昨今のファッション業界において、日常に根差したワードローブを提供することは、もはやテーマというより、必要に応える行為になっている。ミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)は、そこに哲学的な指針を与えてくれる存在だ。彼女が「リアルな服について考えた」という2027年春夏コレクションは、スポーツウエアに焦点を合わせた。スポーツウエアを取り入れること自体は新しい試みではないが、深く掘り下げようとしている。その理由についてミウッチャはショー後、「スポーツウエアは、最近みんなが着ているリアルな服だから。レッドカーペットでもない限り、今はもう誰もドレスアップしない。だからスポーツウエアにエレガンスを持ち込み、普通の服をもっと豊かにできないかと考えた。私が最も興味を持っているのは、今を生きる女性のために仕事をすることだから」という。
今年、「ミュウミュウ」は「ニューバランス(NEW BALANCE)」と組み、テニス選手ココ・ガウフ(Coco Gauff)のためのパフォーマンスウエアを制作している。その経験も、今回のコレクションに少なからず影響を与えたのではないかと想像させた。「プラダ(PRADA)」では数シーズン前、「洋服にヒエラルキーを与えたくない」と語っている。ハイ&ローの既存の序列を取り払う試みの一つでもあるように思う。
文学少女的セットアップに
パフォーマンスウエアで開幕
会場は、何かのスタジアムを思わせる仕様だった。スポーツの気配を漂わせる空間でのショーは、プリーツを施したチェック柄のスカートで幕を開けた。軸となるのは、伸縮性のあるパフォーマンスウエアのトップスに、文学少女的なチェック柄のブレザーとのセットアップ。ウエストからはスカートの下に着用したジムショーツが覗き、パフォーマンスウエアはどんどん短く、ブラトップのようになっていく。トラッドな装いの足元には、鮮やかな色の「ニューバランス」とのコラボスニーカー、もしくはスパイキーなハイヒールを合わせた。クラシックなテーラリングとアスレチックな感覚を交差させて、ショーのテーマを早々に提示する。
そこから、スポーツの要素はさらに色濃くなっていく。トラックパンツにはベーシックなニットやテーラードジャケットを合わせ、極端に短いボトムスにはシャツやブレザーをスタイリング。パフォーマンスウエアには装飾的なブラトップを重ね、スポーツブラはビジューなどによって、トレーニングウエアからイブニングトップスへと姿を変えた。グラフィカルなモチーフのジムショーツは、時にはラップスカートを重ねたり、鮮やかな色彩のホルターネックのビキニトップやボウタイブラウス、サテンやガーゼのイブニングウエアとも縦横無尽にミックスさせている。それらは融合というよりも、相反する要素が完全には馴染みきらない微妙な違和感を漂わせる。光沢のあるプリーツスカートにはスポーツブラを前後逆にして合わせ、身体に沿うトラックジャケットの上から柄物のラップトップをきつく締め、砂時計のようなシルエットを作った。ワックスラミネートしたスエードにはひびやシワをあえて残すなど、使い込んだ衣服の不完全な表情にも、ビジューの華やかさと同等の価値を与えた。
「ラングラー」とコラボして
ローライズのジーンズを提案
日常着という視点は、デニムにも及んだ。今季は「ラングラー(WRANGLER)」と協業し、ヴィンテージデニムを再構築。腰骨より低い位置まで落としたジーンズには、ボタンやベルトの代わりにシューレースのようなストリングを通した。ミウッチャ自身、このストリングのディテールに「恋をした」と話しており、ジーンズ以外のアイテムにも繰り返し登場する。こうした“普通”を再考する姿勢は、キャスティングにも表れた。今季も若いモデルだけでなく、異なる年代やジェンダーの人物を起用し、エマ・コリン(Emma Corrin)やオリヴィア・コールマン(Olivia Colman)ら俳優陣がランウエイを歩いた。なかでも52歳でランウエイデビューを果たしたコールマンは、ひび割れた風合いのスエードのスカートスーツにVネックニット、履き込んだようなバックレスローファーという装い。無造作なヘアも相まって、少し奇妙で、少し乱れ、どこかひねりの効いたセクシーさは、年齢やジェンダーに縛られない“ミュウミュウ ガールズ”の人物像を体現していた。
パリ・ファッション・ウイークが終盤に差し掛かるなか、今季の優れたコレクションに共通しているのは、「女性は今、日々のワードローブに何を求めているのか」という問いだ。それはブランドによって、官能的な着こなしであったり、定番アイテムのよりシャープな再解釈であったりする。そして「ミュウミュウ」が示したのは、スポーツウエアに新たな洗練を与えることだった。スポーツウエアとエレガンスの間に生まれる違和感さえ楽しみながら、「ミュウミュウ」は今季も、ありふれた服を欲望の対象へと鮮やかに反転させてみせた。