「クロエ(CHLOE)」のことを心から理解しているシェミナ・カマリ(Chemena Kamali)は、いつも直感的なアプローチでクリエイションに取り組んでいる。特に「とても自由な気持ちで取り組めた。そして、ずっと愛してきたものやいつも立ち返るものなど、自分の中にあるあらゆる“偏愛”や、私が感じるあらゆるクリエイティブな“執着”に、ただ従いたかった」と語った2027年春夏は、アーカイブを参照しながら「クロエ」のアーキタイプ(原型)を探求。それらの美しさに宿るニュアンスを新たな方法で再発見することを目指したというコレクションは、彼女のメゾンへの想いを存分に感じさせるものだった。
手仕事の装飾を軽やかに
そんな今季を象徴するのは、創設初期の「ローブ・ド・ジューヌ・フィーユ(若い女性のドレス)」にも用いられていたというブロード・アングレーズ(アイレットレース)。19世紀の糸仕事のアーカイブを丹念に参照し、ハリのある厚手のコットンや繊細なオーガンジーなど多様な素材に取り入れ、素朴なドレスやトップスからシアーなクロップドトップスとフレアスカートのセットアップ、ボリュームのあるドレスまでを提案した。さらに、クチュールさながらのサヴォアフェールで表現されてきた「クロエ」の豊かなプレタポルテの歴史を映し出す、1960年代の立体的な花のエンブロイダリーにも着目。軽やかに揺れる長いフリンジやタッセルと共に、アイテムにたっぷりとあしらった。装飾を同色で重ねることで豊かな手仕事も過剰には映らず、軽やかでどこまでもロマンチックだ。
そして、「シルエットを考えるときは、ネックラインを起点に、下へとデザインしていく」と話すシェミナは、自身が好むデコルテの形も幅広く探求。ハート形やスクエア、深いV、スクープネックを用い、胸元の開きからレースをのぞかせるスタイルも見せた。また、ランジェリー風のトップスは身頃を切り取り、ハーネスのようにアレンジした。
アウターやテーラリングにも息づく“偏愛”
一方、アウターウエアは、漁師のコートやケープ、「サウスウエスター」と呼ばれる船乗りの雨よけ帽といった70年代のシルエットを再解釈。そこに、50年代のレインウエアを参照したスモーキーな色合いの透明なビニールのケープを重ねた。新鮮に映った端正なテーラリングは、カール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)が「クロエ」で72年にデザインしたスーツにヒントを得たもの。その全てが彼女の“偏愛”するものであり、「今シーズン、私を導いたのは『クロエ』への愛だった」と振り返る。
そしてシェミナが綴ったプレスノートの締めくくりは、「このコレクションが、メゾンの心と魂を表すものであることを願っている。Forever Chloe(『クロエ』よ、永遠に)」だった。デザイナー交代劇が続く中、その言葉は意味深長に感じられた。これが、「クロエ」で手掛ける最後のコレクションになってしまうのか。パリ・ファッション・ウイーク期間中からウワサが広がっていた「サンローラン(SAINT LAURENT)」のアンソニー・ヴァカレロ(Anthony Vaccarello)退任が正式発表された今、その後任候補として名前が挙がる彼女の今後の動向にも注目が集まる。