ファッション

アパレル企業に見る、地域に根ざす店づくり 「無印良品」「ビームス」編

 コロナ禍を経て、「ローカル消費」にスポットライトが当たっている。アパレル業界にも、これを好機に新しいビジネスチャンスを見いだしている企業がある。地域のニッチなカルチャーを発掘したり、店舗に地元のアーティストを呼んでライブをしたり、行政とのまちづくりに参画したり。成功事例に共通するのは「商品を作って、売って、もうける」という従来的な思考からは離れていることだ。ローカルビジネスの成功に近道はない。しっかりと腰を据えて、その地域の生活や文化を深く理解し、コミットしていく姿勢が重要だ。

 アパレル業界を取り巻く商環境は厳しく、均一のチェーンストアオペレーションだけで利益が上がる時代ではない。これまでとはローカルとの向き合い方を根本から変えなければならない。その土地の文化を自ら発掘し、発信者となることが必要だ。ここでは、無印良品とビームスの事例を紹介する。(この記事はWWDJAPAN11月21日号の抜粋です)

【無印良品】
店舗を通して地域課題を解消
“コミュニティマネージャー”による
町に溶け込む店づくり

 無印良品は、地方や郊外に出店し、地域に溶け込む店舗運営で住民の支持を獲得している。五稜郭を有する北海道・函館の本町エリアに位置する「無印良品 シエスタハコダテ」も、その店舗の一つだ。

 「無印良品 シエスタハコダテ」は、地元を代表する商業施設「シエスタハコダテ」の地下1階〜地上3階に入る、店舗面積約2500㎡の大型店舗だ。2017年にオープンし、21年4月にリニューアルを実施した。

 同店では、店舗がハブになり、住民と生産者をつなぐ店づくりを行っている。地下1階食品フロアは、野菜ソムリエが目利きした地元野菜や地元の惣菜屋の食品、老舗ベーカリーなどと協業し、地元の木材を生かした市場のような活気ある空間演出を行う。店舗3階のコミュニティースペースでは、木工職人や革職人などを講師に招いたワークショップを不定期で開催。ワークショップをきっかけにプライベートで交流する客もおり、コミュニティー創出のきっかけになっている。

 この店づくりの立役者が、加瀬紋子コミュニティマネージャーだ。コミュニティマネージャーとは、地方店舗に配される役職で、町づくりに貢献する店舗運営をミッションとする。加瀬マネージャーは20年9月に同職に着任し、函館にやってきた。

 地域を盛り上げようと意気込んでいた加瀬マネージャーだが、当初はスムーズに事が運ばなかった。「私は函館出身ではなく、土地勘もない。どんな人がいて、どんな産業があるのか。あらゆる理解が浅かったため、生産者や職人との話がうまく進まなかった」。そこで、この地域がどんな歴史をたどってきたのかを改めて勉強するとともに、広報誌に目を通し、地域イベントに積極的に参加するなど、地元の一員として過ごしていった。すると「徐々につながりが生まれ、われわれのビジョンに共感し、店舗に協力してくれる人が増えた」。

 加瀬マネージャー自身が地域に根ざすうちに、新たな課題も浮かんで来た。同店のある本町エリアは、函館の中心地で商店も多い。しかし、市内には商店の少ない地域もある。そこで21年春に始めたのが、移動販売サービス“MUJI to GO”だ。このサービスは、20年に新潟県上越市・直江津店で初めて導入されたもので、シエスタハコダテでは片道2時間ほどにある町役場や大学のキャンパスなどに出店する。1日の来場者数は30人程度で、「無印良品の出店がない地域では約200人が来場することもある」。スタートから約1年半がたち、「定期的に来てくれると本当に助かる」という声を多くかけられる。遠方の住民にとって、なくてはならないサービスになっている。

 店舗売上も堅調に推移し、着実に成果を生む加瀬マネージャーだが、「課題はまだまだある」という。一番は、「コロナの影響で函館市の観光客が減少し、シエスタハコダテのある中心市街地のにぎわいも少なくなった」ことだ。「今後は、近隣の商業施設や地域住民との連携を強化して、町全体の経済を発展させる施策を提案したい」。

【ビームス】
店舗発案のマルシェが大当たり!
マクアケとの協業で“面白い”を全国へ

 セレクト大手のビームスは、日本各地の名産にいち早く可能性を見出したアパレル企業だ。1998年に「ビームス ジャパン」を立ち上げ、日本製のアパレルのほか、工芸品や食材、土産物といった特産品を、ブランドセレクトで培った目利きを生かして発信してきた。さらに近年は、全国150店の「ビームス」業態でも、地域に根付いた店づくりを少しずつスタートしている。代表例が広島店だ。

 同店は広島市の中心地に20年以上店舗を構え、スタッフも広島出身者がほとんど。顧客には、地元の農家や経営者、クリエイターも多い。江口裕ショップマネージャーは、地元顧客との親交を深めるうちに、「飲食やものづくりなど、地域にも面白い人がたくさんいるのに、発信場所が少なくポテンシャルを生かせていないこと」に課題を感じた。「店舗を発信の場として活用できないか」という思いでスタートしたのが、同店のオリジナル企画“ヒロシマ ウラ マルシェ”だ。

 “ヒロシマ ウラ マルシェ”は、ビームス 広島の店舗裏の空きスペースを地域事業者の出店スペースとして活用する取り組みだ。広島市内のコーヒースタンドやベーカリー、野菜農家といった企業とタッグを組み、これまでに30回以上開催してきた。当初はコロナの影響もあり、2カ月に1回のペースで進めていたが、回数を重ねるたびに「ビームスが面白い取り組みをしている」と住民からの認知度が向上。さらに5000円という手頃な出店料も相まって、企業からの問い合わせが急増した。「今では毎週末にイベントを開き、数カ月先まで出店枠が埋まっている」という。「われわれとしては、ビジネスよりも地域に根ざす意義が大きい。“ここに来れば広島の面白いものに出合える”というワクワク感と、地元からの信頼は、ビームスにとっても財産だ」と江口ショップマネージャー。

 同店の取り組みは、ビームスの新しい挑戦にもつながった。同社は今年、クラウドファンディングのマクアケと協業して、日本各地の地場産業を生かしたオリジナル商品を企画・販売する“地域共創プログラム”を始動した。10月にはその第1弾として、中国地方の16の企業と協業し、バラエティーに富んだアイテムをリリースした。

 同プログラムは、江口ショップマネージャーを中心とした社内インキュベーションとして始まったものだ。「マルシェの実績と、広島市内の地域従事者による“もっと何かにチャレンジしたい”というムードを受けて、マクアケと一緒に始めることとなった」。

 商品企画には、トレンドを押さえるビームスならではのアイデアを落とし込んでいる。例えば広島の名産、熊野筆と府中家具のコラボ企画では、「SNSでネコが人気だから、幅広いユーザーを取り込む可能性があるのでは」と“ネコ型ボディブラシ”を企画。目標金額30万円を大きく超えて、700万円の資金を獲得した。「ビジネスの成果はもちろん、企業の自信につながるのが何よりもうれしい」。同プログラムは現在、他地域での実施に向けた準備が進行中。広島の小さなマルシェは、デジタルの共創企画へと形を変えて、全国の“面白い”を発信していく。

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