PROFILE: ロウィーナ・バード/「ラッシュ」創立者

利益を最優先するから、
倫理との両立が難しくなる

WWD:「ラッシュ」は創業以来、環境問題や人権問題などに積極的に取り組んできました。企業が社会課題に向き合うことについて、どう考えていますか。
ロウィーナ・バード「ラッシュ」創立者(以下、バード):私たち6人の創立者には、会社をどういう存在にしたいか、共通の強い思いがありました。創業から1年もたたないうちに「ラッシュの信念」を作り、店舗の壁に掲げたんです。31年たった今も、その考えは変わっていません。お客さまにも従業員にも、私たちが何を信じ、何を大切にしているのかを知ってほしいと思っています。商品を買うとき、その背景にある考え方も理解してもらいたいんです。ほかの企業も、もっと社会課題に向き合うべきだと思います。ただ、利益率ばかりを気にしている企業が多いように感じます。もちろん、私たちだって利益は必要です。でも、同時に倫理的な企業でもありたい。その両方を大切にしています。
WWD:とはいえ、倫理を優先すればコストが増えることもあり、多くの企業にとって難しい課題です。利益との両立は難しくありませんか。
バード:何よりも利益を大切にしているなら、難しいでしょう。でも、何よりも倫理を大切にしているなら、それは生き方そのものです。難しいことではありません。誤解してほしくないのは、私たちも利益を上げたいということです。良い商品を作り、お客さまに喜んでもらい、その対価をいただく。それで利益を上げるのは当然です。ただ、必要以上に欲張ることはしたくありません。ありがたいことに、私たちの考え方に共感してくださるお客さまが十分にいます。だから31年間、商売を続けてこられたんです。
WWD:倫理を優先したことで、商品や調達方法を変えたこともありますか。
バード:あります。マイカ(雲母)の問題は忘れられません。以前、あるジャーナリストから、アイシャドウやバスボムに使っているマイカについて聞かれたんです。私は、天然由来で、フェアトレードの認証を受けた鉱山から仕入れていると、自信を持って答えました。すると、その記者から、鉱山の周辺では子どもたちが地面に穴を掘ってマイカを採取し、その穴が崩れて命を落とす事故も起きていると教えられました。ショックでした。きちんとした証明書があれば大丈夫だと思っていたのに、そうではなかった。それで、天然マイカの使用をやめ、合成マイカに切り替えました。天然だから良いとは限りません。大切なのは、その原料がどこから来て、どう作られているかです。誰かから「『ラッシュ』は倫理的ではない」と言われたら、私は本当に悲しくなります。でも、そこで反論するのではなく、何が問題なのかを調べて、必要なら変えます。
WWD:サプライチェーン全体で倫理的な調達を実現するのは容易ではないと思います。
バード:毎年、サプライヤーに調査票を送っています。危険な農薬を使っていないか、児童労働はないか、適正な賃金が支払われているか、労働環境は安全か。オーガニックやフェアトレードについても確認します。動物実験に関しては、原料だけでなく、取引先の企業全体を見ます。たとえ私たちが買う原料に動物実験が行われていなくても、その会社が別の事業で動物実験をしているなら、取り引きはできません。私たちが支払ったお金が、そちらに使われるかもしれないからです。もちろん、調査票だけで全てが分かるわけではありません。問題を知らせてもらう仕組みもありますし、予告なしに現場を訪問することもあります。希望する原料が手に入らず、別の仕入れ先を探したり、商品の処方を変えたりすることもあります。それでも、そこは譲れません。
「サステナブル」では足りない、
目指すのは「再生」

WWD:サステナビリティを掲げるブランドは増えました。一方で、消費者にとっては違いが分かりにくくなっているようにも感じます。
バード:若い人たちが本当に倫理的な企業を選んでいるなら、毎朝「ラッシュ」の店の前に行列ができているはずなんですけどね(笑)。私は、倫理的なビューティ企業を100社並べたら、「ラッシュ」が1位になると思っています。それくらい、私たちは真剣に取り組んでいます。ある言葉が流行すると、みんなが使い始めますよね。すると、本当に取り組んでいる企業と、そう見せているだけの企業の区別がつかなくなってしまう。グリーンウォッシュが生まれ、誰もその言葉を信じなくなってしまいます。「サステナブル」もそうです。何でもかんでもサステナブルと言われるようになりました。でも、続けられるからといって、それが良いこととは限りません。例えば、私が毎日砂糖を食べ続けていたら、それだってサステナブルでしょう(笑)。でも、体に良いとは言えませんよね。
WWD:では、今はどんな考え方を重視しているのでしょうか。
バード:「リジェネレーション(再生)」です。私たちは、ただ環境への悪影響を減らすだけでは不十分だと考えています。何かに関わったら、関わる前よりも良い状態にして残したい。原料を調達する土地も、商品を作る環境も、私たちが関わったことで少しでも良くなっていてほしいんです。「ラッシュ」には、世界を私たちが出合ったときよりも豊かにして残そう、という考えがあります。包装をなくすことも、原料の調達方法を考えることも、その一つです。
WWD:社会課題に取り組む団体への支援も続けていますね。
バード:はい。“チャリティポット”というボディーローションを通じて草の根の活動を支援してきました。消費税を除く売上金の75%を寄付・助成に充てるもので、人権や動物の権利、環境問題などに取り組む団体を支援する仕組みです。私たちが大切にしているのは、ただお金を寄付することではありません。実際に変化を起こそうとしている人たちの力になることです。
※「チャリティポット」は2007年に開始。2024年まで税抜き売上金の100%を寄付・助成に充て、一時休止を経て9月に再開した。07~24年の寄付・助成実績はグローバルで約1億ポンド、1万9000件以上。日本では8億6000万円、820件に上る
包装のない商品は
「お金がなかったから」生まれた
WWD:包装のない「ネイキッド」商品は、今では「ラッシュ」の代名詞になっています。最初から環境問題を意識して開発したのでしょうか。
バード:実は違うんです。最初はお金がなくて、容器を買えなかったから(笑)。でも、やってみると、お客さまが包装のない商品を喜んでくださった。それで、もっと作ろうということになりました。今では新商品を開発するとき、最初に考えるのはネイキッドにできるかどうかです。それが難しければ、合成保存料を使わないセルフプリザービングにできないかを考える。それでも難しい場合に、容器を使います。容器入りの商品を発売したからといって、そこで開発が終わるわけではありません。どうすれば包装をなくせるか、研究を続けています。
WWD:液体の商品を固形化するには、技術的な難しさもあると思います。
バード:一番の課題は熱です。マッサージバーなどは、暑いと溶けてしまいますから。衛生面については、ネイキッド商品は微生物が繁殖しにくいように設計しています。シャワージェルも、合成保存料を使わないものや、固形のものを開発してきました。以前発売した固形シャワージェルは、正直に言って、うまくいきませんでした。でも、改良してまた挑戦しています。一度失敗したからといって、諦めるつもりはありません。最終的には、普段使っている化粧品を全てネイキッドでそろえられるようにしたいんです。
WWD:今では他社もシャンプーバーなどを発売しています。競合が増えることをどう見ていますか。
バード:うれしいですよ。私たちは早くからシャンプーバーを作ってきましたが、ほかの企業も作るようになったのなら、私たちの取り組みが評価されているということですし、環境にとっても良いことですから。包装のない商品が増えれば、使い捨ての容器も減ります。私たちだけが作っていても、世の中は大きく変わりませんから。ただ、まだ包装のない商品は当たり前にはなっていません。そこはもっと変えていきたいですね。
SNSをやめたのは、
顧客を危険にさらしたくないから

WWD:「ラッシュ」は21年、主要SNSから撤退しました。ブランドの認知を広げる上で、SNSは重要な手段です。なぜ使わないと決めたのでしょうか。
バード:SNSが、多くの人にとって安全な場所ではないからです。私たちは、お客さまにとって安全ではない場所にいたくありません。理由はとてもシンプルです。SNSには多くの人に情報を届けられる利点があります。でも、だからといって、そのプラットフォームが抱える問題を見過ごすわけにはいきません。
WWD:SNSを使わないことで、お客さまとの接点が減るという懸念はありませんか。
バード:もちろん、SNSを使えばもっと多くの人に情報を届けられるでしょう。ただ、以前行った調査では、SNSでどれだけ多くの人に情報を届けられるかよりも、SNSの安全性や倫理的な問題を重視するブランドを支持するという回答がありました。それを知って、私たちの判断は間違っていなかったと思えたんです。ほかの企業が同じ判断をするのは難しいかもしれません。でも、企業が声を上げなければ、プラットフォーム側も変わりません。
WWD:未成年者のSNS利用を制限する動きもあります。それだけでは不十分でしょうか。
バード:年齢を制限するだけでは、根本的な解決にならないと思います。問題は、プラットフォームの仕組みそのものにあります。利用者が長く使い続けるように設計されたアルゴリズムが、特に若い人たちに悪影響を与えている。運営企業には、その仕組みを変える力があるはずです。でも、利益を優先するあまり、十分な対策が取られていないと感じています。
WWD:今後は、SNSの安全性を高めるための活動も考えていますか。
バード:来年、より安全なSNS環境の実現に取り組む人たちを支援する、新たな賞を創設する予定です。SNSの安全性向上に貢献する人々に賞や資金を提供したいと考えています。「ラッシュ」はこれまでも、動物実験の代替法開発などを支援してきました。デジタル空間の安全性も、企業として取り組むべき課題だと考えています。
「AIはまだ愛を理解していない」
WWD:AIが商品開発やマーケティングを変えつつあります。ハンドメードを重視する「ラッシュ」にとって、AIは脅威でしょうか。
バード:時代に合わせて進化することは必要です。ただ、私たちはこれからもハンドメードで、人を中心にした企業であり続けたいと思います。AIは人の仕事を奪うためではなく、人を支えるために使うものだと思っています。私自身もAIを使っていますよ。例えば、今はエイジングケアに興味があるので、クリームに使う原料を調べるときに活用します。どのオイルが適しているか、どんな特徴があるか。以前なら一つずつ調べていたことを、AIなら短時間で比較できます。便利ですよね。でも、どの原料を使うかを決めるのは私です。
WWD:将来的には、製造工程に多くのAIやロボットに任せることも考えられますか。
バード:私たちの商品は非常に複雑なので、ロボットが人間と同じように作るのは、簡単ではないと思います。果物や野菜、ハーブなどの生の原料は、素材の状態が毎回違うんです。同じキュウリでも、毎日まったく同じではありません。そういう素材を扱うには、人の経験や感覚が必要です。私たちは、自分たちの母親が誇りに思ってくれるような商品を、愛情を込めて作っています。そして、AIはまだ愛情というものを理解していません。
自分の肌をもっと
好きになってほしい

WWD:創業から31年がたちました。化粧品や美容業界で変わったこと、まだ変わっていないことは何でしょうか。
バード:動物実験については、化粧品での実施を禁止する国や地域が出てきました。これは大きな変化です。一方で、残念ながらネイキッド商品はまだ一般的とはいえません。包装のない商品がもっと増えてほしいですね。規制についても、今の時代に合わなくなっているものがあるなら、変えていく必要があります。決められたことだからといって、そのまま受け入れるのではなく、おかしいと思ったら声を上げることが大切です。
WWD:最後に、10年後のビューティ業界はどうなっていてほしいですか。
バード:私は、もっと自然の原料に目を向けるようになっていてほしいと思います。合成成分に頼るのではなく、自然の中にある素晴らしいものを生かしてほしい。それから、(美容医療の)注射などで顔を変えることばかり考えるのではなく、自分の肌をもっと好きになってほしいですね。私たちは、誰かを別の顔に変えるために化粧品を作っているわけではありません。自分の肌を大切にして、気持ちよく過ごしてほしい。10年後には、そんな考え方がもっと広がっているとうれしいです。