アニメやキャラクターをファッションとして取り入れることが、以前ほど特別な行為ではなくなった。古着市場でもアニメTシャツはすでに一つのジャンルとして定着し、「アキラ(AKIRA)」「攻殻機動隊」「カウボーイビバップ」などは、長くファッションとの親和性が高い作品として扱われてきた。東京・原宿にあるアニメ・オタク系古着セレクトショップ「チルウィーブ(CHILLWEEB)」店主・チルさんに、今夏以降の古着トレンドの予測を聞いた。
「ザ・オタク」がカウンターに Z世代が再発見するアニメTシャツ
WWD:2026年春夏、「チルウィーブ」ではどんなアニメTシャツの動きが目立ったか。
チル:春ごろから、フルグラフィックのアニメTシャツが若い層の間で流行っている。20歳前後くらいの、トレンドに敏感なZ世代が中心。普通のキャラクターTシャツというより、ポリエステル生地にキャラクターが総柄で全面に入ったような、2000〜10年代の秋葉原で見られたタイプが増えている。
WWD:いわゆる「ザ・オタク」的なTシャツが、ファッションの新潮流となる。
チル:そういうことだと思う。チルウィーブができた4年前くらいは、アニメのキャラクターグッズをファッションとして着ること自体が今ほど一般的ではなかった。その中でアニメTシャツをファッションとして着ることがカウンターになっていた。一方、フルグラフィックTシャツは当時、秋葉原にいるような本当のオタクが着ているものというイメージだった。さすがにファッションとして着こなすのは難しいという感覚があった。それがアニメTシャツ自体が大衆化したことで、普通のアニメTシャツには新鮮味がなくなってきた。その反動で、今度は「ザ・オタク」的なフルグラフィックTシャツがカウンターとして新鮮に見えている。
WWD:オタクカルチャーが一周したような感覚はあるか。
チル:まさに一周した感じがある。オタクの人たちにとっては昔から定番だったものを、ファッションの人たちがフラットな目線で見始めている。今の気分として、あえてあの感じを着るということだと思う。
WWD:着こなしにも変化がある?
チル:Y2K系のファッションに近い。アニメTシャツを着て、ビーニーやキャップを合わせるようなスタイルをよく見る。30代というより、20代前半くらいのユースに多い。
WWD:アニメを知らなくても、ファッションとして着る人も増えているのか。
チル:もちろんノリで着ている人もいる。ただ、実際に若い子たちの話を聞いていると、しっかりアニメを見ていたりそのキャラクターが好きだったりして着ている人も多い。むしろアニメTシャツに関しては、好きな作品やキャラクターがあって着ている人が7割、ファッションとして着ている人が3割くらいかもしれない。
WWD:バンドTシャツに近い変化にも見える。
チル:近いと思う。昔ならニルヴァーナのTシャツを着ているのにニルヴァーナを聴いていないのはあり得ない、という感覚があった。でも今の若い世代は、そこをそこまで厳密に考えていない。ただ、完全にファッションだけでもない。自分が知っている作品や思い入れのある作品を選ぶ人も多い。好きなキャラクターを着る方がテンションも上がる。ファッションとファンダムが半々くらいで存在している感じがある。
WWD:価格は作品を選ぶ基準になっているのか。
チル:なると思う。安ければノリで買って、そこから作品を掘っていくこともある。でも、例え2、3万円以上出すなら、どうせなら自分が好きなものを選びたいという感覚になる。
WWD:アニメTシャツも、古着全体の価格上昇と同じ流れにある?
チル:ここ2年くらいでメディアに取り上げられる機会も増えて、去年から今年にかけてが一つのピークだったというコレクターの見方も多い。逆に今は、アニメTシャツが少し安くなっているようにも感じる。ブームは一度落ち着いたフェーズだと思う。流行ったことで市場にたくさん出てくるようになった。バンドTシャツも同じ道を通っている。流行ったものは一度落ち着いて、そこからまた高くなるというサイクルがある。だから今はむしろ買い時だと思う。
WWD:今後、また価格が上がる可能性が高い。
チル:個人的には、来年くらいから横ばいになって、2年後くらいにはまた上がってくると思っている。海外ではもうほとんど出なくなったアイテムが、日本のフリマサイトではまだ安く出ていることもある。海外の相場と日本の価格が合っていないものも多い。
WWD:現在、実際に売れ行きが良い作品は?
チル:鉄板は「ドラゴンボール」「鋼の錬金術師」「シリアルエクスペリメンツレイン(serial experiments lain)」。作品自体の人気が高いので、刺さる人も多い。あとは「ジブリ」も強い。ビンテージ・ジブリになると10万円を超えるものもあるけど、プリントタグのものなら1万円以下くらいから買える。そういう入門的なものは男女問わず動く。
WWD:何かの作品が突出して人気がある、ということではない。
チル:人気は分散している。今は「これが圧倒的に人気」というより、それぞれが自分の好みで選んでいる感じが強い。
WWD:世代によって人気作品も変わるか。
チル:かなり違う。若い子には「 デスノート」や「ポケットモンスター(ポケモン)」「遊⭐︎戯⭐︎王」「デジタルモンスター(デジモン)」が強い。特に「ポケモン」や「遊⭐︎戯⭐︎王」は、子どものころに遊んでいた記憶と結びついている。面白いのは、そういうアイテムはジャストサイズ、ユースサイズが多いこと。今の若い子たちはむしろジャストサイズで着たがる。だからそこも相性がいい。
WWD:30代以上は?
チル:「アキラ」「攻殻機動隊」「カウボーイビバップ」あたりが引き続き強い。年齢によって刺さる作品はかなり違うと思う。
「ナード・コバーン」で提案する、アニメTシャツの秋冬スタイル
WWD:アニメアイテム以外で、秋冬に向けて強化したいアイテムは?
チル:8割くらいのお客さんがアニメTシャツを求めて来るので、そこに合わせるものとしてスイングトップやハリントンジャケットを多めに仕入れている。「ラルフ ローレン(RALPH LAUREN)」のスイングトップは定番だし、イングランド製のハリントンジャケットみたいなトラディショナルなものも好き。
WWD:ほかには?
チル:ジップアップパーカも引き続き動くと思う。去年はかなり探している人が多かった。「カーハート(CARHARTT)」のようなストリート系、80〜90年代くらいのフェードしたもの、カレッジロゴ、「ステューシー(STUSSY)」のロゴが入ったものなど。あとはスタッズのようなカスタム系も動きがいい。ファッションスタイルはいろんなタイプの方がい訪れるが、服だけが好きというより、アニメが好きで、そこから服にも興味を持ったという人が多い。
WWD:アニメTシャツを軸にした秋冬のスタイリングなら、どんな提案になる?
チル:オープンしたときからずっと言っているのが、「ナードなカート・コバーン」みたいなスタイル。これを、「チルウィーブ」では「ナード・コバーン」と言っている(笑)。ダメージのある「リーバイス(LEVI'S)」501にアニメTシャツを合わせて、ネルシャツを羽織る。ビーニーやキャップを合わせて、少しストリートっぽくする。
WWD:カート・コバーン的なグランジをそのまま再現するわけではなく、新しい提案なのか。
チル:そう。インナーをバンドTシャツにすると、定番のスタイル過ぎて少しコスプレっぽくなる。だからアニメTシャツを使って少しナードにずらす。チェックのネルシャツも、オンブレのような分かりやすいものではなく、普通の大衆的なネルシャツでいい。よく見ると履いている「コンバース(CONVERSE)」がUSAっぽいとか、「ヴァンズ(VANS)」がUSものだとか、キャップが「シュプリーム(SUPREME)」のものだとか、そういう細かいところで古着好きやファッションを意識してるってアピールする。オタクとスケートのミックスや、オタクとグランジのミックスだったり、一見するとどっちなのか分からないギリギリのラインが面白い。バンダナを巻いて横乗りっぽくするのもいい。
WWD:そのスタイルはチルさん自身の好み?
チル:そうだと思う。基本的には自分が好きだった古着やスタイルが店に出ている。ただ、その時々で気分は変わる。春はハリントンジャケットをよく着ていたし、イングランド製のタータンチェックジャケットにアニメTシャツを合わせたりもする。トラディショナルな古着とアニメTシャツをミックスするのも好き。
「どこもやっていない」を探す チルウィーブのコラボレーション論
WWD:「チルウィーブ」はアニメやゲームとのオリジナルコラボレーションも行っている。オリジナルやコラボレーションの企画では、何を基準に選んでいるのか。
チル:まず自分たちが好きなもの。今着たいもの、今のテンションに合う作品を前提にしている。本当はもっとやりたい作品があるけど、自分たちがやりたくても企画が通らないこともある。その中で、自分たちが好きで、なおかつ今の空気に合うものを選んでいる。
WWD:「チルウィーブ」側から作品にアプローチしているのか。
チル:基本的にはこちらからアタックしている。あとは自分たちのことも客観視するようにしている。自分はめちゃくちゃ好きだけど、世間にはそこまで刺さらないだろうというものもある。だから、自分たちの好きなものと市場性のバランスを考えている。
WWD:最近は「ジョジョの奇妙な冒険(ジョジョ)」のような人気IPは、多数のブランドとのコラボレーションも増えている。
チル:「ジョジョ」は自分もすごく好きだけど、コラボが多すぎて驚きがなくなってしまった。10年前なら「こんなところとジョジョがコラボするのか」という驚きがあったけど、今は良い意味でもう珍しくないと感じる。
WWD:では、「チルウィーブ」が今後狙いたいのは?
チル:まだ製品化されてなかったり、ファッションとは結びついていないようなジャンル。我々が今やっている萌えやギャルゲーのタイトルもそう。他にも、今年はコミケへ企業出店したが非常に好評だったので、今後ともオタク系のイベントには積極的に出店していきたい。
WWD:今後はどんなアニメが重要になる?
チル:消費の速度がどんどん速くなっていて、リバイバルの周期も短くなっている。90年代というより、もう00年代のものが人気になっている。
WWD:アニメ化やサブスク配信によって、「ドロヘドロ」のような以前ならニッチだった作品が、一気にマス化するケースも増えている。
チル:もともとはカルト的な作品だったけど、雑誌の看板作品だったしアニメ化にも力を入れており、それが当たり一気に知られるようになった。昔ならマイナーだった作品でも、今はアニメ化やメディアミックス企画、人気アーティストによる主題歌等によって世の中に知られる可能性がある。そういうまだ世に出ていないものは、いろいろ企画したい。
WWD:店舗単位という規模だからこそ、ニッチな作品を扱える部分もあるのか。
チル:そこはあると思う。全国流通しているわけではなく、自社サイトと実店舗が中心だから、IPとして何千枚も売るような規模ではない。ただ、その分、好きな人に向けて物にこだわることができる。
WWD:価格よりも、物作りへのこだわりを優先している印象がある。
チル:自社で色分解もしているので、シルクスクリーンプリントには特にこだわっている。デザインも作品が好きな人には伝わる要素を少しだけ入れたり、パッケージもLP盤のジャケットサイズにしたりしてほかと差別化している。結果として、普通のアニメグッズなら5000円くらいで出すところを、うちは1万2000円くらいになることもある。だから何千枚も作るようなものではない。大量に売るというより、好きな人にちゃんと届くものを作るという感覚。
WWD:アニメTシャツを取り巻く市場が大きくなる一方で、「チルウィーブ」はさらにニッチな方向へ進んでいくのか。
チル:ニッチなこともやりつつ、今後はより大きなタイトルも予定している。アニメがファッションとして一般化したからこそ、その先にあるものを探したい。ただ単にメジャーなものを追いかけるだけではなく、自分たちが影響を受けた好きな作品や面白いと思うオタクカルチャーをファッションとしてもクールだと提示していきたい。コツコツ、やっていきます(笑)。