
ルミネと米「WWD」は2月24日、「WWD オンライン リテール 2021 フォーラム」を開催した。日本のファッション・小売業界の活性化に向けて、国際色豊かなゲストスピーカーによる最新の知見を提供した。今に対処するだけでなく一歩先の未来を考えるきっかけづくりに生かしてほしいとの願いを込め、ほとんどのセッションは3月26日までオンデマンドで視聴可能だ。
当日は編集部も、新しいアイデアや考えを楽しみに視聴した。登壇者はそれぞれの視点からサステナビリティやモノづくり、イノベーションなど、幅広いテーマについて語った。独自のオンライン戦略や小売りの活性化計画を通して、新型コロナのパンデミック前以上に「より良い社会」を見据えて動き出している。業界の最新ニュースを届ける1メディアとして、ファッション・小売業界の活性化のために企業の取り組みや情報を正しく・広く伝えることの必要性を実感。改めて、業界が抱える大量生産・消費・廃棄を生んでいる社会構造の変革に向けて、共に在りたいと思った。
語られていた内容をもとに、フォーラムを理解するキーワード、「体験とつながり」「「パーパス(存在意義)」「”賢い“消費」「2次流通(セカンドハンド)」の4つを設定した。キーワードごとに第1弾と第2段に分け、各セッションの一部を紹介しながら参加企業の声や今後の展望をレポートする。
体験とつながり
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小泉智貴(こいずみ・ともたか)/「トモ コイズミ」デザイナー兼創業者。2011年、大学在学中に自身のブランド「トモ コイズミ」を設立。スタイリスト兼「ラブ」編集長のケイティ・グランドの目に留まったことをきっかけに19年2月、ニューヨーク・ファッション・ウイークで初のショーを開催。20年度「LVMH ヤング ファッション デザイナー プライズ」ファイナリスト
小泉智貴/「トモ コイズミ」デザイナー兼創業者
2020年はビジネス拡大を目指し、多くのコラボレーションを行った。9月のミラノ・コレクションでは「エミリオ・プッチ(EMILIO PUCCI)」にゲストデザイナーとして参加した。「サカイ(SACAI)」とはフリルバッグなどをメインに協業し、互いの個性を引き出しつつ、かわいいものが作れた。いい意味で予想を裏切るような、相乗効果があるコラボであれば、今後も取り組みたい。現在はコロナ禍で希望を持ちにくい世の中になっているし、才能があっても作品を見せる場がないケースも多い。ファッションブランドとしての仕事以外にも、学生や若手デザイナーなど次世代を担う人材を応援するシーンができないかと思い、少しずつ動き出している。
タル・ズヴィ・ナサネル(Tal Zvi Nathanel)/ショーフィールズCEO兼共同創業者。小売販売の新しい形を模索して2018年12月、ショーフィールズをオープン。“世界一面白い店舗”とうたう店内にはネットで直接製品を販売していたブランドが複数集まり、資金や規模の問題で実店舗を出せなかったブランドが出店することによって顧客と触れ合える空間になっている
タル・ズヴィ・ナサネル/ショーフィールズCEO兼共同創業者
小売りは、まだ死んではいない。だが、退屈になったのは事実だろう。理由は、ことリアル店舗は、完成までに膨大な時間とコストを要するから。そこでショーフィールズ(SHOWFIELDS)は、出店までのプロセスを簡素化した。ニューヨークやマイアミの店舗では、出店してほしいブランドに招待メールを送信。契約書の締結も、取引口座の開設も1クリックで完了する。人材の確保や店舗デザイン、それにまつわるコストもショーフィールズが解決する。1500〜1万5000ドル(約15万9000〜159万円)という予算の範囲内で、店舗デザインはプールする200人以上の外部アーティストと共に進め、スタッフも手配する。パンデミックの状況下では、顧客中心のECデザイン「Cコマース」を心掛けた。「マジック ワンド」というアプリも開発し、店舗やEC、SNSで、400のブランド、100万人の消費者とつながった。日本では年末、東京にショーフィールズを構える計画だ。
アン・ピッチャー(Anne Pitcher)/セルフリッジ マネジング・ディレクター。“賢く買って変化につなげよう”をモットーにサステナビリティ戦略を展開し、2016年にはグローバルデパートメント・ストア・サミットで受賞。19年から現職を務める
アン・ピッチャー/セルフリッジ マネジング・ディレクター
近年の小売業界は、頭でっかちでハートが足りない。あまりに金融主義になってしまった。小売りを再考する上での5つのカギは、①体験②お客さま③目的地④人材⑤商品。便利になった世の中でも小売りが提供できるものは、社会的・人間的体験である。ECも同じで、小売業として体験とつながりを生むことに集中するべきだ。セルフリッジ(SELFRIDGES)は2025年までに買い物の方法を変えることを目標に掲げている。レンタルを可能にし、ビューティ製品の詰め替え販売も実施した。お客さまと、環境問題に取り組むアクティビストをつなげるフォーラムも主催した。
パーパス(存在意義)
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ダグ・スティーブンス(Doug Stephens)/リテール・プロフェット創業社長。小売りコンサルタントのリテール・プロフェットを創業し、ウォルマートやグーグル、BMWなどにも影響を与えるテクノロジーや消費者動向などにおけるメガトレンドを踏まえた考察を展開する。2021年現在、3作目となる「小売復活―コロナ後の世界における小売業の未来(未訳)」を執筆中。著書にはベストセラーとなった「小売再生―リアル店舗はメディアになる」などがある
ダグ・スティーブンス/リテール・プロフェット創業社長
ポジショニングの再考が必要だ。パーパスに従い、ブランドや企業を再定義する必要があるだろう。例えば今消費者が「ナイキ(NIKE)」のスニーカーを欲するのは、どんな困難にも立ち向かい、それを乗り越えるパワフルなストーリーが私たちを鼓舞してくれるから。われわれの定義する10のアーキタイプ(原型)でいうと、①ストーリーテラー・ブランドの代表例だ。「パタゴニア(PATAGONIA)」は消費者に買い物しすぎないように説き、修理や再販さえ勧めている。「どの小売店が、私たちの価値観に合っているのだろうか?」を考えるときに候補に挙がる②アクティビスト・ブランドだろう。世界中の面白いものを探し回り販売してくれる「ネイバーフッド グッズ(NEIGHBORHOOD GOODS)」は、③テイストメーカー・ブランド。おもちゃを楽しむ場さえ提供する「キャンプ(CAMP)」は④アーティスト・ブランド。AIまで駆使してどこよりも早く次の時代を見抜く「スティッチ フィックス(STITCH FIX)」は、⑤千里眼的ブランド。米百貨店ノードストローム(NORDSTROM)のように最高のサービスが受けられるのは⑥コンシェルジュ・ブランド。そして特定のカテゴリーで信頼されている「ホディンキー(HODINKEE)」は、⑦オラクル・ブランド。ダイソン(DYSON)やテスラ(TESLA)のように最高のプロダクトを提供するのは、⑧エンジニアブランド。ルックスオティカ(LUXOTTICA)のように小売りからブランドまでを保有して自分たちの周りにいくつもの堀を築いたのは、⑨ゲートキーパーブランド。そして、ゲートキーパーブランドに立ち向かう「ワービーパーカー(WARBY PARKER)」ような⑩レネゲート・ブランド。これらのいずれかに進化する必要がある。
ロマン・ガイヤード(Romain Gaillard)/ザ・デトックス・マーケットCEO兼創業者。友人が乳がんを患ったことをきっかけにセルフケアを提唱する美容方法の足りなさを実感。2010年にザ・デトックス・マーケットのポップアップショップをオープン。この出店が反響を呼び、11年には旗艦店をハリウッドに構えて、ブランドを正式にスタート
ロマン・ガイヤード/ザ・デトックス・マーケットCEO兼創業者
体と環境に優しいクリーンビューティを扱うザ・デトックス・マーケット(THE DETOX MERKET)を2010年に創業した。ECでも店舗と変わらない体験を届けるため、われわれは全ての情報を消費者に開示し、アプリを通してカスタマーサービスを提供。加えて自動型提案エンジンを導入した。これからの小売りでは、ポップアップストアの活用や店舗のパーパスの見直しがますます重要になる。店舗は、販売だけでなくコンテンツ作りにも最適な場所。店内ではスタッフはそれぞれが優秀な演者で、お客さまは皆インフルエンサーだ。ビデオコンテンツを視野に入れ、デジタルと融合した小売店舗の活用方法・役割を見直すべきだ。
参加企業インタビュー当事者として何を思う?
竹田光広(たけだ・みつひろ)/ユナイテッドアローズ社長。1963年4月13日生まれ。福岡県出身。大学卒業後、兼松江商(兼松繊維)入社。2004年、欧米輸入製品部部長に就任。05年ユナイテッドアローズに入社し、部長、本部長、上席執行役員、取締役、常務執行役員、副社長執行役員などを経て、12年4月から現職
ファッション産業全体が世界レベルで抱えていた社会問題を当事者として正しく認識し、学ぶことができたらと期待して視聴しました。問題に対する迅速な対応の必要性と、課題解決の実現に対する責任を感じています。業界に携わる全ての方々と共感を生むことで、課題やビジョンは業界での共通認識となり、結果、活性化につながります。幅広いテーマを多角的に捉えていて、さまざまな刺激をいただきました。
これからのファッションについて、
考えや心持ちはどう変化した?
佐々木進(ささき・すすむ)/ジュン社長。1965年生まれ。アメリカ留学後、四方義朗氏が率いるサル・インターナショナルで国内外のファッションショーの演出や選曲に携わる。89年 ジュンに入社。「アダム エ ロペ」ほか、「A.P.C.」のオンリーショップなども立ち上げる。98年、常務に就任。2000年9月から現職
世界の変化の潮流や事例、知見を聞いて、これからの戦略の参考にしたいと思いました。主催のルミネおよび米「WWD」にはこれら最新事例を、参加者を巻き込んで実現することを期待しています。アパレル産業の根本的な課題を再認識出来たので、改革へ向けたモチベーションが上がりました。小売りに携わる方で、現状を変えたいと思っている全ての人に視聴してほしいです。
※ダグ・スティーブンス=リテール・プロフェット創業社長のセッションはご視聴いただけません。
※参加費は無料です。
ルミネ海外事業部 フォーラム運営事務局
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