ファッション

ファッションで繋がったキセキ GReeeeN HIDEと芸能事務所の社長が語る「EverWonderな未来」とは?

 ファッションやビューティ業界同様、芸能・エンタメ界もSNSでの誹謗中傷やプライバシーの侵害、新型コロナウイルスの影響による表現活動の制限に悩んでいる。このような状況下で芸能プロダクションTopCoatの渡邊万由美代表は、アーティストやクリエイターが精神的に傷つかないよう、芸能・エンタメ界の第一線で彼らを守り続けている。

 一方ボーカルグループGReeeeNのHIDEは、ミュージシャンとして時代の変化を捉えながら人々に共感される曲を生み出し続けている。生きづらい時代の中で、芸能・エンタメ界も抱える問題はどうしたら解決できるのか?2人に聞いた。

――今のエンターテインメント業界をどう見る?

渡邊万由美TopCoat代表(以下、渡邊):1995年に芸能プロダクションを設立し、気がつけば4半世紀以上、私はエンターテインメント業界の中で生きてきました。6年前、ちょうど会社が設立20周年を迎えた頃から世の中の急速な変化を感じるようになると同時に、「時代に取り残されないように」という強い思いが芽生えました。AIやブロックチェーンなどのテクノロジーがもたらす新たな可能性は、無視できません。自分自身はアナログ人間ですが、AIによる自動検知やNFTのような仕組みを使えば、著作権などのアーティストの権利は厚く保護できるかもしれないし、最近注目のDAO(Decentralized Autonomous Organizationの頭文字を取ったもの。自律分散型組織を指す)のような仕組みによって、会社や国籍の垣根は取り払われ、共感して集まった人たちが新たなプロジェクトを立ち上げる世の中になると聞きます。

GReeeeN HIDE(以下、HIDE):今でこそ、AIやブロックチェーンという言葉はよく耳にしますが、6年も前から考えていたんですね。それが、2017年に始まったみらい塾(渡邊代表が理事長を務める一般財団法人渡辺記念育成財団が運営する、未来のクリエイティブプロデューサーを育成するプログラム)の立ち上げに繋がったのですか?

渡邊:そうなんです。わからないこと、知りたいことは「芸能のみらいを考える研究会」と称した財団の研究事業として、毎回ゲストを囲んで、財団関係者の皆さんと共に知見を深めています。これからはエンタメ界も新しいテクノロジーで面白くなるだろうと興味は湧くものの自分には敷居が高いので(笑)、デジタルネイティブな世代やそれらを使って世界を席巻していく若くてクリエイティブな感性と才能の持ち主を見つけ、一緒に何か新しいものを創れたら最高だな!と思っています。それが奨励・育成事業「みらい塾」のきっかけです。

HIDE:育てようというよりは、仲間を集めようという思いで始まったのが「みらい塾」なんですね。仲間を増やしながら新しい価値観に向き合う点に共感します。大人になると、どうしても多くの人は自分の地盤が固まって、なんとなくその中で日々を過ごしてしまいがち。時代の変化の潮目を感じ取って、新しい場所を創っていく&飛び出していくことは、今の世の中に足りていないかもしれません。

――SNSの普及や新型コロナウイルスの感染拡大で変化したことは?

HIDE:音楽を作る人間として、世の中の流れをできるだけ感じ取れればと思っています。少しでも多くの人に共感してもらうため、誰もが共通して心を動かされるテーマを、時代の流れの中で表現したいです。どんなに辛いことがあっても、人はみんな幸せになるために生きているんだという想いを歌にのせたいという気持ちはずっと変わりませんね。

渡邊:HIDEさんの志は一貫していますよね。一方、人に楽しんでもらいたい、純粋に創作したいだけのアーティストやクリエイターたちがネットニュースやSNSで精神的に傷つけられ、中には志半ばで自分の人生を大きく軌道修正せざるを得ない人も生まれています。私たち芸能プロダクションは、いつのまにかマスコミの対応やアーティストの見え方を管理することを重要視するようになりました。でもSNSでの誹謗中傷やマスコミからアーティストを守ることだけ考えていても、次から次へとモグラ叩きの様に起こる誹謗中傷や炎上はきっと消えない。だったら自分がやるべきことは、素晴らしいアーティストを見つけてエンタメ界での活躍に導くと同時に、今を生きる多くの人が健全で自分らしく幸せになれることを考えることだと思うようになりました。健全で幸せな人が増えたら、SNSでの誹謗中傷や他人の足を引っ張り合うことは減るはず。そんな社会を創っていきたいと思ったのです。

――人間として健全で幸せな状態とは?

渡邊:どうしたらよいかモヤモヤした気持ちを抱えていたとき、GReeeeNのライブを観に行ったら、答えはそこにありました。GReeeeNの楽曲や映像などの演出全てに込められたメッセージには、国籍も性別も時代も全然境界線が無いんですね。そこにはアーティストとオーディエンスの境界線さえなく一体化していて、私はその輪に包まれながら「色んな事があるけれど、貴女は貴女が思うままにそのまま進んでいいんだよ」とそっと背中を押された感覚になりました。あの時、私は明日を前向きに生きる元気を実感したんです。心に、灯をともし、自分らしい日々を送るのが、一つの健全で幸せな状態ですよね。

HIDE:それがまさに、今私たちが考えているEverWonder(一般財団法人渡辺記念育成財団がクリエイティブディレクターにGReeeeNのHIDEを迎えて構想中のプロジェクト)ですね。ライブが終わって万由美さんからそのような話を聞き、自分も本当に共感しました。自分の場合は、学生のときに出合った音楽が、その後の人生の熱量に影響を与えました。当時の僕は、ポップスももちろん大好きだったんですけど、ハードコアやパンクに特に惹かれていました。モヒカンの店員さんがいて、張り紙に「ガム食って入るな」なんて書いてあるようなハードめなCD屋さんで初めてCDを買い、そこから店員さんに紹介してもらっては聞くを繰り返しました。ギターも練習したし、ハードコアやパンクが持つ「このままじゃダメだよね」といったメッセージに共感していました。そんな心に火をつけた経験が、今の活動に繋がっているのだと思います。

――心に火をつけるために必要なことは?

HIDE:自分の場合、今の活動に繋がる熱量を産んでくれた凄まじいもの、音楽に出合ったのが10代だったので、彼らに向けて何かを提供したいと思っています。特に14歳という年齢は、何か心に火をつけるタイミングとして重要かもしれない。生まれた時からスマホで世界中にアクセスできる今の10代には無限の選択肢があり、熱中できることに巡り合いやすいようにも思えます。でも選択肢がありすぎるからこそ、自分の可能性に見切りをつけてしまう時期が早い気がします。もちろん情報に出合えないことも不幸で、その差は都会と地方では顕著です。地方の歯医者さんで働いてみると、地方の子どもの方が、虫歯が多いんです。ここにも環境とリテラシーの因果関係があるのかもしれません。10代が親や周りから受ける影響はとても大きく、地方ではコンビニにある求人誌で将来を決めてしまうという話もよく聞きます。まだ自分らしさに出合えていないから鬱憤が募り、SNSなどで晴らしているのかもしれません。環境や情報の不足によって、自分の可能性に見切りをつけてしまうのはとてももったいないと思います。

渡邊:たしかにそうですね。10代、特に14歳に向けて何かを提供していくことは、心に火を灯して前向きに生きられる人を増やす上で、とても重要かもしれません。この前、突出した才能を持つ14歳に集まっていただき、今の世の中に対してどう思っているのか、意見を聞く会を開いたのですが、彼らのエネルギーにとても刺激を受けました。と同時に、突出した人たちに向けられる同調圧力や批判などから彼らを守りつつ、可能性をさらに広げられる環境の重要性にも気づきました。HIDEさんにもEverWonderクリエイティブプロデューサーに就任していただき、感謝しています。

HIDE:こちらこそです。僕が考えるEverWonderは、エンターテインメントを通じて、一人でも多くの人の心に火を灯し、何かに熱中できるきっかけを届けることかもしれません。その一つとして、10代の可能性に注目して、彼らに対して何かを提供していくことがEverWonderプロジェクトなのかなと思います。EverWonderには「これだ」というような正解はありませんが、プロジェクトを通して、そこで出会ったものが一生を変えられるような機会を提供できればと思っています。

渡邊:もちろん10代に限らず、多くの人の心に火を灯すきっかけを作れればと思います。人それぞれに事情があるので、必ずしも「好きなことだけをやっていこう」というのがEverWonderではないかもしれません。私自身も、もともと興味の薄かった芸能という世界で仕事をすることになり、没頭し続けた結果、振り返ってみれば自由にやりたいことをやれてきたように思います。だからこそ、どんな人であれ何かに没頭し、ある種の成功体験を得てもらえるようなきっかけになればと思います。

――最後に、お二人を近づけたファッションへの想いやエピソードを。

HIDE:僕は大学受験に失敗して、浪人をするため高知から上京したんです。当時は自分が何をしたいかよく分かっていなかったけれど、ファッションが好きだったので、原宿にある医歯薬学部専門の予備校に通いました。原宿で色々な洋服屋さんを巡り、予備校に通いながら販売員をすることになりました。最終的には受験を目前に控えた12月、自分で服を作りたいと思い、文化服装学院への進学を考えました。父親に相談すると、「お前が決めたなら、それでいい」との返答をもらいましたが、後日母親から「父親の元気がない」と連絡がありました。歯学部に進学させるために東京の予備校に通わせていた父親からすれば、ショックが大きかったんです。そのとき、たまたま母親の歯が悪いと知り、受験までの残りの2カ月は死に物狂いで勉強をして、もし歯学部にも落ちてしまったら文化服装学院に進学させてほしいとお願いしました。1日23時間くらい受験勉強をしたら、歯学部に合格しました。今でも、当時仲良くしていた先輩や友人が原宿の洋服屋さんで働いており、よく買い物に行っています。

渡邊:HIDEさんにレアなヴィンテージデニムがズラリと並ぶお店を紹介してもらったことがありました。HIDEさんは、いつ会ってもめちゃくちゃオシャレです!

HIDE:僕も、万由美さんが何着てくるのか毎回楽しみです。

渡邊:私は小さい頃、母親のクローゼットの中で香水が香る洋服に囲まれて、眺めながら、仕事が忙しく不在がちだった母親への寂しさを紛らしていました。「イヴ・サンローラン(YVES SAINT LAURENT)」のオートクチュールのドレスやスーツの優雅さや格好良さにウットリした記憶があります。その後、芸能の仕事をするようになってからは、「洋服好きで、よかったな」と感じることが多々ありました。木村佳乃のデビューと同時にスタートした芸能の仕事は分からないことだらけで、未熟な自分には悩みが押し寄せる日々でしたが、洋服が支えてくれました。休みの日には南青山の「コム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS)」によく行ってパワーチャージしていました。特に着こなしが難しそうな「ジュンヤ ワタナベ(JUNYA WATANABE)」の服は、試着室にこもって延々と試しました。そして着こなしに成功した服を、御守りの感覚で仕事現場に着て行ってました。ジュンヤさんの既成概念に囚われない自由な発想の服は、理屈抜きで迷い多き当時の自分を肯定してくれていたんだと思うんです。一番印象が強いのは、たまたま銀座のセレクトショップで、欲しかった「アライア(ALAIA)」の黒いカーディガンを試着していると、とても強いオーラを放った素敵な女性に「あなた、それとても似合う」と声をかけられたことです。すぐに川久保玲さんだとわかりました。あまりのサプライズに興奮しながら、そのカーディガンを握りしめてレジに向かいました。その時に改めて気がついたんです。これからも、自分が好きな服を着よう。周りの目を気にするのではなく、自分が自分らしくいられるかを気にしよう。EverWonderを通じて次世代の優れたデザイナーさん達と出会い、その人たちが創る服を着て新たなワクワクをもらえたら、これ以上の幸せはないな!と思っています。


 一般財団法人渡辺記念育成財団は、クリエイティブディレクターにGReeeeNのHIDEを迎えて、人々の心に火を灯す機会を提供することを目的にEverWonderプロジェクトを発足しました。現在は構想段階であり、具体的なプロジェクトの中身は対談中に登場した「みらい塾」の第5期奨励生が企画進行していきます。「WWDJAPAN.com」では、今後みらい塾生が進めていくEverWonderプロジェクトの様子もお届けしていきます。

ライタープロフィール
岩上開人
みらい塾3期奨励生/一般財団法人渡辺記念育成財団 EverWonder 事務局

1996年生まれ、早稲田大学政治経済学部卒。大学在学中に起業。ウェブやブロックチェーンなど、ITを活用したエンターテインメント・コンテンツを生み出すことに注力し、これまでにアイドルユニットやバーチャルタレントの立ち上げなどを経験。一般財団法人渡辺記念育成財団 みらい塾3期奨励生としてプロデューサーに必要な思考やスキルを学んだ

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