ファッション

サステナブルな素材とは何か 世界の潮流を有力マテリアルコンサルに聞く 前編

 今、サステナブルな素材を選ぶときに必要な視点は何か。サステナブル素材としてオーガニックコットンやリサイクルポリエステルをイメージする人は多いが、今はより広い視点を持つことが求められる。「原料が何」で「どのように作られ」、その「証明」はあるか、「危険物不使用」であるか、「再生可能な資源」か、「水使用量」や「CO2排出量」はどうか、などなど現在私たちが抱えるさまざまな問題に適応しているかが求められ始めている。それと呼応するようにそうした課題解決を目指して、日々さまざまな新素材が生まれている。もちろん完璧な素材はない。日進月歩で進化するアパレル向けの素材最前線はどうなっているのか。世界の素材の潮流を知るマテリアルコネクション東京の吉川久美子代表取締役にアパレル向けのサステナブル素材の最新動向(2022年2月現在)を11のキーワードで分類してもらい、具体事例を聞いた。

【KEY WORD1】廃棄素材の利用

 一般的に製造プロセスから価値のない「廃棄物」と考えられているもの、またはその他の供給源から調達したもので、リサイクルされたカシミヤ、シルク、ポリエステル、果実や木の実の殻、葉、コーヒーパルプなどの廃棄物から作られたバイオ素材などを指す。

事例

拠点:スリランカ

組成・製法:アイスティーの製造プロセス廃棄物に由来する天然染料で、基本色の材料として茶殻80%以上と化学/合成染料を最大20%までを使用。顔料染色に似た工程で染色可能な繊維はシルク、ナイロン、リネン、ビスコース、それらの混紡。

機能・ポイント:農業廃棄物を活用して多様な色が表現できる。エコテックス、ブルーサイン、GOTSの各認証取得済み。


【KEY WORD2】再生可能素材

 再生可能素材とは、成長して収穫されたバイオベースの生物から供給される素材。急速に再生可能ではない木を含む(LEEDの定義による)。

事例1

拠点:メキシコ

組成・製法:サポテン植物由来のバイオポリマーから作られたなめし革に似た耐久性のある素材。生産工程では雨水と地域に豊富な土中鉱物のみを使用。

機能・ポイント:サボテン植物の成熟した葉のみを用いるため、同じ農園で6~8カ月ごとに新たな収穫が可能。地域の農業経済をサポート。サボテン畑は灌漑用水やエネルギーが不用で、除草剤や殺虫剤も一切不使用。EUのREACHとカリフォルニア州プロポジション65基準に適合。

事例2

拠点:フランス

組成・製法:綿のように加工された麻繊維。麻繊維に含まれるリグニンを除去して柔らかくした後に、既存の綿やウールの処理装置で紡績・仕上げを行う。デニムやシャツ向けで20~50%のブレンドで使用。

機能・ポイント:綿と同じ手触りと特性を満たし、既存の綿紡績機器が使用できる。生産工程で殺虫剤や植物衛生製品、遺伝子組み換え品、灌漑を使用していない。麻は綿に比べて生育に必要な水の量が少ない。仏政府公認の認証組織OCACIAによる持続可能性認証取得。


【KEY WORD3】リサイクル素材

 リサイクル素材とは、リサイクル前またはリサイクル後の素材を少なくとも5%含む材料で、糸の場合、廃棄布地と古着をケミカルリサイクルして作られたポリエステル生地やナイロン生地、マテリアルリサイクルで作られたシルクやウール、コットンなどを指す。

事例1

拠点:韓国

組成・製法:回収されたプレコンシューマー生地廃棄物から作られたスパンデックス糸。回収後、分別、洗浄を経て粉砕し、溶融されて標準的な紡績を経てスパンデックス糸に再生される。

機能・ポイント:バージンスパンデックス糸と同様の伸縮性と回復性を持つ。バージンスパンデックス糸と比べてGHG排出量、エネルギー消費、石油由来材料への依存を低減。リサイクルスパンデックス1トンあたり、約2トンの非再生可能原材料を節約できる。グローバル・リサイクル・スタンダード認証取得。

事例2

拠点:イタリア

組成・製法:シルク生産の廃棄物から作られたリサイクルシルク生地。機械的工程と漂白工程を用いて無彩色の糸に再生し、再度紡ぐ。シルクの輝きとカシミヤのような柔らかさがある。

機能・ポイント:コモで毎年大量に廃棄される染色/プリントされたシルクを活用するために開発した技術。ラグジュアリー製品の生産工程での廃棄物は焼却されることも少なくなく、倉庫にはテストプリント品や余剰生産品などが多くあり、その在庫を減らすための取り組み。再生されたシルクはグローバル・リサイクル・スタンダード認証取得。


【KEY WORD4】染色

事例1

拠点:インド

組成・性能:従来の水性染料と補助薬品を利用した水を使わない染色。最も効率的といわれる超臨界二酸化炭素(SC CO2)をベースにした染色および仕上げ技術。特許取得済。テキスタイルに染料や補助薬品を予備コーティングし、高い圧力で超臨界流体によって可溶化してテキスタイルに浸透させる。

機能・ポイント:単一工程で処理ができる。超臨界CO2溶剤と染料を再利用できる。色素材料だけではなく、柔軟剤、抗菌剤など仕上げ材を組み込むことができ、その処理のための複数工程、化学薬品、水、エネルギー消費を低減できる。

事例2

拠点:オランダ

組成・製法:バクテリアの一種であるフラポバクテリウム菌を用いて塗装とコーティングの構造色を生み出す技術。大量生産化に至っていないが、生分解性で毒性のない塗料の開発、色素ではなく構造による発色のため色褪せることのない塗料開発に向けた足がかりになる。

機能・ポイント:色素から作られるのではなく、細菌が生来持つ構造により、さまざまな波長で光を反射することで生み出される。


【KEY WORD5】フッ素

事例1

拠点:スイス

組成:特性:アヒルの羽毛の撥水性からヒントを得たPFCフリーの撥水性テキスタイル技術。標準的な仕上げプロセスによるコーティング。

機能・ポイント:耐変色性、通気性、手触りの良さ、摩耗耐性を損なわずあらゆる種類の生地に適応可能。ブルーサイン認証取得。EU REACH、US TSCA(米国有害物質規制法)、ZDHCなどほとんどの使用制限物質リスト規制に適合。


【KEY WORD6】トレーサビリティ

拠点:アメリカ

組成・製法:なめし革に分子的に塗布されるタグ付けシステムにより、製品や材料の追跡が可能になる。溶液または粉末状で生産される分子タグをサプライチェーンの多くの段階でなめし革に塗布できる。

機能・ポイント:分子タグはほとんどの素材の中に埋め込むことが可能。複製や複写が不可能な数無制限の固有のDNA配列が可能。


【KEY WORD7】LCA

拠点:スイス

組成・製法:微細藻類をベースにした合成テキスタイル向けの吸汗速乾仕上げ加工。原油ベースのテキスタイル用仕上げ薬品と同じ機械、同じプロセス条件下で可能。

機能・ポイント:従来の化学物質と同レベルの性能を提供し、すぐに置換可能。CO2排出量最大80%削減。植物種子ベースの化学成分と比較して同等コストで仕上げ強度は10%高い。USDAバイオベース優先プログラム、GOTS、ZDHC、グリーンスクリーン・ブロンズ、LCA認証取得。

*ここで提供された情報は製造元/供給源から提供されたものです。マテリアルコネクションは各メーカー/サプライヤーと協力してメーカーの技術を理解し、メーカーが行った有効性/主張を誠実に評価しますが、マテリアルコネクションが実施するインタビュープロセスではさらなる検証、妥当性確認、サードパーティのテストに代わるものではありません。


マテリアルコネクションとは?

 マテリアルに特化したコンサルティング会社で、グローバルではナイキ(NIKE)やケリング(KERING)、ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)やグーグル(GOOGLE)、コカ・コーラ(COCA COLA)やBMW、日本ではアシックス(ASICS)など各分野のリーディングカンパニーをクライアントに持つ。製品、デザイン、開発および製造のイノベーションをサポート。さまざまな領域の素材を、日本では常時3000点以上(データベースは1万点以上)をそろえる会員制ライブラリーを運営し、素材や加工技術をクロスボーダーに活用した素材提案や用途開発を支援する。

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