTシャツよりも軽いという。会場を走る未来の車のように、まるで重力に抗っているかのコレクションは、一見するとシンプルだが、未来志向なニコラらしさが顔をのぞく。正直周りよりも2、3歩前を進んでいるから、最近の彼のコレクションは、初見では違和感を覚えがちだ。ただ数年後には、きっとこんなスタンスやアプローチのクリエイションが増えるのだろうという予感も抱く。