ファッション

業界のトップ経営者ら5人が語る「若手に期待すること」 ルミネ×WWDの次世代応援企画「MOVE ON」

 「WWDJAPAN」はルミネと共に、ファッション&ビューティ業界の次世代を応援するプロジェクト「MOVE ON」をこのたび開始した。「WWDJAPAN」が2017年に立ち上げ、業界の未来を担う人材を讃えてきた企画「NEXT LEADER」も、今年は「MOVE ON」の中で実施。受賞者は22年2月14日号で発表すると共に、3月2日に開催する「Next Generations Forum」にも登壇いただく予定だ。編集部の推薦や公募で募った候補者の中から受賞者を選出するのは、業界のトップ経営者らで構成するアドバイザーたち。今回は業界の中核を担う5人のアドバイザーに、「MOVE ON」や候補者に望むことを聞いた。

※アドバイザーは今後追加発表予定


WWD:「MOVE ON」にどんなことを期待しているか。

佐々木進ジュン社長(以下、佐々木):ビジネスの原動力はクリエイションです。新しい文化や考え方、価値観が生まれた時に、結果として経済はついてくるもの。ただ、現状は文化全般でリバイバルが多いし、何かと何かの掛け合わせであるリミックスが中心です。焼き直しではなく全く新しいものが出てくると、世の中もファッション業界も活性化していくと思います。「MOVE ON」が、そういった新しい価値観が出てくる場になればと期待しています。

近藤広幸マッシュホールディングス社長(以下、近藤):ファッション業界の次世代の話になると、音楽や映画の世界に比べてすごくマニアックだと感じます。業界内では知られていても、世の中は知らないというか。例えば音楽では、宇多田ヒカルさんが出てきたときに曲調にも歌詞にもゾクっとするものがあって、大人も子どもも魅了されました。ハンマーで頭を殴られるような、価値観をドーンと変えるような人がファッションでも出てきたら嬉しいですし、自分や自社も常にそうありたい。現状では、ファッションのクリエイションの部分は一部のマニアのもので、大量生産のブランドだけが大衆とつながっている印象です。消費者と直接つながって、クリエイションや情熱でみんなの心を刺激するような、メジャーな存在感の人に出てきてほしいですね。

山井梨沙スノーピーク社長(以下、山井):私はかつてファッションデザイナーを志し、アウトドア業界に転じました。ファッションは不確定さが面白くて、人の心を動かすモノが出てくる可能性は大いにあると思います。でも、そこにビジネスの商流がついてきていない。マスに向けた大量生産が小売りの支配的な商流としてあり、カルチャーを生み出す可能性のある新進ブランドの影響力はどんどん小さくなっています。D2Cも出てきてはいますが、ビジネスの手法の部分がもっと広がっていけば、業界としてよくなるんじゃないでしょうか。コロナによって従来のやり方にひずみが生じた今だからこそ、誰のために何をどう提供するのが最適かを考えて、新しいことができるはず。服をお客さまに提供すること自体が目的なのではなく、服はあくまで手段です。服によってどんな価値が伝えられるかをもっと掘り下げていくべき。これまで業界は、服自体を目的とする考え方に偏り過ぎていたのではないでしょうか。

齋藤峰明ルミネ顧問(以下、齋藤):ファッションはこれまで消費の最先端を担ってきました。それが行き着くところまで行って、このままでは続けられなくなっていますし、続けていってはいけない。このまま続けていけば地球環境は取り返しがつかないと多くの学者も指摘しています。消費社会を見直し、ファッションの役割や産業のあり方を転換していく必要があります。未来を担う世代の人たちには、われわれ世代がやってきたこと、やっていることを自由にどんどん批判してほしい。それを真摯に受け止めたいし、受け止める体制を業界として作ることが重要だと思っています。

佐々木:イノベーションとは非常識が常識になることですよね。ひょっとしたら、われわれアドバイザーの尺度で良い悪いを判断すること自体が予定調和を招くのかもしれません。「ZOZOTOWN」が始まったときも、服がECで売れるなんて誰も思っていませんでしたが、それを信念でやり通してここまで大きくなった。今までの尺度では測れないような、全然価値観の違うアイデアを持った人が自由に動ける環境を作っていくことが大事だと思っています。「NEXT LEADER」の選出でも、私たちの中で一番反対意見の多かった人が、ひょっとしたら一番可能性があるのかもしれない。そのくらいの発想の転換が必要です。

伊藤純子ルミネプロジェクト戦略部担当部長(以下、伊藤):ルミネの中で長らく業態開発などを担当してきましたが、1を2にするのではなく、0を1にするようなマインドを持った人と組みたいと常に思ってやってきました。商業施設は、1を2にも3にもしていくのが仕事です。だからこそ、0からアイデアを生み出せる人たちのことを本当に尊敬していますし、どうやっても敵わないと強く感じてきました。マーケットの進化やお客さまの気持ちに沿って、新しいものを生み出せる人はまだまだいると信じています。そういう人たちにとってチャンスとなる場がたくさんあってほしい。「MOVE ON」もその一つです。

「たとえダメだと言われてもやる
そうでないと新しいものは生まれない」

WWD:候補者に求める資質や、若い世代に伝えたいことは何か。

近藤:今は若い人にとって大チャンスの時代です。今回アドバイザーを引き受けたのは、今はサブカルチャーがカルチャーに変わる瞬間だから。かつてはクラシック音楽がカルチャーで、ビートルズがサブカルチャーでしたが、今となってはそれが入れ替わっています。同様に、従来はサブカルチャーだったサステナビリティの考え方が、先進国全てがコミットするメインカルチャーになっています。地球環境を無視したブランドはもう認められません。時代がガラっと変わる中では、大企業も駆け出しのブランドもみんな1年生。当社だって、オーガニックコスメなどの事業を始めてからほんの10年ちょっとですから。ココ・シャネルだってそうですよね。彼女は服装で女性を解放しましたが、当時は「女性は家にいるもの」という価値観から、外に出て働くようにカルチャーが変わる瞬間だった。あの時代はデザイナーにとって大チャンスだったわけです。社会的なルールが変わろうとしているとき、やはりファッションがそれをリードしないと絶対いけない。世の中が変わっていくことを後押しするデザインや、そんなデザインのルールを生み出すべきです。サステナビリティが審査基準の全てではないですが、そうした考えが0の人が「NEXT LEADER」にふさわしいとは思わない。大手も若手も関係なく、みんなライバルという時代ですから、候補者から自分にはないアイデアが出てきたら心底悔しいって僕も思いますよ。

山井:ファッションはカウンターカルチャーで時代を作ってきました。時代に反発してやったことが多数派になって、それが流行になっていく。でも、最近はカウンターですらないものが多いです。「このやり方に沿ってやればそこそこ稼げる」という感じのものが中心で、オリジナルが生まれてこない。たとえダメだと言われても振り切ってやるような人じゃないと、新しいものは生まれません。今の若い人は平均的にすごくよくできるんですが、突き抜けるものが見出しづらい。これはファッション業界に限った話ではないですし、教育や幼少期の環境といった部分に根っこがあるのかもしれませんが。

佐々木:“生き方のヒエラルキー”じゃないんだけど、業界の中で有名なトップの人に憧れて仕事を始めた人たちは、必然的にその人の生き方や価値観をなぞって、その枠の中で考えてしまう。だからその人たちからは新しい価値はなかなか出てこないと思うんです。全く新しい枠組みで物事を捉え、ライフスタイル提案からクリエイションまでできる人が必要だと考えます。

齋藤:ファッションは本来何をやってもいいはず。それなのに若者が自由にやらないということは、できる環境ではないんだということです。日本には優秀なクリエイターがたくさんいますが、世の中が多様性と口では言いながら仲間外れにならないようなモノを求めているから、クリエイターは自由にモノを作れない。ファッション業界は、そういう世の中のあり方から変えていかないといけないと思います。

「自分の“好き”を表現すべき
マーケティング先行では続かない」

WWD:自分自身がまだ「NEXT LEADER」世代だったころを振り返って、若い人にメッセージを。

山井:10年ほど前は、自分がファッション業界をよくしたいという思いを相当強く持っていましたね。時代を作ってやるんだと思っていました。

佐々木:仕事を通し世の中をよくしたいという目的はみんな一緒だと思います。その山(目的)に、自分は人とは違う登り方をしたいと思っていました。例えば、当時はインポートブランドの日本での紹介のされ方にすごく違和感を感じていて、それとは違うやり方を模索して、「アー・ペー・セー」との合弁会社を立ち上げたりしました。

近藤:当時は昼も夜もなく働いて、手痛い失敗を繰り返しながら「いつか見ていろ」と思ってやっていました。ファッションが大好きで、やりたいことや表現したいことがあるなら表現すべきです。そうした思いを抜きに、売れるかどうかのマーケティングで始めたようなものは続きませんから。

齋藤:勤め始めて5年間ほどは思うように仕事ができず、自分のクリエイティビティーが略奪されていくような感覚がありました。社会に出たばかりのころはみんな同じように感じるのではないでしょうか。でも、自分のやりたいことがビジネスとして表現できるようになると楽しくなってくる。そのためには勉強も大事です。何も分からない人には仕事を任せられません。

伊藤:元来好奇心旺盛だからというのもありますが、どんなことに対しても難しい、怖いと尻込みせずにやってきました。今考えると、それを支えてくれた大人がとても寛容でしたし、自分は今そういう存在になれているかとは常々考えます。若い皆さんにも、好奇心を大切に挑戦していってほしいですね。


【現在、公募も受け付け中】

「MOVE ON」では、「我こそは、業界の発展に貢献するネクストリーダーだ!」という自薦や、「業界の未来に、あの人は欠かせない」という他薦を募集しています。締め切りは2022年1月10日です。アツい想いやポートフォリオとともに、ぜひエントリーしてください。

問い合わせ先
ルミネ代表電話
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