最終在庫に再び光を当てる
テーマパークのような大型店
「木更津コンセプトストア」では、規格外品やデッドストック品など商流に乗り切らなかったファッションアイテムを、三井不動産が買い取り、再販する。同社の佐野川靖・商業施設本部 本部長補佐 プロジェクト責任者は、長年アウトレット業界に携わってきた人物だ。「ファッション業界の最終在庫問題に、デベロッパーとして何かアプローチができないか、と検討を重ねた結果生まれたのが同店だ」と説明する。
現在は約300ブランドから常時1万点超の商品が並ぶ。倉庫に眠っていた商品に再び光を当て、その魅力を最大限に引き出すことが同店のミッションだ。そのためには、店の「編集力」が要になる。店内はテーマごとに複数のゾーンで構成し、まるで独立したショップや古着店が並んでいるかのようだ。ブランドや商品カテゴリーでは固めず、さまざまなジャンルをミックスして並べることで、来場者は一点モノを探し当てるような高揚感を味わいながら買い物を楽しめる。エンターテインメント性溢れる設えながら、企業のサステナビリティにまつわる取り組みを紹介する企画や、産学連携のワークショップなど、衣類の廃棄問題を考えるさまざまな仕掛けが随所に隠れている。
有松絞りの「スズサン」が基調講演
作り手が見える関係が服の寿命を延ばす
バスツアーには、海外ラグジュアリーブランドや国内アパレル、行政・教育機関まで約80人が参加し、「服の循環」への関心の高さを示した。
基調講演では、愛知県名古屋市・有松町の伝統工芸「有松絞り」に特化したブランド「スズサン(SUZUSAN)」から井上彩花・営業担当が登壇。長く着られる一着を届けるために欠かせない、作り手と買い手の関係構築について語った。
「スズサン」は、有松絞りの技術継承に危機感を抱いた創業家5代目の村瀬弘行最高経営責任者兼クリエイティブ・ディレクターが2008年に立ち上げたブランドだ。手拭いなど限られた用途に使われてきた有松絞りをファッションやインテリアへと応用し、伝統工芸を現代のライフスタイルへと接続した。DtoCモデルでファン層を広げ、現在はヨーロッパを中心に30カ国120カ所で取り扱われるまでに成長している。
近年は、ブランドを通じてつながった消費者や卸先の担当者が有松を直接訪れる機会も増加。現地でのワークショップや、職人が店頭に立ち規格外品を販売するイベントなど、顔の見えるコミュニケーションを意識的に積み重ねている。
井上担当は「手仕事だからこそ、ミスも起こる。でも、それも含めて消費者にきちんと伝えることで理解が広まる。結果として、お客さまからの修理やケアの問い合わせも多くいただいている。作り手が見えるコミュニケーションをし続けることで、お客さまと永続的な関係性が作れている。今後はより作り手のストーリーを伝え、消費者も巻き込みながら産地の持続可能性をみんなで考える機会を増やしていきたい」と語った。
服の終わり方をどう設計すべき?
パネルディスカッションで議論
パネルディスカッションでは、小売り・リコマース・再資源化技術・空間設計の異なる現場で「服の循環」に向き合うプレーヤーたちが、「服のエンド・オブ・ライフ」をテーマに議論した。登壇者は、ユナイテッドアローズでサステナビリティ戦略「サローズ」を指揮する玉井菜緒・経営戦略本部サステナビリティ推進部部長、ブランド公式のリユースサービスを提供するフリースタンダードの張本貴雄代表取締役、廃棄衣類を炭化技術で土壌改良剤に転換するサーキュラーカーボンの松本大輔代表取締役、「木更津コンセプトストア」のプロジェクトを率いる三井不動産の伊藤榮輝担当の4人。
ユナイテッドアローズは、繊維製品の廃棄率を2021年の1.0%から25年時点で0.01%まで削減することに成功した。一方、玉井担当は大きな課題として「コスト」を挙げる。「リサイクルに必要な分別作業には時間とお金がかかる。そのコストを誰が負担すべきかが業界全体の課題だろう」と話す。
そのコスト課題に新たなソリューションを提供するのがサーキュラーカーボンだ。松本代表は「私たちは、廃棄物から付加価値のあるモノを生み出す未来を目指している。ブランド側の意識がいまだ処分コストにとどまっている分、理解が広まってほしい」と話した。
リユースの立場から張本代表は「経済合理性を起点にサステナビリティを考えることが重要だ」と続ける。フリースタンダードはブランド・メーカーのオウンドリセールを支援するソリューションを展開しており、販売後の動線で収益を生む発想の転換を促す。「まず社員が持つ服を社内で販売するような小さな循環から試してほしい」と参加者に投げかけた。
伊藤担当は「木更津コンセプトストア自体、“エンド”を作らせない発想から生まれた場所だ。循環の実験場として継続させ、本日の参加者と次の一歩を作っていきたい」と締め括った。
ファッション業界の
コミュニティーハブとして
「木更津コンセプトストア」は開業から3年。伊藤担当がこの間目指してきたのは、「社会的なメッセージというコアに、楽しさをまぶしたボールのような施設」だという。「例えば、小さなお子さまが同店で楽しく遊ぶ中で、ファッションへの興味が沸いたり、廃棄問題を考えたりする。スタート当初はこの『社会的な正しさ』と『売り場としての楽しさ』をどう両立できるかが難しかったが、今ではそれらを上手く融合できてきた手応えがある」と語る。
さらにモノの販売拠点としてだけでなく、循環型ファッションを考えるコミュニティーハブとしても進化している。来店者やパートナー企業など、サプライチェーンのさまざまな立場の視点が交差し、循環型に向けた新たなアイデアが日々生まれている。
木更津コンセプトストア内では、マネキンに着せるスタイリングや、コンテンツの見せ方など、スタッフの編集力にも磨きがかかってきた。「ブランドにとって選択肢であり続けられるよう、僕たちも努力し続けたい」と語った。