ファッション

プラダ・グループの海洋保全プロジェクトは教育から始まる さかなクンと育む次世代の好奇心

プラダ・グループは常に時代に鋭いまなざしを向け、「よりよく生きるとは何か」をファッションを通じて私たちに問いかけてきた。環境問題に取り組むこともまた、社会やその変化を見つめ、私たちのあり方を考える営みの1つなのだろう。同グループが持続可能性と海洋保護に対する意識向上を目的に、ユネスコ政府間海洋学委員会(IOC)とのパートナーシップで取り組んでいる「シー ビヨンド(SEA BEYOND)」プロジェクトはその実践の一例だ。2025年からは魚類学者であり、東京海洋大学の客員教授でもあるさかなクンと連携し、日本の子どもたちと共に海や自然への好奇心を育む活動を広げている。

ナイロンから海へ
広がるプラダ・グループの問い

「プラダ」と海をつなげた背景には、ブランドを象徴する素材であるナイロンがある。「プラダ」は1980年代、工業用ナイロンを用いたバッグなどを発表し、当時ラグジュアリーとは縁遠かったナイロンをファッションの世界に持ち込んだ。2019年には世界中の海から回収されたプラスチック、漁網、埋め立てごみ、繊維くずを再利用、浄化して作られた再生ナイロン「エコニール(ECONYL)」を用いる「プラダ リナイロン」をローンチした。

同年にスタートしたのが「シー ビヨンド」だ。「シー ビヨンド」は、教育を活動の中心に据え、海とその資源に対して、より責任ある行動をとることの重要性に対する意識向上を目指している。20年以降毎年実施している若年世代を対象にした教育モジュールには、これまでに世界中から3万8000人以上の学生が参加した。海洋環境について知識を得るだけでなく、参加者自らが課題を見つけ、具体的なアクションへとつなげるところまでを一連の学びとしている。モジュールの最後には、各校がその成果をプロジェクトとして発表し、国際的な審査員団が優秀作を選出。優勝校には、資金の提供を通じてその後の活動を支援している。

そのほかにも23年には、ヴェネツィアの幼児を対象に、ラグーンの生態系を屋外で体験しながら学ぶ「ラグーン幼稚園」も実施。近年は氷河地帯での科学的なミッションやサンゴ礁の再生などの海洋に関する科学調査、コミュニティー交流活動、政策提唱に対する支援を、新たな重点分野としている。

CSR部門ヘッドを務めるロレンツォ・ベルテッリ(Lorenzo Bertelli)は、「次世代のオーシャン・リテラシーを高めることが、このプロジェクトの最大の目的だ。2019年に始まり、すでに若い参加者たちの熱意や好奇心、情熱という形で、その前向きな影響が表れている」「これは長期的な取り組みだ。なぜなら、海洋リテラシーを通じて力を与えられた子ども一人ひとりが、より持続可能で意識の高い未来へと私たちを一歩近づけてくれるからだ」とコメントした。

さかなクンと組み
日本の海を知る活動へ

「シー ビヨンド」はグローバルで展開してきた海洋教育活動を、各国のコミュニティーに根ざしたローカル施策へと発展させている。日本では25年から、さかなクンがキャプテンを務める一般社団法人SD BlueEarthの「さかなクン探究隊」とパートナーシップを組んだ。次世代の探究心を育むという、共通した教育観が両者をつないだ。

2026年度は、応募の中から選ばれた小学4〜6年生20人が参加し、約1年をかけ自分自身の「好き」や疑問を起点に探究を深めていく。プログラムは、東京海洋大学の教授による講義や東京湾や東京近郊でのフィールドワークのほか、東京湾の生態系を学んだり、低利用魚を調理して味わったり、さまざまな角度から海への好奇心を育む内容になっている。

このほかにも全国から参加者を募り、国連大学とのトークセッションを開催するほか、新聞社主催の約600人規模のイベントでも、海について学び、考えるきっかけを届けている。深く探究する場と、広く伝える場。その両方から、海への好奇心を次の世代へと広げている。

さかなクンが語る
“ギョ感”を育むという教育観

「どんな専門書を読むよりも“ギョ感”で得る喜びに勝るものはないです。私たちが子どもたちにできるのは、きっかけを提供すること。そこからは一人一人の感受性で、知的好奇心のままに進まれますから!」とさかなクンは語る。

さかなクンの教育観の原点は、自身の幼少期にあると振り返る。「自分自身が、神奈川県の綾瀬市という、海からすっギョく遠いところで育ったんです。でも、タコちゃんにどうしても会いたくて近所のお魚屋さんに行きました。ゆでダコちゃんを見て『かわいいな。次は元気な姿を見たいな』と思って、今度は水族館さんに行きました。『わあ、元気なタコちゃんに会えたぞ!』。でもガラスの壁があって握手ができない。触れられない。『じゃあ、やっぱり海だ!』と思い立ち、夏休みには房総半島に住む親戚の家に泊まらせてもらっていました。朝日とともに海へ行き日が暮れるまで海に夢中。マダコちゃんや図鑑を見て憧れていたお魚に出会えて感動が大漁!!でも時には溺れそうになって『ギョエー!』ってなったり(笑)。クラゲちゃんやハオコゼちゃんにふれてその毒によってすさまじく痛い思いをしたり。海の怖さも知りましたし、自分で生き物に触れて、『こんなにすギョい毒の威力があるんだ!』と知ることもありました。

やっぱり、自分で見て、触れて、体験して得たことってすっギョく大きいんですね。大好きになると、『もっと見たい』『もっとこの場所に行ってみたい』『もっと調べて描いてみたい』という探究心や冒険心がどんどん湧いてきて、世界が広がっていくと思うんです」。

知的好奇心から広がる
海との接点

8月には「シー ビヨンド」と「さかなクン探究隊」の特別プログラムとして、東京大学名誉教授の養老孟司らをゲストスピーカーに迎えた公開トークイベントが東京・青山の国際連合大学で行われた。テーマは、「能登の自然のひみつ」。能登に生息する生き物の生態や、震災後に自然環境に起きた変化について、子どもたちと共に学びを深めた。

さかなクンは、好奇心や探究心こそ環境保全の第一歩につながると考える。「『自然を守ろう』『自然を大切にしよう』という言葉を見聞きする機会は多いと思います。でも、何を守らなければいけないのかという事は自分の目で見て、肌で感じないことにはピンとこないと思うんです。この山にはこんな生き物がいる、この川にはこんなお魚がいる、と知れば知るほど、『こんなにたくさんの生き物が暮らしているんだ』『こんなすばらしい自然があってこそなんだ』と自然環境の尊さを知り、汚さないように壊さないようにという思いにつながります。また、震災や気候変動などにより、私たちの周りの環境の変化や深刻な事態に向き合う気持ちや行動力につながります。けど、さかなクンはお魚の世界を通して楽しい、面白い、ワクワクすることを大切にしています。そうした感情を原動力にすることで、元気に長く活動を継続できます!」。

昨年には中国・上海で開催された「シー ビヨンド」のイベントにも参加し、現地の子どもたちと交流したという。「言葉は全然通じなかったけれど、お魚の絵を描くとみんな目を輝かせて興味を示してくれました。その後、わくわくとみなさまが絵を描く様子や描いた絵を拝見しました。『海の生き物が大好き』という気持ちが伝わってきました。この知的好奇心が未来につながっていくと強く思いました」。

プラダ・グループは今「さかなクン探究隊」の活動に伴走しながら、海との接点を国や世代を越えて広げている。さかなクンは、「プラダ・グループの皆々様が、さかなクンも大好きな海の環境を大切に、壊さないようにするギョ活動を長年続けられていることに非常に感銘を受けます。その活動に私も参加させていただけることが、とても幸せです!」と語った。

PHOTO:TAMEKI OSHIRO
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