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ペルー料理がアツい 世界2位に輝いたレストランも日本へ進出【ウィズコロナで進化する幸せ産業】

 コロナ禍以降、久々の海外出張で訪れたのはなんと南米ペルーだった。日本から見ると地球のほぼ裏側。直行便もなく、乗り継ぎを含めると1日がかりの旅路だ。これまで、アンデス山脈とマチュピチュ遺跡くらいの知識しかなかったのだが、実はペルーは食通にはすでに知られた美食大国だという。

11年間、連続1位! 世界の美食家が味わう旅を楽しむペルー

 ワールド・トラベル・アワード2021「World’s Leading Culinary Destination(世界で最も美食を楽しめる国)」部門で、ペルーは11年連続最優秀賞に選ばれている。先日発表された2022年版「世界のベストレストラン50」では、リマの「セントラル(Central)」が世界2位を獲得した。これは南米初の快挙。50軒のうち9軒が南米のレストランという結果で(ちなみにうち3軒がペルー)、南米部門のベストレストラン50では、ペルーのレストランが9軒選出された。南米のファインダイニングには勢いがある。

 今回の出張も、ペルーの飲食事情がテーマ。市場で3ソル(約160円)程度で食べられる鶏そばや、空港のサンドイッチでさえ驚くほどクオリティが高く、しかも彩りも良く“映える”。ペルー料理の定番“黄唐辛子でできたアヒアマリージョ”など、調味料やソースもカラフルなのだ。

 大航海時代にスペイン人よって世界に広まったというじゃがいもは、2000品種以上栽培され、それぞれ用途によって使い分けている(ちなみに、とうもろこしやトマト、ピーナッツなどもペルー原産だそう!)。リマなどの沿岸部では、新鮮なシーフードも穫れる。とにかく食材が豊かなのだ。リマやクスコを巡り、そんなカラフルかつ繊細で、バラエティー豊かな料理に魅了された。世界の食通がうなるのも納得!

じわじわと浸透したペルー料理ブームにより、東京の店も多様化

 そして今、ペルーの美食が日本でもアツい!グーグルアプリのCMで、タレントの渡辺直美がペルー料理を検索するシーンがあったが、あれは実体験で、都内のペルー料理レストランを訪れ、興味を持ったからだとか。NYに住み、各国の料理を日常で味わっている彼女が心ひかれたというのも興味深い。CM放送後、グローバルで運営するタウンガイドメディアでは、「ペルー料理」のキーワードで検索数が増えたという話も。

 実際、日本で展開しているペルー料理も多様化。家庭の味を日系ペルー人シェフが伝える「アルド(ALDO)」や「アルコイリス(ARCO IRIS)」などの老舗から、定番メニューを繊細でスタイリッシュに仕上げ、見ても楽しめるコースで展開している青山の「べポカ(BEPOCAH)」、魚介をマリネしたセビーチェを楽しめる中目黒のワンオペの店「エル セビチェロ(EL CEBICHERO)」など、スタイルはさまざま。歌舞伎町には、ペルースタイルのサンドイッチスタンド「ラニートス(RANITOS)」もオープンした。

 中でも、新橋の「荒井商店」はユニークだ。ペルー料理らしからぬ店名の同店は、夜は4200円~(税込)のおまかせコースのみ。メニューや食材を指定したオーダーや、「1980年代に現地で食べたこんな感じのもの」「アフリカ系移民が伝えたアフロぺルビアン料理」など、謎かけのようなリクエストも可能だ。三國清三シェフの元でフレンチを学び、ペルーで修行した荒井隆宏シェフの著書のレシピ本からオーダーすることもできる。味を楽しむだけでなく、新たなる文化に触れ、会話が広がる場だ。

リマの名店「セントラル」が
7月にオープンした新店に注目

 感度が高い食通にじわじわ広まりつつあったペルー料理だが、この7月には“真打ち”が登場。前出の世界2位に輝いた「セントラル」を率いるシェフ、ヴィルヒリオ・マルティネス(Virgilio Martinez)が紀尾井町にガストロノミー「マス(MAZ)」を出店したのだ。リマの「セントラル」同様、地形や高度によるペルーの多様性を表現したティスティングコースを提供する。ペルーの食材や伝統的な調理法を進化させたイノベーティブ・フュージョンだ。

 営業はディナー限定で、20席のみ。秘密基地への入り口のような薄暗いエントランスにわくわくする。レセプションには食材を並べたテーブルがあり、セントラル同様、まずは食材に関するプレゼンテーションで食文化を学ぶ。

 店内に入ると、舞台プログラムのように、「砂漠海岸(DESERTIC COAST)85MASL」「極端の高地(EXTREME ALTITITUDE)4200MASL」「アンデスの森(ANDEAN FOREST)3260MASL」など、現地の風景を想像させるタイトルと海抜、そして主な素材のみを記したリストが渡される。各標高や気候、食文化を含めた解説とともにサーブされる料理は、アーティスティック。崩すことで味や質感の変化を楽しんだり、個々に味わった後、混ぜて自分好みの味に整えていったりするようなプレゼンテーションもあり、高揚感が増す。フランス料理のように一つの皿に緻密にデコレートされた“完成品”ではないので、自分も“作品作り”に参加しているかのように錯覚する。楽しい!

 また、ペルーの「セントラル」は古代魚パイチェや、フルーツを食べるピラニアに似たパチュなどの料理で“淡水”を表現しているが、「マス」では川魚イワナとスイカを選んでいる。きらめくじゅんさいをあしらうなど、おなじみの食材の意外性のある組み合わせには驚嘆。ペルーから届いた未知の食材と、山形の熟成肉、沖縄の海ぶどうが見事に調和し、日本の食文化へのリスペクトを感じた。

 9品のテイスティングコースは、ファインダイニングでは珍しく、ベジタリアンにも対応。ワインやリキュールのペアリングもつけると5万円近い高額なコースだが、他では味わえない体験を求めて、7月のオープン以来、予約が殺到。各国の飲食業界から注目を集めている。世界が注目するヴィルヒリオ・マルティネスの哲学に触れるチャンスだ。

そもそもヴィルヒリオ・マルティネスの哲学とは?

 そんな世界が注目するリマ生まれのシェフ、ヴィルヒリオ・マルティネスについて説明したい。元々プロのスケートボーダーを目指していたという異色の経歴で、世界各国を旅することで各国の食文化を学び、ペルー独自の食材や調理法を、彼ならではの視点で進化させることを決意した。その革新的な料理が話題となり、ネットフリックスの「シェフズテーブル(Chef’s Table)」、ドキュメンタリー映画「マテル」などメディアでも活躍。今や料理界の枠を越えた文化人だ。

 ヴィルヒリオシェフが探求するのは、料理や食材の可能性だけではない。持続可能な農業や地域発展につながる社会の構築だ。「セントラル」に併設された研究機関マテル・イニシアティバでは、生物学者や農学者はもちろん、人類学者やデザイナー、神経学者などあらゆるスペシャリストが食文化の研究・実験を進めている。

 インカ帝国時代の農業実験場といわれているモライ遺跡の前にあるレストラン「ミル(MIL)」にもマテル・イニシアティバはあり、カカオに特化した研究室も。ケチュア民族が代々受け継いできた発酵技術、薬用植物の活用や食材の保存方法などに注目し、さらなる進化を目指している。

 「ミル」でのツアーも他にはない体験だ。実際に植物が生息しているエリアを歩き、染色工房を訪れ、薬草を生かしたリキュールやカクテルを味わう。テイスティングコースを味わうための体験学習だ。ここでも同じく、味わうことは学ぶこと。そして、時には問題提起。受け身ではない、インタラクティブな美食体験を求めて、世界中から食の専門家も訪れる。

日本から食材の新しい可能性
持続可能な社会の在り方を発信

 マテル・イニシアティバの視野は、ペルーの国境を越え、そのビジョンは地球規模へと発展している。「ガストロノミーには、文化を守り、影響を与える力がある」という信念を持つヴィルヒリオは、「伝統や季節感を大切にし、食を芸術・文化としてとらえる日本に共通点を感じる」と語る。

 「マス」では、ヴィルヒリオシェフの右腕として活躍してきたサンティアゴ・フェルナンデスをトップシェフに抜擢。全体の2割はペルーから届く食材で、残り8割は地産の日本の食材を厳選し、さまざまな地形や風土による恵みを芸術的に表現する。ヴィルヒリオ同様、旅を愛するサンティアゴは日本各地に足を運び、日本の食材を探求するだろう。多様性を受け入れてきたペルーの食文化が、東京でさらに進化するのが今から楽しみだ。

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