ビューティ

カラーリングブームの今、知っておきたい「頭皮常在菌」「アレルギー」問題

 世代を越えて、カラーリングの流行が続いている。Z世代は自己表現の1つとして色とりどりのカラーを取り入れ、マチュア世代はハイライトやニュアンスカラーで白髪染めを楽しむ人が増えた。その一方、身近な美容関係者の間では、カラーリング後に「頭皮や肌が敏感に傾く」という声や「ジアミンアレルギー」に関する話題を耳にする機会が増えている。カラーリング後に髪そのものが傷むことは、すでに広く知られる事実。今回はそこから一歩踏み込み、カラーリングが私たちの「肌や体にどんな影響を及ぼすのか」について考えたい。

深く静かに増加する「頭皮トラブル」を抱える女性たち

 ヘアサロン「ウカ(UKA)」でスタイリストとして活躍し、ヘアプロダクトの開発も手掛ける、保科真紀・商品開発担当は、「ここ数年、頭皮にトラブルを抱えているお客さまが増加している。自身では気づかない小さなサイズも含めると、頭皮に円形脱毛症がある方は少なくなく、カラーリング後に赤みやかゆみが生じる方も一定数いる。これまで何度もカラー剤を使っているのに、“ある日突然”合わなくなるケースも多い。年代を問わず発生するが、特に社会で活躍する40代の女性に増えている印象」と話す。

 出産などライフステージの変化や、仕事上のストレス、ホルモンバランスの影響など、頭皮トラブルの原因は人それぞれであり、1つに限定するのは難しい。しかし「頭皮に何らかのトラブルがあり、カラー剤に対して敏感に反応する」顧客が増えているのは、まぎれもない事実であるという。その背景には「頭皮環境の乱れ」が存在し、「ウカ」はどんな人にも安心して使えるカラーメニューやプロダクトの開発に取り組んでいる(詳しくは後述したい)。

頭皮を健やかに保つ「頭皮常在菌」とカラーリングの関係

 本来あるべき「頭皮環境」、すなわち頭皮の恒常性やバリア機能維持に関係しているのが「頭皮常在菌」の存在だ。ミルボン研究開発部の菊地哲弘研究員は、「ごく少数しか存在しない菌も含めると、頭皮常在菌は数100種以上といわれている。代表的な菌であるコリネバクテリウムは、皮脂を代謝して脂肪酸を作り出し、頭皮を弱酸性に保つ働きがある。また表皮ブドウ球菌は、皮脂などの代謝により保湿成分を作り出す働きがあり、これらの常在菌が互いに影響し合って、健やかな頭皮を保っている」と語る。

 頭皮は通常「弱酸性」だが、カラーリング後は一時的にアルカリに傾いてしまう。永久染毛剤と呼ばれる一般的なカラー剤は、アルカリの薬剤によって髪本来の色を脱色しながら、好みのトーンに染めていくためだ。「弱酸性の環境で生育・活動する頭皮常在菌にとって、極端にアルカリに傾いた環境は過酷と言わざるを得ない。活動はおろか、生存自体が難しい菌も少なくない」。

pH値が0.1変化するだけでも、頭皮常在菌には一大事

 グラフはカラーリング後の頭皮のpH濃度を測定したデータである。染毛後は一気にアルカリに傾き、その後1週間ほどかけて少しずつ弱酸性に戻っていく。「pH値が0.1変化するだけでも、頭皮常在菌にとっては一大事。アルカリの環境下で減少した菌は、pH値が戻ったのちに元の状態に戻ろうと増えていく。元の環境に落ち着くには、1カ月ほどかかるのではないか」という。pH値が戻れば頭皮環境もすぐに元戻りかというと、そう簡単でもないという。

 頭皮常在菌のバランスが乱れると、保湿成分が生成されず、頭皮が乾きやすくなってしまう。乾燥からターンオーバーの乱れを引き起こし、頭皮の角質が剥がれてくることも。

 「常在菌にとっては“足場”が崩れた状態にあたり、餌となる皮脂も分泌しないため、“乾燥の悪循環”に陥りやすい。通常は染毛剤を塗布しても大きな問題は起こらないが、頻繁にカラーリングを繰り返すと、角層の乱れにつながりやすくなる」と話す。顔の皮膚も、乾燥状態が続くとターンオーバーが乱れ、敏感に傾くのと同じこと。今までは平気だったカラー剤が“急に合わなくなる”一因として、この乾燥が関係しているのかもしれない。

カラーリング後の頭皮に「保湿」が必要な理由

 前述のように、カラーリング後の頭皮は乾燥しやすい状態にある。「頭皮を保湿する習慣のある方は少ないと思うが、カラーリング後は潤い補給が必要。保湿作用を持つ頭皮用ローションを用いると、角層を穏やかに整え、ターンオーバーのサポートにもつながる。日ごろから頭皮の保湿習慣を心がけると良いだろう」と語る。

頭皮常在菌に注目した、頭皮の保湿アイテム
総合菌ケアブランドから誕生した、頭皮用エッセンス

 体の内側、外側も含め「総合的な菌ケア」を提唱する「キンズ(KINS)」から2021年に登場した“スカルプエッセンス”。頭皮の常在菌と皮脂バランスに着目し、乳酸桿菌/豆乳発酵液を配合。弱酸性のテクスチャーは頭皮にスッと浸透し、しっとりと保つと同時に抗炎症成分が穏やかに整える働きも。フケ、かゆみの原因菌にアプローチするなど、総合的に頭皮環境を健やかに保つ。

はじける炭酸とシソ科植物の力で、頭皮環境を健やかに

 「ミルボン(MILBON)」の長年のスカルプフローラ研究を応用し、2021年に誕生したのが“クロナ スパークリング スカルプ エッセンス”だ。頭皮環境に関与する日和見菌に注目し、4種のシソ科植物エキスからなる独自成分と、エゴマ葉エキスを配合。塗布するとパチパチはじける炭酸泡処方で、血流を促しながら、頭皮のすみずみまで潤い補給。常在菌のバランスをサポートし、健やかな環境へと導く。

1度発症したら治らない、カラーリングによる「ジアミンアレルギー」

 もう1つ、カラーリング後のトラブルとして注目したいのが「ジアミン」によるアレルギーである。ジアミンとはパラフェニレンジアミン、トルエン2.5ジアミンなど、末尾に「~ジアミン」表記される成分の総称で、カラーのさまざまな色味を発色させるメーンの染料だ。ミルボンの菊地研究員は、「1剤と2剤を混ぜて使う“永久染毛剤”には、ほぼ入っていると考えて差し支えない。染毛によりジアミンに接触する機会が重なると、ある日突然、肌に赤みやかゆみが生じるのが“ジアミンアレルギー”。ひどい場合は呼吸に乱れが生じたり、意識を失うこともある」と話す。原因は過剰な免疫反応と考えられており、一度発症すると完治は難しいという。またアレルギーという性質上、完全な対策が難しいのも難点だ。「別のヘアサロンや自宅で染めても“ジアミン配合の染毛剤”を使用する限り、リスクは同じ。サロンで染める場合は、ジアミンを配合していない“ブリーチ”や“ヘアマニキュア”など、ジアミンフリーのサロンメニューを用いること。自宅で染める場合は、ジアミンフリーの染毛料を使うことが、第一選択肢になる」とアドバイスする。

今改めて注目される、ジアミンフリーのカラーリング

 ジアミンアレルギー自体は、ヘア業界ではすでに20年以上前から知られており、定期的にメディアにも取り上げられている。一方で昨今のサロンにおいては、新しいジアミンフリーのカラーメニューが登場したり、家庭用染毛剤に販路拡大の動きがあることに注目したい。

1996年発売のロングセラー。敏感肌用のホームケア染毛剤

 敏感肌ブランドの「アクセーヌ(ACSEINE)」は、2021年からジアミンフリーの染毛剤 “ナチュリエ ヘアカラー N”のオンライン販売を行なっている。実はこの製品自体は1996年に発売された、ロングセラー製品であるという。「それまで広告はしておらず 、皮膚科のドクターに紹介された方が、アクセーヌにお問い合わせ頂いて購入される製品だった。コロナ禍により店舗やヘアサロンへの来店が難しい状況となった折、他製品も含めてカスタマーセンターへの問い合わせが2倍以上に増加した。そこで安心して購入できる選択肢を広げるべく、オンラインでの販売を決定した」と、三森睦子アクセーヌ PR担当は話す。同時期にアクセーヌは公式サイトで「ジアミンアレルギー」についての啓蒙記事も公開。現在、同製品は百貨店などのアクセーヌショップでも購入可能となっている。

国産ヘナを用いたジアミンフリーのカラーメニュー。9月にはホームケアも登場

 サロン業界において、ジアミンフリーのカラーリングに積極的に取り組んでいるのが、冒頭でも取材したウカだ。22年5月から、国産のヘナを用いたカラーメニューを試験的にスタートしている。「沖縄産の“ヘナ”と“インディゴ”から採取される色材を用いたジアミンフリーのカラーリングを行なっている。実際に産地の生育環境を視察し、土壌や環境も含めて安全性に優れた国産素材を厳選している」と保科開発担当。
 
 ヘナの粉はオレンジ、インディゴの粉はブルー。このたった2色の天然素材のブレンドで、その人に合うカラーを実現するのは至難の技といっていい。既存のヘナを用いた染毛剤に、ジアミン配合の製品が存在するのも、カラーバリエーションを広げるためであるという。「カラーの開発は、ヘアアーティストのshuco氏とコラボレーションしている。実際にサロンでテストを重ねた結果、ブリーチにヘナとインディゴを組み合わせることで、仕上がりの選択肢が広がることが分かってきた」という。具体的には、部分的にブリーチでベースの髪色を調整した上に、ヘナとインディゴをその人に合わせて重ねていく手法である。通常のヘアカラーより職人的なセンスや手間が必要ではあるが、頭皮が敏感な人にとっては、ありがたい施術といえる。サロンに来店できない人のために、現在ホームケア用の染毛剤を開発中。石垣産、沖縄本島産のヘナを用いた全4色(仮)のラインナップであり、9月の登場を楽しみに待ちたい。

 頭皮の角質は顔と比べると厚いため、特にトラブルもなくカラーリングを楽しんでいる人が多数派といえるだろう。さらに、ジアミンアレルギーは現状、花粉症ほど「誰にでも発生する」ものではない。しかし、私たちを取り巻く環境やライフスタイルが変化し、敏感な肌状態に悩む人が増えている今。頭皮環境に関する情報の浸透や、安心して使えるヘアプロダクトの開発は、カラーリングを自由に楽しむために、大切ではないかと考えている。

最新号紹介