ファッション

アンドエスティは業界を超えて「出会い、つながる」プラットフォームへ 原宿のフォーラムで示した未来

アンドエスティは2月、「and ST VISION CONFERENCE 2026 with Partners」を東京・原宿で初開催した。他社のアパレル、エンタメ関連などのパートナー企業の責任者を含む約200人が参加し、音楽やカルチャー、IP、エンタメなどの領域で第一線で活躍する経営者やクリエイターらを招いてトークセッションとミートアップを実施。業界内の競合関係、そしてファッション領域の壁すら超えてつながることで新たな価値創出を目指す、これからのアンドエスティの指針を示した。

25年9月にグループとして持ち株会社制へ移行し、アダストリアからアンドエスティHDへと社名変更。そして、新たにファッション・テクノロジー・コミュニティを掛け合わせ、「買い場」から「遊び場」への進化と、買い物そのものを熱狂的な体験へと変える「リテールテイメント」の実現を目指す、アンドエスティも事業会社として設立された。社名の「アンド」が意味するのは、“つながり”だ。ファッションが生み出すワクワクを提供価値の基底に置く“Play fashion!”のミッションは不変としながら、ファッションの垣根を超え、新たなコミュニティーと接続し、商品やコンテンツも拡大しながら「服を売る」にとどまらない価値を提供していく。

カンファレンスのメインプログラムとなるトークセッションでは、アンドエスティのエグゼクティブ陣が水先案内人となり、各界のトップランナーと対談。「業界を超えてつながる」これからのアンドエスティグループの姿を示唆した。

キャラクターIP、音楽、若者カルチャー
トップランナーとトークセッション

第1セッションに登壇したのは、フジテレビ傘下フジ・コンシューマ・プロダクツ COOの北村彰啓氏だ。ウォルト・ディズニー・ジャパンで長年、ライセンスビジネスや小売、プロモーションなどを歴任した北村氏は、まさにIPビジネスのスペシャリスト。2023年にフジテレビグループに加入すると、広告収入に次ぐ柱としてキャラクタービジネスを育成すべく、翌年設立されたフジ・コンシューマ・プロダクツのCOOに就任。国民的キャラクターである“ガチャピン”と“ムック”の誕生日である4月2日を記念日とし、さまざまなモノ・コト施策を実行してきた。今年の4月もアンドエスティのブランドとのコラボアパレルや原宿の「アンドエスティ トーキョー(AND ST TOKYO)」でのイベントも計画している。同氏曰く、「“ガチャピン”は挑戦や友情、創造性の象徴であり、世の中の頑張る人を応援する存在。世界中が笑顔でいることを願うブランドであり、そこから逸脱することは決してしない」。IPビジネスでマーケットを動かすためには、単なるキャラクタービジネスではなく「ブランド」を作る意識、そして「何をメッセージとして伝えるか」が大切であると語った。

第2セッションには、世界的アーティストが所属するレーベルであるワーナーミュージックの日本支社、ワーナーミュージック・ジャパンの岡田武士代表取締役社長兼CEOが登場した。日本の音楽業界でもデジタル化が進み、ストリーミングが大きく普及した一方、「再びフィジカルの魅力や体験価値が改めて注目され始めている」と岡田CEO。日本のアイドルなどの楽曲でみられる「握手券付きのCD」などファンを熱狂させる設計に再び脚光が当たっており、ワーナーミュージック各国の幹部が学びを求めて日本を訪れているという現状に触れた。また岡田氏は、海外アーティストたちの日本のファッションへの関心の高さ「ひしひしと感じている」とし、ワーナーミュージックとアンドエスティが手掛ける音楽×ファッションのプロジェクト「ハラジュクディップ(hrjkdip)」の取り組みにも非常に前向きな考えを示した。「どこででも購入できるTシャツを販売するのでは意味がない。われわれが管理するライツ(権利)をフル活用して、真に掛け算となるような、ストーリー性のある仕掛けができたら面白い」。

第3セッションは、渋谷区観光協会の金山淳吾代表理事をファシリテーターに、Z世代向けショートドラマ制作を手掛けるHA-LUの岡春翔代表取締役社長、クリエイティブエージェンシー・アマネーションの小島純矢代表取締役らが登壇。原宿の「アンドエスティ トーキョー」のインフルエンサーたちと共に、渋谷・原宿という街が常にカルチャーの発信源である理由や若者たちが生み出すファッションについて語り合った。

小島氏は渋谷や原宿について、「感性も個性も受け入れてもらえる場所。未完成であっても、自分に正直でいれば必ず他と共通点を見つけられて、やがて小さなコミュニティーから新しいものが生まれていく」と考えを述べた。また若者の間での“おしゃれ”の定義や感覚の広がりについても指摘し、「ファッションや音楽だけでなく、空間やシールなどにも「おしゃれ」と感じる若い子は多いのでは。各世代で言葉の定義が変わってきているのが面白い」と語った。

一方、岡氏は渋谷・原宿のイメージについて「原宿は創る人が、渋谷は拡散する人が多いイメージ。原宿に行くとこれから流行るトレンドの前兆が見れて、渋谷でそれがムーブメントとして拡散されている」と分析。最近のトレンドについては、SNSなどの肌感覚から、「平成・昭和と体験を掛け合わせたコンテンツはすごく“きている”感覚がある」とし、「アンドエスティのリアル店舗とHA-LUならではのデジタルクリエイティブを掛け合わせたショートドラマを作りたい」と話した。

変革の旗手はアンドエスティ
櫻井CEOが語った構想

競合や業界といった垣根を超えてつながる、アンドエスティのこれからの企業像を示唆した今回のカンファレンス。変革の旗手となるのは、中核事業会社・アンドエスティだ。カンファレンスでは同社の指揮を執る櫻井裕也CEOが登壇し、具体的な構想に触れた。

櫻井CEOが語ったのは、リアル店舗とECを単なる販売チャネルではない、“究極の遊び場”と形容する刺激的なプラットフォームに変えていく構想だ。「AIの進化により、AIが⼈に代わって買い物をする未来がすぐそこまで来ている。しかし、世の中が便利になればなるほど、⼈は『空いた時間をどうワクワク過ごすか』、つまり情緒的な価値をこれまで以上に求めるようになる。そんな未来において私たちが⽬指すのは、世界で類をみない、『熱狂とワクワクが集まるプラットフォーム』を創ることだ」。

「洋服を作って売る」だけではなく、ゲームや動画などのエンタメコンテンツをさらに拡充し、時間を忘れて夢中になれるような体験をリアル・デジタルの両⾯から⽣み出していく。それがアンドエスティの描く、リテール(小売)とエンターテインメントを融合させた“リテールテイメント”だ。「単にモノを買うだけの場所ではない。朝・昼・夜、ワクワクを求めて、真っ先に『アンドエスティ』に訪れたくなる。『アンドエスティ』があるから、毎⽇が楽しい。そう本気で思っていただける場所を作り上げたいと考えている」。

公式WEBストアをオープン化
モールから広げるB2B事業

そのような構想の下、公式WEBストア「アンドエスティ」は、他社ブランドの出店誘致を積極化し、オープンモール化を進めている。「グループの垣根を超えて様々な企業と手を組み、新しい価値を創出する」と櫻井CEO。昨年秋にはユナイテッドアローズ、ジュン、ニューバランスジャパン、アイシーエルの出店が決まったことが呼び水となり、ファッションだけでなくビューティやスポーツ、フード、といった多様な取引先が集い、現在は計53ショップが出店(26年2月期末時点)している。

さらに、グループのリソースを活用した新ブランド、商品、空間などのプロデュース、システムソリューションの外販といった、単なる「モールと出店者」の関係にとどまらないB2Bビジネスの拡大や、メディア化を目指す。2030年までにECの流通総額(GMV)は1000億円(26年2月期は462億円)、アクティブ会員は1100万人(同780万人)を計画する。

原宿旗艦店が示す未来形
“人”を生かすメディアストアへ

リアル店舗も、顧客体験のあり方をさらに進化させる。今後のアンドエスティが目指す店舗のあり方を体現するのが、25年4月に開業した原宿の旗艦店「アンドエスティ トーキョー」だ。同店は、物販のみを目的としない“メディアストア”をうたい、自社ブランドの販売にこだわらない可変的な売り場が特徴。売り場の3割程度を外部ブランドのポップアップ区画とし、アニメやマンガなどキャラクターIPのコンテンツと自社ブランドとのコラボレーションを繰り広げながら、何度も足を運びたくなる店舗を作る。

櫻井CEOはさらに、自社の会員ポイントプログラム「アンドエスティ ポイント」を起点とする独自の“経済圏”の構想も示した。「楽しさを⽀える、最強のインフラを築く。これまで、NTTドコモや楽天、みんなの銀⾏とのパートナーシップやアンドエスティカードの提供により、独自の“経済圏”としての魅⼒を着々と高めてきた。今後は『アンドエスティ ポイント』を貯める・使うだけでなく、誰かにプレゼントしたり、応援したりする機能を付加することによって、持っているだけで毎⽇が楽しくなる、ワクワクする通貨に進化させていきたい」と語る。

「そして私たちは、“人”と“情”が通い合うコミュニティー作りにも挑戦する。私たちが何より⼤切にしているのは“⼈”、つまり販売スタッフの皆さんの⼒。(スタッフ4400人が参加するスタイリング投稿サービス)『スタッフボード』からは、すでにすばらしい変化が⽣まれている。 スタッフに共感したお客さまがファンになり、さらにファン同⼠もつながっていく。この熱量を、もっと⽣み出したい。アンドエスティに集まるすべての⼈を、濃く、深くつなげる、新しいコミュニティー構想を本格始動させる」。

総フォロワー数が1500万人を突破した販売スタッフたちは、「服を売る」以外にも活躍の場を広げ、ファンとの繋がりを強めていく。それぞれの“好き”を起点に様々なモノ、コト、サービスを共創して提案。「スタッフボード」とも連携し、人気スタッフが企画したアイテムのフォーカス、来店・接客イベントなども実施する。さらにデジタル会員データとの連携によるリコメンドやパーソナルスタイリングなどパーソナルな価値提案を強化。「アンドエスティ」に集まるファン同士も繋がることで、熱量の高いコミュニティーを作る。

「アンドエスティを世界に類を⾒ない、唯⼀無⼆の プラットフォームにする。『アンドエスティで毎⽇が楽しくなった』という声が、世界中にあふれる未来を作り上げたいと思っている」。櫻井CEOは、そう力強く宣言した。さまざまなプレイヤーを巻き込みながらエンタメを共創し、新しいワクワクを発見できる場として店舗・ECを進化させ、スタッフたちの“好き”の熱量でファンを繋いでいく。これまでの業界の既成概念を超えた「ファッションプラットフォーマー」を目指すアンドエスティの挑戦はこれからだ。

PHOTO:AI OKUBO
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アンドエスティ