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商業化から20年以上経過も再び脚光、バイオプラPLAの特性とは?

 バイオプラスチック素材として知られるポリ乳酸(PLA)が、環境への負荷の低さから再び脚光を浴びている。日本ではユニチカがPLA繊維として「テラマック(TERRAMAC)」を1998年に商業化し、すでに20年以上が経過するなど歴史は意外と古い。ポイントは植物由来で生分解性がある点で、現在はユニチカと素材大手の東レ(“エコディア”)に加え、スタートアップ企業のバイオワークス(bioworks)も改質PLA“プラックス(PlaX)”の開発を進めている。

 現在、さまざまなサステナブル素材が開発段階にあり、過渡期にあるといえるが、PLAもその一つ。PLAにはどのような特徴があるのだろうか。

 PLAは石油ではなくトウモロコシやサトウキビを原料に、化学的な工程を経て製造されたバイオマスプラスチックだ。生分解性の特性があり、使用後にコンポストまたは土中など水分と温度が適度な環境下に置くことで加水分解が促進され、微生物による分解が進行し、最終的にはCO2と水に完全に分解する。また、生産時および焼却時のCO2排出量はポリエステルに比べて低く、焼却時にダイオキシンや塩化水素、NOx、Soxなどの有害物質は排出しない。

 PLA繊維“プラックス”を開発したバイオワークスによると、“プラックス”のCO2排出量はポリエステル糸と比較して生産時は35%、焼却時は21%少ないという。ユニチカは自社開発したPLA“テラマック(TERRAMAC)”の燃焼熱は、石油系プラスチックの1/2〜1/3と低いという。

 また、PLA樹脂・繊維には弱酸性、抗菌・消臭の機能性があるという。バイオワークスが開発したバイオタオル(コットン80%、PLA20%)は、コットンに比べて高い吸水性を持ち、速乾性と抗菌・消臭性がある。実際に室内干しすると、通常のコットン製タオルに比べて乾くのが速く、室内干し特有のにおいはしなかった。

 価格は石油由来のプラスチックよりも高い。しかし、PLAの2大メーカーであるネイチャーワークス(NatureWorks)とトタルコービオン(Total Corbion PLA)は現在、タイにプラントを増設中で、生産量が増えれば価格が下がることが期待できる。

 一方、課題もある。原料のトウモロコシやさとうきびは可食部が用いられており、PLAの生産量が増加すれば、食料への影響も大きくなる。非可食部分での開発も進んではいるというが、実現していない。また、生分解性があるものの高温多湿(温度が約60~80度、湿度100%の工業用コンポスト)の条件下でないと生分解しづらい。つまり、海水中や土の中では生分解されにくい。また、工業用コンポストにはエネルギーを要する。バイオワークスは現在、大学研究機関と発酵熱を出す菌を含む土壌での実証実験を行っており、実用化すれば工業用コンポストで必要なヒーターが不要になり、コンポスト時におけるCO2排出量を大幅に削減できるという。
 
 長く使い続けることはサステナビリティにおいて最も重要な点であるが、PLAは耐久性・耐熱性・耐衝撃性などの強度が弱い。衣料用を検討する場合、アイロンがかけられないなどの欠点もあり、強度を上げるために添加剤を用いるが、多くは石油由来のものが用いられている。バイオワークスは植物由来の添加剤を開発し、アパレル商材に耐えうる物性と染色性を得られているとはいうが、耐久性においては課題が残る。

 PLA運用の先駆者であるユニチカはこれまで、フィルム繊維や不織布、樹脂などさまざまに研究開発を進めたが、ティーバッグやボディタオル、土嚢袋などの産業資材に用いている。東レもティーバッグが最も多い用途だ。ユニチカの岡本昌司技術開発本部サステナブル推進室サステナブル推進グループ長は「ポリ乳酸の特性を生かすことが好ましく、耐熱性を上げるなど欠点を補おうとすると手間もコストもかかるので用途が限定されてしまう。生分解性があり、コンポストできるという特性が生かせる使い捨て用途に用いるのが用途展開する上で無理がなく最適と考えている」と話す。化石燃料ではない点や生分解性の特性から、使い捨てプラスチック製品の置き換えは有効だと言えるだろう。

 特に欧米や中国で進むコンポストの義務化や、ティーバッグなど使い捨て用途の素材規制といった法整備が進む中での需要は確実に高まっている。他方、マスクやおむつなどのエッセンシャルな製品以外の使い捨てプラスチック製品を減らそうという動きがあるため、どのような使い捨て製品の置き換えを想定するかもポイントになる。

 ユニチカは、自社開発したPLA“テラマック”に関して「使用の製品は、原料樹脂の性質上、使用状況や保管状態によって生分解が促進され、数年で劣化する場合がある」とし、商品が劣化した場合は、使用を中止することを促している。バイオワークスの“プラックス”はおよそ3~5年で分解が始まるという。東レは樹脂の強度を高めるため、ABS樹脂を組み合わせている。

 PLAは生産時と廃棄時における環境への負荷が低いといえるが、使い捨て用途ではない製品をコンポストできる素材と組み合わせて製造された場合、そもそもコンポストすべきなのだろうか。理想は廃棄することなく、再資源化すること。しかし現在、回収の仕組みが確立されていないことから、どのような繊維であっても再資源化は難しい状況である。そうした場合、PLAは最も重視すべき問題であるGHG排出量がポリエステルに比べて低いことから、環境負荷が低い素材の選択肢のひとつだといえるだろう。

 バイオワークスは、PLAのケミカルリサイクルは物理的に可能であるといい、混紡繊維であっても分離も可能だという(現在最も多い混紡繊維であるポリエステルとコットンは、技術的に分離は可能になったがスケール段階にありまだ実用化に至っていない)。しかし、ケミカルリサイクルは現在のPLAの規模では難しく、PLAの物質循環の実現には時間がかかるといえる。

 プラスチックやバイオポリマーの研究で知られる大阪大学大学院工学研究科応用化学専攻の宇山浩教授はPLAの可能性についてこう話す。「前提としてPLAに限らずバイオプラスチックは社会問題を背景に、従来のプラスチックの置き換えとして始まっており、今あるプラスチックに追い付こうとしている素材だ。つまりプラスチックよりも性能は劣るが、価格は高い。それを人々がどれだけ受け入れられるか、という話でもある。生分解性のポリマーで固い性質を持つのは現状PLAだけである。PLAのような生分解性で価格がある程度抑えられて一定の市場を作ることができるポリマーは出てこないのではないか。PLAは大事なポリマーになると思う」と分析する。PLAの衣料用途については「糸はポリマーが強くないと作ることができないため、PLAは染色が難しくポリエステルやナイロン、セルロース(綿)に比べて切れやすいなどの課題はある。しかし、(ポリエステルの置き換えなどを考え)生分解を求めるならPLAしかないと言えるだろう。ただし、性能の話は一般の方にどれだけ理解してもらえるか、という課題もある」と話した。

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