
カラーコンタクトレンズ(カラコン)市場が盛り上がりを見せている。10〜20代の若年層だけでなく、30代以上の大人層からも支持を受け、身だしなみに欠かせない“目元のコスメ”として定着している。ANWは、前身であるアジアネットワークスとして、国内カラコン市場の黎明期だった2005年にカラコンの販売を開始。数々のヒットブランドを手掛けてきたパイオニア的存在だ。自社ブランドとして展開する「アンヴィ(envie)」は、ナチュラルに瞳を演出する近年の大人向けカラコンブームをけん引。4月には、同社初の旗艦店を東急プラザ銀座にオープンした。店内は連日、訪日外国人客でにぎわい、売り上げは計画比94%増(5月末時点)と大きく伸びている。ANWの清水正代表取締役会長に、人気の理由を聞いた。
カラコン市場創成期、
平成ギャルの間で一躍話題に
PROFILE:(しみず・ただし)1973年生まれ、福岡県出身。2003年にカラーコンタクトレンズのOEMを主力事業とするアジアネットワークスを設立。カラコン事業者が異端だったコンタクトレンズ業界で基盤を確立。16年にコンタクトレンズブランド「アンヴィ」などを展開するANWを設立。直近は次世代テクノロジー領域にも進出し、22年にWeb3ビジネス支援を行うBSMOホールディングスを立ち上げる PHOTO:TAMEKI OSHIRO
WWD:カラーコンタクトレンズ事業を始めた経緯は?
清水正 ANW代表取締役会長(以下、清水):1990年代〜2000年ごろは、日本で販売されているカラーコンタクトレンズといえば、瞳を赤や青に変えるコスプレ用が中心だった。2000年代初頭に韓国でファッションレンズが登場すると、日本でもトレンドに敏感な層の間で話題になり始めた。私が日韓でエンタメ関連のウェブマーケティング事業を手掛けていたことから、日本のビューティ関係者から「韓国のカラコンを日本でも販売したい」と相談され、それに応じる形で輸入販売に乗り出すことになった。03年に当社の前身であるアジアネットワークスを立ち上げ、05年にビューティ事業者のT-Gardenと共にカラコンブランド「エンジェルカラー(AngelColor)」を手掛けることになったのが始まりだ。
WWD:日本国内でブームに火が付いたきっかけは?
清水:当時は雑誌の読者モデルやタレントプロデュースによるブランドがはしりの頃で、「エンジェルカラー」のデザインプロデュースとイメージモデルに益若つばささんを起用したときは反響が大きかった。販路はほぼオンラインのみだったにもかかわらず飛ぶように売れて、2年ほどは社員と一緒に自ら箱詰めをして発送する日々だった。次第に競合ブランドが増え、数えきれないほどになっていった。
当時は国内に流通するカラコンのほとんどが韓国製で、当社は当時、日本のカラコンブランドの多くをOEMで請け負い韓国の工場で製造していた。そして07年ごろ、カラコンブームに注目したドン・キホーテの実店舗で販売することになり、当初は店舗を絞った展開だったが、雑誌「小悪魔アゲハ(ageha)」や「ナッツ(nuts)」などいわゆる“ギャル”向けの媒体への露出との親和性が奏功し、爆発的な売れ行きを記録した。棚の面積はすぐに増え、カラコンは1つのカテゴリーとして確立していった。ドン・キホーテで取り扱ってもらえたことは、今日の日本のカラコン市場を語る上で大きな転機になった。
WWD:事業が拡大する中で、苦労や壁はどこにあったか。
清水:国内でカラコンが流行り市場が拡大し始めたころ、取り扱い事業者が増え、粗悪な製品が出回るようになった。そのため、メディアからカラコンは目に悪影響があると取り上げられるようになってしまった。それまでは順調だったが、「カラコン=目に悪」というレッテルを貼られてしまい、一時期に売り上げが落ち込んだ。09年には、コンタクトレンズの分類が視力補正の有無にかかわらず雑貨から高度管理医療機器に変更され、それが結果的に追い風になった。このときに当社は第一種医療機器製造販売業許可・高度管理医療機器販売業許可を取得できたが、取得を断念し撤退した事業者も多かった。
市場拡大に伴い「アンヴィ」が
大人向け新ジャンルを確立
WWD:「アンヴィ」開発における背景は?
清水:開発当初から、20代でカラコンを使い始めた層が30代になっていることに着目し、“大人カラコン”を打ち出し、新たなブランドポジションを目指した。当時のブランドミューズである梨花さんの存在も相まって、大きな話題を呼び、好スタートを切ることができた。当社はOEM事業で成長してきたが、カラコン市場が拡大し競合が増える中で、それまでに培ったノウハウを生かした新しいビジネスが必要だと考えていた。そこで、OEM製造していた「アンヴィ」を19年に事業買収し、自社ブランドとして再始動することになった。
WWD:その後、訪日中国人客からも支持を集めるようになる。
清水:「アンヴィ」を自社で展開し始めたころは、日本にインバウンド客が押し寄せていた時期で、彼らが日本ブランドのカラコンを買い求めるようになっていた。他社は17年ごろから続々と中国進出を始めていた。当時の「アンヴィ」は、日本でしか買えないこともあり、国内ドン・キホーテでもインバウンド需要により爆発的にヒットしていた。だが20年にコロナ禍に入ると、その売り上げが大きく落ち込んだ。特に、中国でロックダウンが実施された際の売り上げの減少幅が、他ブランドと比べて極端に大きかった。これを受けて、中国進出を本格的に開始し、20年4月に大手ECの「Tモール国際(TMALL GLOBAL)」にオフィシャルショップを開設した。
中国で爆発的ヒット、
銀座旗艦店でさらなる飛躍へ
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WWD:中国進出が成功した理由は?
清水:先に進出した日本のブランドを見ると、中国の卸問屋に流通販売を任せてしまったことにより値崩れが起こり、日本で購入するより中国で購入した方が安いという現象が起きていた。「アンヴィ」はブランドの価値を守るため、販売チャネルを厳選し、パートナーと連携した販売戦略を取ることにした。日本では1箱10枚入り1760円のところ、中国では日本の価格の1.2〜1.3倍(約2200円)程度で流通している。パートナーと共に販売チャネルやブランディングの戦略を展開することにより、ラグジュアリーブランドとして富裕層やKOLからも評価され、その結果売り上げも拡大した。「Tモール」で毎年開催される中国最大のショッピングイベント「独身の日(シングルデー)」では、22〜24年の3年連続で越境コンタクトレンズ・ケア用品カテゴリーで売上高1位※を記録している。
WWD:今年、東京・銀座に旗艦店をオープンした狙いは?
清水:中国をはじめアジアを中心に海外で評価されるようになったことで、旗艦店の必要性を感じた。日本で最もラグジュアリーブランドが集まる銀座は、グローバルブランド「アンヴィ」の世界観を体験してもらう場所として最適だと考えた。4月にオープンし、5月は購入者の約7割が免税対象となるほど、訪日観光客を中心に来店いただいている。海外ではECやSNSでしか知ることができなかった「アンヴィ」の製品を、「実際に着けて試せる」「安心して選べる」として評価されている。旗艦店の4〜5月の売上高は計画比94%増を記録し、ブランドの年間売上高も前期比20%増を見込んでいる。この旗艦店により、「アンヴィ」のブランド体験を直接提供できる環境が整い、国内外の顧客からの信頼性向上にもつながっている。
Web3化と実店舗の両輪で
世界ブランドを目指す
WWD:今後の出店および製品展開の計画は?
清水:国内においては、来年1店舗を出店する予定だ。また、年内に香港、韓国での発売が決まっている。台湾、フィリピン、マレーシア、タイ、シンガポール、中東、ヨーロッパ、北米でも発売準備を進めており、来年以降、準備が整い次第、順次展開していくつもりだ。「アンヴィ」全体で、売上高を3年で2倍に伸ばしていきたい。
WWD:グローバルブランドを目指し、成長戦略をどう描くか?
清水:日本におけるカラコン市場は既にレッドオーシャン化している。「アンヴィ」の競争力となるオリジナリティーは、いかにグローバルな支持を集められるかが鍵になる。その上で、近年注目を集めるブロックチェーンの活用は必須と考えており、数年前からWeb3化の準備を進めてきた。現在、自社Web3プラットフォーム「ポンピッシュ(PONPISH)」を開発中で、年内のローンチを目指している。ブロックチェーンの活用により、グローバルな顧客接点の構築と、Z世代をはじめ次世代消費者層へのエッジの効いたマーケティングが可能になる。既存のSNSマーケティングと掛け合わせた先進的な市場開拓にチャレンジし、新時代のカラコンブランドとして成長していきたい。
住所:東京都中央区銀座5-2-1 東急プラザB1F
営業時間:11:00〜20:00
ANW
03-6407-1669