ファッション

「LV」に激怒し「ドリス」に感涙 海外メディアのパリコレ賛否両論

 2020年春夏パリ・ファッション・ウイークは、ここ数年重要視されるようになったサステナブルやエシカルのムードがさらに強まり、大きな地殻変動が起きたように感じた。8月末にフランスで開催されたG7サミットでケリング(KERING)が環境負担減を目的とした「ファッション協定(The Fashion Pact)」を発表すると、パリコレ会期中の9月25日にはLVMHモエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON以下、LVMH)が環境とサステナビリティに関する新たな指針を表明した。ラグジュアリーファッション市場の二大企業の動きは、彼らが保有するブランドのクリエイションにも影響を与えたのだ。しかし、環境問題に対する真摯な姿勢が共感を得たとしても、必ずしもコレクション自体が評価されるとは限らない。

DIOR
「繰り返しに感じ退屈」
「チームは見事な仕事をした」

 パリコレ初日、「ディオール(DIOR)」は森を再現したショー会場で、ムッシュ・ディオールの妹で庭師だったカトリーヌ・ディオール(Catherine Dior)が着想源となったコレクションを披露した。マリア・グラツィア・キウリ(Maria Grazia Chiuri)がアーティスティック・ディレクターに就任して以来ミレニアル世代を引き付けて商業的に成長を続けてきたものの、今季はジャーナリストから少々厳しい評価を受けたようだ。仏ウェブメディア「ファッション・ネットワーク(FASHION NETWORK)」のゴドフリー・ディーニー(Godfrey Deeny)は、「ショーは、特にメッシュ素材によって、少し繰り返しているように感じ途中で退屈してしまった。それでもなお、サステナブルの宣言は、キウリとメゾンが正しい方向を向いていると保証するものである」とコメント。

 「ヴォーグ(VOGUE)」の名物ジャーナリストであるスージー・メンケス(Suzy Menkes)は、「ディオール」のクチュール級の手仕事の素晴らしさを詳しくつづった上で、「実際のショーでは、作品は緻密だが出来栄えは微妙」と辛口だ。「キウリの大掛かりなショーで頻繁に見られるのは、独創的なシルエットのウエアをベースに、素材を替えるという手法。少し雑に言えば、今回は独創性は少し弱く感じ、ウエラブルで売りやすいアイテムの存在感が強かった」と続ける。それでも「ストローサンダルからガーデニングハットに至るまで、チーム・ディオールは見事な仕事をしている」とたたえ、バランスがとれたクリエイションを評価。「私たち見る側は“インスタ映え”する写真をスマートフォンに収めることに慣れ過ぎた。ファッションは顧客に向けてデザインされていたことを思い出すのには時間がかかるから」とコメント。豪華で見栄えがよく、演出的に優れたショーがたとえSNSでバズったとしても、肝心なのはコレクションの独創性とコマーシャルのバランスであるというメンケスの意見に筆者は賛成である。

LOUIS VUITTON
「一歩先を行き過ぎている」
「顧客のニーズや
時代性を捉えていない」

 この2人のジャーナリストは、「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」でも同じような見解を述べた。ルーブル美術館(Musee du Louvre)での巨大スクリーンを用いた大規模なショーは、客席に使用した木材を全て再利用するというサステナブルな姿勢を見せた。ディーニーはさまざまな素材とプリントを使った巧みな組み合わせとニコラ・ジェスキエール(Nicolas Ghesquiere)のユーモアを評価しつつも、「ほとんど全てのルックが一歩先を行き過ぎている。専属スタイリストさえも必要としない、映画スターのためにデザインされた衣装のようだ。彼が『バレンシアガ(BALENCIAGA)』を率いていた頃はパリで最も重要な人物の1人だったが、今は違う」と述べ、フィナーレで長いキャットウォークを歩いて聴衆の拍手に満足気だったジェスキエールに対して「エリートによる自己満足の雰囲気は、ショーが終わった後でさえ残った」と続ける。ここまで辛らつになる理由の一つは、ディーニーが雨をしのげる地下道を“VIP専用”として通ることを許されず、雨が降りしきる中を屋外へと続く出口へ追いやられたからだという。最後は「高ぶりは滅びに先立ち、誇る心は倒れに先立つ」と、聖書の言葉で締めくくった。

 メンケスは、ジェスキールが同ブランドを率いてきた6年間でアクセサリー、特にバッグをアイコニックに昇華させたことをたたえつつも、顧客のニーズや時代性を捉えていないことを指摘した。「ジェスキエールはモード史において深い知識を持つデザイナーだ。しかし今の『ルイ・ヴィトン』は、モード界に大きな影響を与えていない。コレクションを遠く離れたところから見ていると、何も意味を持たない物に見えた。近くで見てみると、靴やバッグは目を引くものだったけれど、ただ単純に美しい衣服とバッグというだけだ」。その他のジャーナリストにとっても「バレンシアガ」時代のジェスキエールの作品を想起させたようだが、逆にそのせいで「あの時はよかったのに」と、現在に物足りなさを感じさせる結果となってしまったようだ。

LANVIN
「女性像が軽薄」
「ロールモデルは
エルバスにすべき」

 今季「ディオール」と「ルイ・ヴィトン」以上に辛らつな批評を受けたのは「ランバン(LINVIN)」だ。ブルーノ・シアレッリ(Bruno Sialelli)がクリエイティブ・ディレクターに就任してから2シーズン目のウィメンズ・コレクションを披露した。メンケスやディーニー、仏新聞「ル・モンド(LE MONDE)」のカリーヌ・ビゼ(CARINE BIZET)、仏新聞「ル フィガロ(LE FIGARO)」のエレーヌ・ギヨーム(Helene Guillaume)らジャーナリストは、シアレッリがかつてトップデザイナーとして勤めていた「ロエベ(LOEWE)」を連想させると口をそろえた。ギヨームは「コレクションはもっと編集されるべきあり、『ランバン』の女性像が軽薄である」と指摘。ビゼも同じく「シアレッリが『ランバン』をどの方向へ導いていきたいのか、指針が不明」とコメントした。メンケスも同様の見解を述べたうえで「ロールモデルにすべきは『ロエベ』ではなく、14年間『ランバン』を率いたアルベール・エルバス(Alber Elbaz)である。素晴らしい技術でさまざまな女性に多彩なスタイルを捧げたエルバスのクリエイションに追従する方が賢明だ」と助言した。一方で、シルエットやカッティング、スタイリングにおいては評価されている。この秋冬から彼のファーストシーズンの商品が店頭に並んでいるため、この後の展開は売り上げの数字次第といったところだろう。

LOEWE
「優雅な夢のよう」
「貯金箱を壊してでも着たい」

 一方で、シアレッリの古巣である「ロエベ」は相変わらず評価が高い。今季は16〜17世紀の女性の寝具や下着から着想を得てレースを多用した、繊細でロマンチック、それでいて現代性を併せ持つコレクションを披露した。「ル・モンド」でビゼは「優雅で夢のようなコレクションは、古く陳腐な平凡さから逃れたいという女性の欲求を見事にかなえる」と表現した。「ル・モンド」のギヨームは独自の見解を示した。「衣服は、インスタグラムのフォロワーを養うために、一日に何回も頭の先からつま先まで着替えるインフルエンサーのためにあるものではない。前世紀では、例えばオペラ座へ行くための正装、ドレスルームで長時間費やすタフタドレス、(ほぼ)一生大切に着るケープ——今日、ラグジュアリーと称される多くの衣服は、目新しさと経済循環の犠牲になってきた。感情的な結びつきよりも投機的な関係を優先され、それがモードとして置き換えられた。しかし『ロエベ』のコレクションの前では、誰もが貯金箱を壊してでもジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)のコレクションを着用したいという欲求を引き出される。それは他人や自分自身の虚飾さえも調和させるのだ」。時代を超越して長く着られる、また着たいと思わせる衣服こそがラグジュアリーであり、持続可能な社会を実現するサステナブルな方法の一つだと「ロエベ」は訴えてくるようだ。「ヴァレンティノ(VALENTINO)」「アレキサンダー・マックイーン(ALEXANDER McQUEEN)」「エルメス(HERMES)」に対するレビューでも、多くのジャーナリストが同様の考えを述べていた。

CHANEL
「ココのソウルやウィットは欠落」
「非常に説得力のある
コレクション」

 「シャネル(CHANEL)」で故カール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)の跡を継いだヴィルジニー・ヴィアール(Virginie Viard)は、初のプレタポルテ・コレクションで合格点は獲得したようだ。キウリとジェスキエールに厳しかったディーニーは「謙虚な彼女はメディアが熱狂するロックスター的なデザイナーではないかもしれない。しかし印象的な仕事を成し遂げ、非常に説得力のあるコレクションを作った。ラガーフェルドも承認したはず」とコメント。一方で米新聞「ニューヨーク・タイムズ(THE NEW YORK TIMENS)」のヴァネッサ・フリードマン(Vanessa Friedman)は「若々しくて楽しく、新たな提案はあったが、勢いはなかった。創業者ココからラガーフェルドへ受け継がれたソウルやウィットは欠落している」と評価した。ユーチューバーによる乱入事件で予期せぬ注目を集めてしまったが、「シャネル」のスタイルは確かにヴィアールによって存続しており、多くの顧客は一旦胸をなでおろしたのではないだろうか。なにより、大切な師を失った失意と計り知れない重圧の中でも、彼女がオートクチュールを含め一度もショーをキャンセルしなかったことはすごいことだ。フィービー・ファイロ(Phoebe Philo)やアルベール・エルバスなど後任の噂は絶えないが、チーム・シャネルと信頼関係を築き、真面目な人柄で知られるヴィアールによる「シャネル」に筆者は期待したい。

SACAI
「軽快で明瞭で、美しい旋律」

 日本ブランドでは、「コム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS)」「ノワール ケイ ニノミヤ(NOIR KEI NINOMIYA)」に対しては文句のつけようがないと絶賛するようなレビューが多かった。新デザイナーを迎えた「イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)」と2019年の「LVMHヤング ファッション デザイナー プライズ」ファイナリストとして注目を浴びた「アンリアレイジ(ANREALAGE)」の評価も上々だった。中でも「サカイ(SACAI)」は特に好評で、阿部千登勢デザイナーの才能が再評価された。辛口で知られる米新聞「ワシントン ポスト(THE WASHINGTON POST)」のロビン・ジバン(Robin Givhan)も「阿部デザイナーが作る衣服は、プロポーションとシルエットを確実に深く考慮しなければならない。時に、彼女の知的エネルギーが衣服に痕跡を残し過ぎるあまりに重荷になることもある。しかし今季はシンプルに、陽気でクールであった。軽快で明瞭で、美しい旋律のような感じもした。一言で言えば、今までよりもファンキーでイカしている」と絶賛だ。

DRIES VAN NOTEN
「このショーを毎晩、
死ぬまで見たい」

 「ロエベ」や「シャネル」以上に今季ジャーナリストが最も歓喜したのは「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」だ。協業にクリスチャン・ラクロワ(Christian Lacroix)を迎え、情熱的で麗しく、荘厳なショーを行った。メンケスは「モード史に残る有意義なコレクション」と評価し、「ニューヨーク・タイムズ」のフリードマンは「最も純粋で創造的なコラボレーションは、目と心の出会いであることを再認識させてくれる」と述べた。仏新聞「ロブ(L’OBS)」のソフィー・フォンタネル(Sophie Fontanel)は思わず涙を流し「このショーを毎晩、死ぬまで見たい」と話し感動に浸っていた。会場に豪華なセットを設けず衣服だけでこれだけの感動を与えたコレクションは、2人の才能への敬意とともに、ファッションの夢や力強さといったポジティブな側面をあらためて感じさせた内容である。ギャラリー ラファイエット(GALERIES LAFAYETTE)やプランタン(PRITEMPS)のバイヤーは「ショーを見て“売れる”商品があるかどうか不安に感じたが、ショールームへ行くとコマーシャルピースもバランス良くそろっており、セレクションには苦労しなかった」と話した。

 ジャーナリストとしての経験は浅いながらも、ここ数年さまざまな都市へ出向きファッションを体感してきた筆者にとって、今季のパリコレのサステナブルに対する姿勢は非常に共感できるものであった。正直、これまではサステナブルという名の下で正義の押し売りをされているような、窮屈さを感じることも少なくなかった。もちろん、地球環境に負担が少なく、動物に被害もなく、生産過程において発展途上国の人々に犠牲を強いない業界へと改善してほしいし、自分もそういう選択をしたいと思い、可能な限り行動に移している。しかしサステナブルであることは、あくまでブランドにとって過程であり、目的にすべきではない。最もサステナブルなのは、そのブランドが存在せずに物を生み出さないことなのだから。一着一着に重みがあり、意味があり、長く着ることでさらに深みを増していく——筆者にとってそんな衣服こそサステナブルであり、真のラグジュアリーだ。特に、純度の高い創造性と情熱によって紡がれたラクロワとの協業による「ドリス ヴァン ノッテン」の衣服とは、一生の付き合いになりそうだと早くも胸を躍らせている。時代とともに変遷するデザイナーが多い中で、純粋さと信念を変わらずに保ち続け、自分自身の中にある自由な魂を押し殺さずに解放できる、ドリスの仕事に対する姿勢を見習いたい。おそらく今季のコレクションが筆者のクローゼットに加わったら「世間の目を気にし過ぎていないか?忖度し過ぎていないか?誠実であるか?」——そんな風に戒めてくれる、特別な一着となりそうだ。決して大げさではなく、衣服は人よってさまざまな意味を持つのだから。

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