「バレンシアガ」のランウエイを去るアレキサンダー・ワン
「バレンシアガ(BALENCIAGA)」クリエイティブ・ディレクターのアレキサンダー・ワン(Alexander Wang)が退任した。契約更新前には必ずと言っていいほど、退任の噂が出るものだが、今回噂通り、契約は更新されることなく、3年間という短い期間で、ワンは「バレンシアガ」を去ることになった。
契約更新に至らなかった主な理由は、ワンにあるようだ。「自身のブランドに専念したい」。十分な理由である。今や、ブランド2つのディレクションを両立するデザイナーは少ない。かつてブランドを刷新するための起爆剤だったクリエイティブ・ディレクターの仕事は近年、より煩雑なハードワークになっている。年2回のコレクションに加えて、プレ・コレクションの発表があり、それらのコレクションを携えて、世界の各都市でショーを行う。ITの進化により、ブランディングの必要性はインターネット上にまでも広がっている。「シャネル(CHANEL)」「フェンディ(FENDI)」と自身のブランドを切り盛りする超人、カール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)と、自らの2ブランドを統率するミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)は例外として、自身のブランドを抱えながら、他ブランドのディレクションを手掛けるのは、「ディオール(DIOR)」のラフ・シモンズ(Raf Simons)、「ロエベ(LOEWE)」のジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)など、数えるくらいで、特にLVMH傘下のブランドに多い。「バレンシアガ」と「アレキサンダー ワン(ALEXANDER WANG)」でメンズ、ウィメンズ両方を手掛けてきたワンは、実際のところ「よくやりおおせた!」というところではないだろうか。
ワンの退任を聞いて、すぐに思い出したのが、同じニューヨークデザイナー「プロエンザ スクーラー(PROENZA SCHOULER)」のラザロ・ヘルナンデス(Lazaro Hernandez)とジャック・マッコロー(Jack McCoullough)の言葉だ。「長い歴史と伝統を持つメゾンでの仕事には興味があるし、クリエイションの幅が広がるという点でその資金力も魅力だ。しかし、今の僕たちが大事に育てたいのは『プロエンザ スクーラー』であって、1年の半分を別のブランドで過ごすようになれば、必然的にそれができなくなる」。至極まっとうな意見だと、妙に納得した。
これまでデザイナーにとって、ビッグメゾンのクリエイティブ・ディレクイターに就任するというのは、莫大な契約金を得ながら、強力な資金源とメゾンのアーカイヴ、アトリエをはじめとする優秀なスタッフへのアクセスを意味するものだった。大きなプレッシャーにさらされながらも、メディアの注目も集める大きなチャンスであり、デザイナーにとって“最大の栄誉”と考えられていた時期もあった。しかし、昨今、その潮目が変わってきている。
[rel][item title="【コラム】「プロエンザ スクーラー」が設立13年! デザイナーが語るビジネスの転機と今後の展望" href="https://www.wwdjapan.com/focus/column/designer/2015-06-07/6133" img=""][/rel]
次ページ:ファッションメゾンの近年の動きとは?▶
大きな契機になったのは、マイケル・コース(MICHAEL KORS)の上場だ。2004年に「セリーヌ(CELINE)」のデザイナーを退任し、投資家のサイラス・チョウとローレンス・ストロールのバックアップのもと、自身のブランドに専念。マイケル・コース ホールディングスは11年に上場したが、以来、株価が上昇し続け、その後2年で3倍以上にまで達して、大きな話題を集めた。これを受けてか、マーク・ジェイコブス(Marc Jacobs)は「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」のウィメンズ・アーティスティック・ディレクターを退任し、上場目指して、自身のブランドに専念している。
[rel][item title="【インタビュー】マーク・ジェイコブス、「ルイ・ヴィトン」を去った後の心境" href="https://www.wwdjapan.com/focus/interview/designer/2014-08-04/274" img=""][/rel]
特筆すべきは、これまでファッションについては素人であることが常だった投資会社が、近年、ファッション業界で活躍したベテランを招聘していることだ。ロベルト・カヴァリ(ROBERTO CAVALLI)を買収した投資会社、クレシドラ(CLESSIDRA)には元ブルガリCEOでLVMHウォッチ&ジュエリー会長を務めたフランチェスコ・トラーパニ(Francesco Trapani)がバイス・チェアマンとして名を連ねており、カヴァリの会長に就任した。また、ジョーンズ・アパレル(JONES APPAREL)やスチュワート ワイツマン(STUART WEITZMAN)の売却などを手掛けたシカモア パートナーズ(SYCAMORE PARTNERS)には1月、ル・フランクフォート前コーチ・インク会長がエグゼクティブ・イン・レジデンスに就任している。他にも、プロエンザ スクーラーの少数株式を取得したカスタネア パートナーズ(CASTANEA PARTNERS)のロン・フラッシュ=オペレーティング・パートナーは、元サックス・フィフス・アヴェニュー社長であるなど、投資企業を通して、業界に精通した人材がビジネスをバックアップするという環境が整ってきている。もちろん、カスタネアのプロエンザ スクーラーへの投資は、デザイナーの2人がブランドに専念するからこそ得られたものである。そして、ワンも「バレンシアガ」からの“円満退社”が発表された翌日、投資会社との契約が間近であることが報じられている。31歳のワンはまだまだ若く、まさにファッション業界の“有望株”である。これまでファミリーで経営されてきた「アレキサンダー ワン」が、投資家のサポートを得ることで、どう拡大するのか。また、“留学”ともいうべき、「バレンシアガ」での経験をワンが自身のブランドにどう生かすのか、注目だ。
[rel][item title="ロベルト カヴァリ、ついにクレシドラに売却完了" href=https://www.wwdjapan.com/business/2015/05/09/00016406.html" img="http://www.wwdjapan.com/focus/wp-content/uploads/sites/4/2015/10/151029_rc_001.png"][/rel]
※文中の肩書き・事実関係などは2015年8月17日当時のものです