
ルミネと米「WWD」は2月24日、「WWD オンライン リテール 2021 フォーラム」を開催した。日本のファッション・小売業界の活性化に向けて、国際色豊かなゲストスピーカーによる最新の知見を提供した。今に対処するだけでなく一歩先の未来を考えるきっかけづくりに生かしてほしいとの願いを込め、ほとんどのセッションは3月26日までオンデマンドで視聴可能だ。
当日は編集部も、新しいアイデアや考えを楽しみに視聴した。登壇者はそれぞれの視点からサステナビリティやモノづくり、イノベーションなど、幅広いテーマについて語った。独自のオンライン戦略や小売りの活性化計画を通して、新型コロナのパンデミック前以上に「より良い社会」を見据えて動き出している。業界の最新ニュースを届ける1メディアとして、ファッション・小売業界の活性化のために企業の取り組みや情報を正しく・広く伝えることの必要性を実感。改めて、業界が抱える大量生産・消費・廃棄を生んでいる社会構造の変革に向けて、共に在りたいと思った。
語られていた内容をもとに、フォーラムを理解するキーワード、「体験とつながり」「「パーパス(存在意義)」「”賢い“消費」「2次流通(セカンドハンド)」の4つを設定した。キーワードごとに第1弾と第2段に分け、各セッションの一部を紹介しながら参加企業の声や今後の展望をレポートする。
“賢い”消費
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山井梨沙(やまい・りさ)/スノーピーク社長。スノーピーク創業者の祖父・山井幸雄、代表取締役会長の父・山井太に次ぐ同社の“3代目”。2014年、アパレル事業に着手し、スノーピークが培ってきた「ないものを作るDNA」を受け継いだモノづくりを次世代のフィルターを通し発信する
山井梨沙/スノーピーク社長
食や旅は多くの企業や団体が地方創生に取り組んでいるが、洋服にだけ地域産業としてのスポットが当たっておらず、その土地の暮らしを支えてきた職人技や工場が衰退している。そこで2018年、地域の声を継承し、地元の発展を願ってローカルウエアプロジェクトを発足した。本社では製造工程をたどる体験型ツアーも開催し、消費者を迎えた。ファッションに携わる業界人には「皆さんは、関わる人たちに良い影響を与えていますか?」と問いたい。明確な答えがあるような問題ではないが、豊かな地球を取り戻すため、アパレル業界全体で何ができるか考えたい。自然と文明社会をバランス良く意識して、“野生と共生”するべきだ。
マーク・ウォーカー(Mark Walker)/アウターノウンCEO。サーフカジュアルなデザイン性だけでなく、サステナブルな素材や生産工程を採用してアイテム開発を行うアウターノウンのトップを務める。機能性とデザイン、サステナビリティの全てにおいて最高品質を目指す。もともとはプロサーファーであり実業家のケリー・スレーターが立ち上げ、2017年3月にCEOとしてウォーカー氏が入社
マーク・ウォーカー/アウターノウンCEO
「アウターノウン(OUTER KNOWN)」は素材の循環性を意識し、「プリファード・ファイバー(優先繊維)」を定義。オーガニックコットン製のシャツのボタンには現地の人が拾い集めたナッツを使用し、「看板商品」と呼べるほどのヒットにつながった。2018年には水をミスト化することで、デニムの生産時における使用量の削減に成功。30年までに100%循環型のブランドに進化することを宣言したところで、新型コロナウイルスのパンデミックが世界を襲った。感じる変化は、「必要なもの」と「欲しいもの」の違いが明確になり始め、これまでより少ない品々に囲まれて暮らす生活者が増えたこと。賢く買い物をしたい消費者が増えるのは、私たちにはありがたいことだ。
ジル・スタンディッシュ(Jill Standish)/アクセンチュアリテール部門シニア・マネジング・ディレクター兼グローバルリード。米「WWD」の“ビジネス業界の女性リーダートップ20”や「リテール・リーダー・マガジン」の“小売業界で注目するべき女性”、「コンサルティング・マガジン」の“コンサルタントトップ20”に選ばれた。小売販売をはじめとしてマーケティング、コンサルティングなどの業界で20年以上の経験を積んだ。現在はダブリンを拠点とするコンサルティング会社、アクセンチュアのグローバル小売部門を統括する
ジル・スタンディッシュ/アクセンチュア リテール部門シニア・マネジング・ディレクター兼グローバルリード
消費者の期待や要求は常に変化していると気付くことが大切だ。パンデミックがしばらく続いた今、人々は少しでも不便なことがあれば、より良いサービスを提供しているほかの小売りに行ってしまう。消費者目線でのデジタル化をさらに進めるなど、状況にうまく適応できているかどうかが厳しく選別される段階に入った。経済的な不安も大きいため、消費者はより意識的な消費を心掛けている。社会的および環境的な問題に対する意識が高い若年層はもちろん、中年以上の世代でも、自分の価値観に合う企業やブランドの商品を購入したいと考える人が増えた。これらに対する取り組みと同時に、今後はターゲットに届く形で発信することも非常に重要だ。
2次流通(セカンドハンド)
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ヘロン・プレストン(Heron Preston)/「ヘロン・プレストン」デザイナー。2016年9月に自身の名を冠したストリートブランド「ヘロン・プレストン」を設立。「ハイプビースト」が選ぶ業界に影響を与えた100組“HB100”や、アメリカファッション協議会が選ぶ19年のエマージング・デザイナー・オブ・ザ・イヤーにノミネートされている
ヘロン・プレストン/「ヘロン・プレストン」デザイナー
「ヘロン・プレストン(HERON PRESTON)」の使命は、アイテムにストーリーを与えることや、洋服を循環させること。そこでリサイクルやアップサイクルに目をつけた。廃棄処理などを行うニューヨーク市衛生局の職員から洋服を集め、オリジナルデザインを加えたコラボプロジェクトを進めた。世界中で売れることを目指すのではなく、本来ならゴミとして捨てられるものに新しい命を注ぐことを目標に、チームと対話を重ねた。当時はこの分野で世間より進んでいたように感じていたが、新型コロナの影響もあってわれわれと同様に高い意識を持つブランドも増えた。消費者もサステナビリティを優先事項とする転換期を迎えているはずだ。
ジェームス・ラインハルト(James Reinhart)/スレッドアップCEO兼共同創業者。ファッション産業による環境負荷の軽減を目標に、古着売買サイトを運営するスレッドアップを共同で創業。自社のネット運営に加えて小売店やブランド向けプロジェクト「リセール・アズ・ア・サービス(RAAS)」を開始。米百貨店の「メイシーズ」や「J.C.ペニー」とパートナーシップを結び、売り手と買い手の橋渡し役を通して循環型ファッションの定着を目指す
ジェームス・ラインハルト/スレッドアップCEO兼共同創業者
売り手の手間をなくし、買い手の不安をなくす仕組みを作れば、価値ある物が流通すると考え、スレッドアップ(THREDUP)を2009年に設立。当社のミッションは、“2次流通ファースト”な消費者を増やすこと。これは全て中古で購入せよという意味ではなく、新しいドレスやスーツ、スキーウエアが必要な際、まずリセールショップを見てみようという環境にしたい。若年層を中心に、消費者の意識はここ数年で大きく変化した。かつて、サステナビリティは「買った物が環境にいいならなお良し」というオマケのような扱いだったが、現在は「環境負荷の少ない物を探して買う」と優先順位が逆転し、そうした観点から古着を選ぶ人も増えた。
ルミネの展望
森本雄司(もりもと・ゆうじ)/ルミネ社長。1954年生まれ。東日本旅客鉄道で要職を歴任したのち、2017年に現職に就任。ルミネの企業理念「the Life Value Presenter お客さまの思いの先をよみ、期待の先をみたす。」を基に、買い物の先にある新たな価値の提供を目指す
今回のフォーラムでは、「ポストコロナ時代に向けての小売りの未来」「サステナビリティ」「企業価値について」など、われわれが向かうべき道について示唆に富んだ内容を聞くことができました。このフォーラムを契機として、さまざまな顕在的、潜在的な課題に対して議論を深化させ、ご参加いただいた各企業やブランドが多様に進化していくことを期待しています。結果、業界全体が活性化して、ひいては日本全体の活力につながれば、と考えております。
米「WWD」が
日本のファッション・
小売業界に期待すること