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WEC富士で見た0.591秒差の激闘 オフィシャルタイムピース10周年「ロレックス」とモータースポーツの歩み

6時間に及ぶレースの勝敗を分けたのは、わずか0.591秒だった。9月27日に富士スピードウェイで決勝を行った「2026年FIA世界耐久選手権(以下、WEC)第6戦 富士6時間耐久レース」の最高峰であるハイパーカークラスでは、トヨタ・レーシング(以下、トヨタ)が終盤のピット戦略でアルピーヌ・エンデュランス・チーム(以下、アルピーヌ)を逆転し、ホームサーキットで通算10勝目を挙げた。

このWECで2016年からオフィシャルタイムピースを務めるのが、スイスの時計ブランド「ロレックス(ROLEX)」だ。今年は提携10周年を迎える。元レーシングドライバーで同ブランドの“テスティモニー”を務めるマーク・ウェバー(Mark Webber)へのインタビューを交え、ブランドとモータースポーツが紡いできた歴史をたどる。

タイヤを替えない決断が生んだ逆転劇

決勝前日の富士スピードウェイは雨と霧に見舞われた。LMGT3クラスの予選は開始直後に中断し、主催者はその後の予選とハイパーポールも中止した。スターティンググリッドは3回のフリー走行で記録した各車のベストタイムを基に決定。最高峰のハイパーカークラスでは、前年の富士を制したアルピーヌの2台の“A424”が最前列を占めた。

迎えた決勝でも、ハイパーカークラスではアルピーヌが序盤から主導権を握った。対するトヨタの“TR010 ハイブリッド”は、8号車が他車との接触でスピンするなど苦しい展開が続いた。しかし、残り1時間を切ったところで、LMGT3クラスのガレージ59が走らせる「マクラーレン(McLAREN)」の“720S LMGT3 Evo”が、27号車「アストンマーティン(ASTON MARTIN)」との接触でクラッシュ。ガードレールの修復に伴ってセーフティーカーが導入され、レースの流れが大きく変わる。

アルピーヌ36号車は新品タイヤに交換した一方、6番手にいたトヨタ8号車はタイヤ交換を見送り、ピットでの停車時間を短縮。一気に首位へ浮上した。残り約20分でレースが再開すると、新品タイヤを履いたアルピーヌ36号車のヴィクトル・マルタン(Victor Martins)が猛追。トヨタの平川亮は使い続けたタイヤで逃げ切り、0.591秒差でチェッカーフラッグを受けた。トヨタにとっては富士通算10勝目となる劇的な勝利だった。

一方、市販スポーツカーをベースにしたLMGT3クラスでは、チームWRTの32号車「BMW」“M4 GT3 EVO”が優勝。14番手スタートから終盤に追い上げ、ハート・オブ・レーシング・チームの27号車「アストンマーティン」“ヴァンテージ”を1.062秒差で退けた。

勝負の明暗を分けたの、マシンそのものの速さだけではない。タイヤ交換に費やす時間と、交換後に得られる速さのどちらを優先するか。事故の処理に要する時間をどう読み、限られた燃料とタイヤをいかに使い切るか。耐久レースは単純な速さを競うだけでなく、瞬間ごとの判断と時間の積み重ねを争う競技なのだ。

10cmのずれが18人の仕事を変える

取材ではサーキット内のホスピタリティエリア“ル・マン スピリットクラブ”を拠点に、グリッドやパドック、ピットクルーの作業も見学した。

富士ではハイパーカー17台とLMGT3の18台、計35台が全長4.563kmのコースを同時に走った。速度の異なる車両を追い抜きながら走るドライバーを、チームは燃料残量やタイヤの摩耗、天候などの情報から支える。ピットストップでは給油やタイヤ交換、ドライバー交代を短時間で済ませなければならない。

そのピットワークについてウェバーは、「もし停車位置を10〜15cm行き過ぎてしまえば、18人ものスタッフがそれに合わせて動かなければならない。マシンを正しい位置にまっすぐ止めることができれば、彼らはすぐに作業を始められる」と説明する。

実際、ピットを上からのぞくと、マシンが所定の位置にピタリと止まり、待ち構えていたクルーが一斉に作業を始めた。給油やタイヤ交換に目が向きがちだが、その作業を滞りなく進めるには、ドライバーがマシンを正確に操る技術も欠かせない。コース上でコンマ数秒を争う一方、ピットではわずかな位置のずれが作業全体を左右する。レースを支えるのは、目に見える速さだけではない。

耐久レース特有の難しさ

フォーミュラ1(以下、F1)で12シーズンを戦い、9勝を挙げたウェバーは14年に耐久レースへ転向。翌15年には「ポルシェ(PORSCHE)」でWECのドライバーズタイトルを獲得し、富士6時間でも勝利を収めた。

F1との違いを尋ねると、真っ先に挙げたのがシートやペダルの調整だ。「F1では自分専用のシートやペダルがあり、ドライビングポジションも含めて全てが自分に最適な状態に調整されている。一方、耐久レースでは他の2人のドライバーとマシンを共有するので、多少の妥協が必要になる」。耐久レースでは、異なる体格や運転の好みを持つドライバーが、同じ車両を交代で走らせる。

ウェバーは日没後の走行や、異なるクラスの車両との混走もF1との違いに挙げた。暗闇の中で高速走行を続け、速度差のある車両を追い抜いていく。長時間のレースを戦い抜くには、異なる状況への適応力が求められる。

さらに、勝つために必要なのはドライビング技術だけではないという。ウェバーは「並外れた集中力」と体力に加え、周囲とコミュニケーションを取り、人を率いて同じ目標へ導く能力を重視する。今回のトヨタの逆転劇も、ドライバーとエンジニア、ピットクルーの仕事がかみ合った結果だった。

デイトナからル・マン、WECへ
「ロレックス」とモータースポーツの歴史

ウェバーは、「デイトナやセブリング、ル・マンなどで『ロレックス』のクラウンマークを目にすると、大会の重要性や、そこで結果を残すことの重みを実感する」と語る。

「精確な計時」「過酷な環境下での耐久性と信頼性」「卓越性の追求」「限界への挑戦」といった「ロレックス」の価値観は、モータースポーツが追求するものとも深く共鳴する。こうした共通点を背景に、同ブランドは長年にわたりモータースポーツを支援してきた。始まりは1930年代にさかのぼる。英国のレーサー、サー・マルコム・キャンベル(Sir Malcolm Campbell)は、防水腕時計“オイスター”を着用し、米デイトナビーチで世界地上速度記録を更新した。1959年にはデイトナ・インターナショナル・スピードウェイの創設当初からパートナーとなり、62年に同地で耐久レースが始まって以降も関係を継続。92年からはデイトナ24時間レースのタイトルスポンサーも務めている。

製品にもレースとの関係が表れる。63年に発表したクロノグラフ“コスモグラフ”は、後にデイトナ・インターナショナル・スピードウェイとの結び付きを象徴する“デイトナ”の名を冠した。同モデルは、ベゼルのタキメーターによって、一定の距離を走行するのに要した時間から平均速度を算出できる機能を備えるなど、レースを彷彿とさせるのは名前だけではない。現在もデイトナ24時間レースの優勝ドライバーには、裏蓋に特別な刻印を施した“コスモグラフ デイトナ”を贈呈している。

2001年にはル・マン24時間レースを主催するフランス西部自動車クラブ(ACO)とパートナーシップを開始し、同レースのエクスクルーシブ・メジャーパートナー兼オフィシャルタイムピースを務める。今年は提携25周年に当たる。16年にはWEC、25年からは国際モータースポーツ協会(IMSA)と、同協会が統括するウェザーテック・スポーツカー選手権のオフィシャルタイムピースも担っている。

こうした活動を象徴するのが、耐久レースの「トリプルクラウン」だ。米国の「デイトナ24時間レース」「セブリング12時間レース」、フランスの「ル・マン24時間レース」という3大会を指す。「ロレックス」はその全てでパートナーを務める。ル・マン24時間はWEC、デイトナ24時間とセブリング12時間はIMSAの選手権に組み込まれており、同ブランドは2つのシリーズを横断して主要大会を支えている。

さらに、その活動は現代のレースだけにとどまらない。「ペブルビーチ・コンクール デレガンス(Pebble Beach Concours d'Elegance)」や「グッドウッド・リバイバル(Goodwood Revival)」など、歴史的な自動車が集うイベントとも関わってきた。レースの勝敗を刻むだけでなく、自動車文化そのものを次世代につなぐ場にも、そのクラウンマークを見ることができる。

半世紀以上続くドライバーとの関係

「ロレックス」は大会や競技団体に加え、スポーツや芸術・文化など、幅広い分野で活躍する個人ともパートナーシップを結んできた。スポーツ分野では、テニスやゴルフ、馬術、ヨットレースなど、多彩な競技を支援している。同ブランドは、各分野で優れた実績を残し、挑戦を続けるアスリートやアーティストらを“テスティモニー”と呼び、単なる広告塔ではなく、それぞれの功績や活動を通じて、ブランドの価値観を体現する存在として位置付けている。

モータースポーツでは1968年に、F1で3度の世界王者に輝き、競技の安全性向上にも尽力したサー・ジャッキー・スチュワート(Sir Jackie Stewart)を迎えた。その関係は現役引退後も続いている。その後、ル・マン24時間で9度優勝したトム・クリステンセン(Tom Kristensen)やウェバーらが続いた。現在は現在は、今年のル・マン24時間を制し、富士でもトヨタ7号車を走らせたニック・デ・フリース(Nyck de Vries)をはじめ、女性レーサーの道を切り開き、Wシリーズで3度の年間王者に輝いたジェイミー・チャドウィック(Jamie Chadwick)も名を連ねる。

今回の富士スピードウェイには、スチュワート、ウェバーも姿を見せ、“ル・マン スピリットクラブ”に訪れたデ・フリースと和やかに話す場面も見られた。F1で活躍した往年の伝説的ドライバーから、耐久レースの世界王者、現在も最高峰カテゴリーで戦う現役ドライバーまで、異なる世代の顔ぶれがそろった。こうした光景からも、「ロレックス」が特定の時代や選手の活躍にとどまらず、競技に携わる人々との関係を育んできたことが伝わってくる。

WEC提携10周年が示すもの

「ロレックス」のモータースポーツにおける取り組みで特徴的なのは、特定のレーシングチームではなく、大会や選手権そのものを支えている点だ。デイトナやル・マン、WEC、IMSAと、主要な耐久レースの舞台でパートナーシップを継続し、その上で歴代の名ドライバーとも関わってきた。チームやマシン、競技のあり方が変化しても、そこに集う人々と時間をともにしてきた。

WECとの提携10周年を迎えた今年の富士6時間では、トヨタとアルピーヌが最後まで激しい攻防を繰り広げた。6時間に及ぶ戦いの中で、ドライバーはコンマ数秒を削り、エンジニアは刻々と変わる状況を読み、ピットクルーは一瞬の遅れも許されない作業に臨む。その積み重ねが、最後の0.591秒というわずかな差を生んだ。

富士スピードウェイには、「ロレックス」のクラウンマークを掲げたアナログ時計が至る所に設置されていた。その傍らではメカニックたちが慌ただしく作業を進め、マシンが次々とコースへ戻っていく。時にはわずか数秒の判断が、数時間に及ぶレースの結果を左右する。そんな緊張感に満ちた舞台で、時計は変わることなく時を刻み続けていた。

勝者もマシンも、時代とともに移り変わる。それでも、競技の歴史に寄り添い、その一瞬一瞬を見守り続ける。ピットレーンに掲げられたクラウンマークには、半世紀以上にわたる「ロレックス」とモータースポーツの関係が詰まっている。

PHOTOS:ROLEX
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