ビューティ

牛乳石鹸とスノーボードの知られざる関係 パラスノーボーダー岡本圭司選手をケガを越えサポート

 2月を迎え、ウィンタースポーツ最盛期!北京冬季五輪も開幕し、競技観戦を連日楽しみにしている人も多いだろう。ウィンタースポーツの中で人気が高いものの一つがスノーボードだが、ファッション&ビューティメディアの「WWDJAPAN」は、石鹸やシャンプーを扱う老舗企業の牛乳石鹸共進社と、スノーボードとのあまり知られていない関係性に注目。同社は北京冬季パラ五輪に出場する岡本圭司選手をケガを越えてスポンサードしているだけでなく、毎年スノーボードの大会を開催。長野・白馬のスキー場では、パーク(キッカー=ジャンプ台などが設置されたゲレンデのこと)の運営に協賛している。板やウエアのメーカーではない同社が、スノーボードの市場振興に浅からぬ貢献をしているのは一体なぜ?仕掛け人に聞いた。

WWD:牛乳石鹸共進社は創業110年超。石鹸やボディーソープ、シャンプーなどの老舗メーカーとスノーボードはやや縁遠く感じるが、選手のサポートや市場の活性化に注力しているのはなぜか。

宮崎清伍・牛乳石鹸共進社コーポレートコミュニケーション室課長(以下、宮崎):今から10年ほど前、当社の商品の客層分析を行った際に、ロイヤルユーザーが高齢化しているというデータが出た。20〜30代の認知度が低く、抱いたのが「このままではブランドが忘れ去られてしまう」という危機感。それで若年層向けのPRを強化しようという話になったが、当社にはテレビCMを作るような資金力はない。何か方法はないかと考えたときに、ややマイナーなスポーツの選手やそのスポーツ自体をサポートするのがいいんじゃないかということになった。スポーツをした後はシャワーで汗を流すため、石鹸とスポーツは親和性も高い。

WWD:北京パラ五輪出場選手であり、スノーボーダーやスキーヤー向けのSNSアプリを開発するなど、スノー業界のインフルエンサーでもある岡本圭司選手とは、どんな経緯で契約したのか。

宮崎:契約は 2013年。僕自身、若いころに個人的にスノーボードのサークル活動をしており、プロとしてまだ駆け出しだった岡本選手に、友達づてでサークルのツアーにインストラクターとして来てもらっていた。そのころからの縁だ。契約当時、岡本選手は競技活動よりムービーを撮影してスノーボードをカルチャーとして広めることに重きを置いていて、岡本選手を通して若年層とカルチャーでつながっていける点もマーケティング的にいいなと思った。他の横乗り系スポーツも候補として考えたが、スノーボードは他競技に比べてプロと一般客が一緒になって雪山で楽しめるため距離感が近く、ファミリー層にもリーチしやすい。そこが魅力的に映った。

WWD:岡本選手は15年に撮影中の大事故で下半身不随を宣告されてしまう。そこからの驚異的な回復やパラスノーボーダーとしての競技復帰は後になってドキュメンタリー番組でも取り上げられ、今では知っている人も少なくないが、スポンサー企業としては、事故直後に契約を切る選択肢もあったのでは。

宮崎:もちろんそういう話は社内でもあった。ただ、僕は事故直後から岡本選手がまた滑れるようになると信じていたし、当社の企業理念は「ずっと変わらぬ やさしさを。」だ。怪我をしたからって、本人が一番辛くて不安な時期に契約を切るのは「ずっと変わらぬやさしさ」ではない。そう社内を説得した。また、競技者としてではなくカルチャーの発信者として契約をしていたから、怪我をしてもスポンサーを続けやすかったという面もある。岡本選手を信じてずっと応援してきたが、パラ五輪に出場するほどまでになったことについては、うれしいと同時に非常に驚いている。

WWD:岡本選手らとのライダー契約以外に、「カウデイ(COWDAY)」というスノーボード大会も15年から毎年開催し、白馬のスキー場(白馬47ウィンタースポーツパーク)ではパーク運営に協賛している。

宮崎:岡本選手がスノーボード業界全体を盛り上げたいという思いが強く、当社もその思いに共感している。スノーボード市場がもっと盛り上がっていた時代は、国内でも「トヨタ・ビッグ・エア」や「エクストレイル・ジャム」といった大型スポンサーのついた大会があったが、今はほんの一握りのトップ選手向けの競技連盟主催の大会を除くと、国内大会は数えるほどしかない。大会という魅せる場がないことは、プロライダーにとってもアマチュアにとっても残念だ。僕も長く滑っているので分かるが、この業界はプロライダーといっても資金が潤沢ではなく、スキー場でアルバイトをしながら滑っている子も多い。そういうライダーの環境が少しでもよくなるように、力になれればと思っている。コロナ禍で21年、22年の「カウデイ」は映像審査にしたが、大阪・梅田のど真ん中にパークを設置して開催した年(19年)もある。そのときは3日間で1万人近い来場があり、雪山に行かない層にもリーチできた。白馬47のパークの協賛は14年から継続している。このスキー場はスノーボーダーに人気で、プロのライダーもよく滑りに来る場所。彼らのユーチューブなどに必ず当社の広告が映り込むので、協賛効果は高いと思っている。

WWD:選手や業界全体をサポートすることで、当初狙っていた20〜30代の認知アップは達成できたのか。

宮崎:岡本選手との契約後、公式フェイスブックの友達でスノーボーダーが一気に増えた。大会などで地道な商品サンプリングを続けている効果もあってか、直近の調査でも20〜30代の男女でブランド認知は徐々に上がってきている。若年層へのPRとして一定の効果はあると思っている。「スポーツメーカーでもないのになぜスノーボード?」と思われることは多いが、スキー競技だと不動産関係や食品メーカーなどもスポンサーになっている。

クライミングで一躍人気
野口、野中両選手とも契約

WWD:スノーボードだけでなく、実は東京五輪で一気に注目度が上がったスポーツクライミングの野口啓代選手(女子複合銅メダル)、野中生萌選手(同・銀メダル)とも長らく契約している。

宮崎:僕がクライミングジムに通っていた時期があって、クライミングをする女性にすごくきれいな人が多いことにマーケティング的に注目していた。それで、クライミングは当時は今ほど注目されていないスポーツだったが、今後絶対人気が出ると確信し、15年に野口選手、16年に野中選手と契約した。会社としてどうせ同じお金を出してスポーツのスポンサーをするなら、資金が潤沢でなく、やりたいことがやれていないジャンルを応援したい。既に資金が豊富なメジャースポーツにはあまり興味がない。ほかにも、大阪のママさん卓球をサポートしているし、直近では滋賀の近江神宮で毎年開催されている「競技かるた名人位・クィーン決定戦」のスポンサーにもなった。競技かるたは映画「ちはやふる」で知名度を高めたが、スポンサーは少ない。ややマイナーなジャンルを長らく応援していくことで、そのコミュニティーの人が「牛乳石鹸が好き」と言ってくれるようになる。これはスノーボードと同じだ。

WWD:五輪などの大きな大会で契約選手が活躍すると、商品の売り上げにも直接はね返ってくるのか。

宮崎:(五輪の公式スポンサーではないため、選手が五輪で活躍しても直接的なキャンペーンを行うことができず)東京五輪後も売り上げに大きな変化はなかった。そもそも、石鹸はどんなときも比較的ニーズが安定している商品だ。景気の良し悪しやイベントの有無によって、人が手を洗ったり、風呂に入ったりする回数が変わることはない。ただ、契約選手が活躍すると社内の士気はものすごく上がる。東京五輪後に、野口、野中両選手に会社に来てもらったが、「あの2人をサポートしている企業であることが誇らしい」と感じてくれた社員は多かったようだ。もともと、社内の部活動としてマラソン部やフットサル部、テニス部などがあって、福利厚生の一環として会社から部費も支給されている。スポーツ好きな社員が少なくない企業風土だ。

WWD:クライミングの2選手を青田買いしたように、今後人気が出るスポーツを見極める“目利き”として、現在注目しているスポーツジャンルはあるか。

宮崎:いま会社としてサポートしているのが、スノーボードにしろクライミングにしろ秋から冬にかけて盛り上がるものが多い。季節のバランスを取るために、春から夏にかけてのスポーツで何かいいものがないかと探しているところだ。(売り上げに直接はね返ってくることは少なくても)選手やスポーツをサポートしていくことで、草の根的に牛乳石鹸を知ってくださる方が増えたり、今回のように取材を申し込まれる機会があったりする。そこから、「ずっと変わらぬ やさしさを。」というわれわれの理念が広がっていけばいいなと思っている。

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