ファッション

“スーツに見える作業着”にUA重松&アートディレクター葛西、超大物2人がタッグを組んだ理由

 「水道屋が作った“スーツに見える作業着”」として知られる「ワークウェアスーツ」(WORKWEAR SUIT)こと「WWS」が、飛躍に向けて新たなステップを踏み出す。2月16日には新ロゴのお披露目とともに、海外進出を含めた成長戦略を発表する。見逃せないのが、力強いサポーターの存在だ。1人はブランドの可能性を確信して2019年11月から顧問を務めているユナイテッドアローズの創業者であり現名誉会長の重松理氏。もう1人はアートディレクターの葛西薫氏。西武百貨店の往年の広告やサントリーの烏龍茶のCM、ユナイテッドアローズの広告、さらには虎屋グループ全体のクリエイティブディレクターを務めた、サン・アド顧問でもある重鎮だ。オアシスライフスタイルグループの関谷有三代表取締役を交えた鼎談から、その魅力と将来の可能性を探る。

UA重松名誉会長が
「WWS」にほれ込んだ理由

WWDジャパン(以下、WWD):今回、「WWS」のブランディングに際して、大御所の葛西さんがアートディレクションを手掛けると聞き、正直、驚いた。重松さんからお声がけしたとのことだが、お2人の出会いとは?

重松理ユナイテッドアローズ名誉会長兼オアシスグループ顧問(以下、重松):1996年に初めてユナイテッドアローズ(UA)が広告を打つときのアートディレクションに携わっていただいてから、25年以上の付き合いになる。実はUAはワールドから出資を受けて89年に創業した当初から株式公開を目指していた。90年に渋谷店、92年に原宿店を出店し、5~6期目に初めて黒字化した際、次の目標である株式公開に向けてどう助走するかを考えたときに、社会性を持つため広告を打とうと考え、行き着いた答えが、葛西さんだった。

葛西薫アートディレクター(以下、葛西):間を取り持ってくれたのはスタイリストの山本康一郎さん。当時サントリーのウイスキーの広告の仕事で、指揮者の岩城宏之さんや脚本家の倉本聰さんなど著名人の男性のスタイリングを山本康一郎さんに担当いただいていた。その山本さんからある日突然、「ユナイテッドアローズが初めて広告を打つので、紹介させてほしい」と言われて驚いた。トレンドに疎くて若者風は苦手でファッションの広告は遠ざけていたけれど、「その素の感じがいい」といわれた。普段は年上の社長と仕事をすることが多い中で、重松さんとは同い年だったこともあって意気投合して、それからはずっとお付き合いさせてもらっている。

WWD:では、重松さんが「WWS」を知ったきっかけは?

重松:UAの顧客である佐藤修(マスターピース・グループ会長兼社長)さんから「今興味を持っている経営者がいる。おやじの会社を引き継いだ水道工事会社の社長で、「スーツに見える作業着」というものを作った。3Kのイメージがある中で人を採用するにはものすごく努力が必要な中、高い伸縮性と撥水性を持ち、かっこよくて、通勤着にもなり、そのまま作業をして、軽く表面を払えば、食事やデートにも行ける優れものだ」と聞かされて。本当かな、と最初は半信半疑だったけれど、自分が着物の上に羽織る雨がっぱを作ってもらえたら、という下心もあって会うことにした(笑)。

関谷有三オアシスライフスタイルグループ代表取締役(以下、関谷):重松さんを紹介いただきありがたかったが、実は正直、戸惑ってもいた。憧れの経営者なのでお会いしてみたい、感想やアドバイスが欲しいとは思いつつも、僕らなりの問題意識を持ち、アパレルの人間じゃないからできた服だという自負もあった。しかも、「究極のマルチウエア」「服を買い替えないサステナブルな考え方」など、アパレルの方々の観点とは真逆だと思う。その中でアパレル界の神様みたいな人にお会いしたときに、プラスになるのか、お叱りを受けるか……。でも、服を見た瞬間、第一声で「この生地はいいね」と言っていただき、「君たちがやろうとしているこの服のコンセプトは、これからの時代に合っている」「アパレルの人間では絶対に考えられない発想だ」「何色にも染まらずにやっていったほうがいい」と言われ、自信をいただいた。

WWD:商品の第一印象は?また、顧問を引き受けることを決めた理由は?

重松:素材を見たときに、「これはスゴイ!」と感動した。ぬめり感があって高級感があって。触れても羽織っても気持ちいいし、よく伸びる。しかも、雨や水にも強い。企業の制服として続々と採用され右肩上がりで伸びているのも納得だった。同業他社だとさすがに(顧問は)できないが、普通のアパレルとは違うジャンルだし、社会にとって絶対不可欠なものなのでもっと需要が高まるだろうと思い、お手伝いしようと決めた。まずは素材が一番の特徴だから、素材をブランドにしようと、「アルティメックス(ultimex)」と名付けた。究極という意味で、“ダントツ”“ぶっちりぎ”という好きな言葉を付けた。もう一つ、この事務所に初めて来たときに、ZOZOを初めて訪ねて創業者の前澤友作さんに会ったときと同じ匂いがした。自分たちの感性ではないクリエイティブだなと思った。若さや独特のエネルギーがあり活気があった。成長するなと直感した。

オアシス関谷代表の
「WWS」の開発に込めた思い

WWD:では関谷さん、あらためて「WWS」の開発に込めた想いとは?

関谷:もともと水道屋からスタートし、台湾で出合った「春水堂」を情熱だけで日本に持ってきて運営したりもしていた。そんな中、水道会社が10周年の節目に記念事業として「作業着をかっこよくしたら、若い人材の採用が増えるのでは」という人事の発案が「WWS」の出発点になった。僕も子どものころから作業着を着た大人に囲まれていたので、かっこいいと思う反面、気になるときもあった。クリスマスに家族でイタリアンレストランに食事に行ったときも父親はいつも通り作業着姿で。たまたま同級生の家族が隣の席にいて、パリッとスーツを着た友達のお父さんを見て、恥ずかしくなってしまって。そこから、作業着は動きやすくて毎日洗えて機能性が高いのは当たり前だけれど、スマートではいけないのかという疑問が潜在意識に刻み込まれた。また、作業着が当たり前の家だったので、スーツは堅苦しくて嫌いだった。その思いが混在していたからこそ、「作業着ともスーツとも違う、これからの時代にニュースタンダードになる服を作る!」とエネルギーを注げた。

WWD:開発は順調に進んだ? 一番苦労したことは?

関谷:素材の壁だ。スペックとして耐久性や撥水性など機能性の良いスポーツ素材はあるけれど、機能性が高いと重くなったりシャカシャカ音がしたり着心地が悪くなってしまう。逆に着心地を重視すると耐久性が失われたり。100種類近い生地を検討したが、理想的なものはなかった。結局、2年間と数千万円をかけてオリジナルの生地を開発した。すごくいいものができたという自負はあったが、社内向けだけに開発しているなんてもったいないと知人に指摘され、事業化しようと決意。三菱地所から高級マンションの管理人用に採用したいと依頼され、そこから事業がスタートした。

WWD:葛西さんが今回、アートディレクションの仕事を引き受けた経緯は?

重松:新しいモノやコトが、社会の中でどういう位置付けになるかは広告次第で大きく変わってくる。葛西さんは社会性やフィロソフィーを作ってくれる方。その重要な部分を葛西さんに託したいと思った。お忙しいし、誰でも彼でも仕事を受けてもらえるものでもない。これまでも僕の方から、葛西さんに紹介した企業は、1社だけ。けど、世の中の課題を本気で解決しようとしているところは、絶対に断らないという確信があった。

葛西:重松さんに紹介いただいたのは19年の終わりごろ。実は仕事に対して慎重だった時期だったが、関谷さんからお話を伺えば伺うほど、ムラムラと僕の頭の中にやる気が湧いてきて、これは面白そうだな、と。新しいジャンルなので丁寧に世の中に出すべきで、だからこそ、むしろやりがいも感じた。スティーブ・ジョブス(Steve Jobs)が起こしたアップル(APPLE)のようでありたいと互いに話が盛り上がった。何よりも、未来に向けた熱意と、論理的なものを両方感じたのが大きかった。実際、「WWS」は雨の日にも重宝で、柔らかくて軽くてシワになりづらい。いくらでも自由に着られる重宝さを体感した。いわゆる作業着でもないし、洋服なのか何なのか。形としてはファッションだけど、全く新しいカテゴリー、新しいジャンルの、新しい究極のもの、まさにアルティメイトだと驚いた。

ロゴは究極のシンプル、
葛西アートディレクターが
行き着いた“答え”

WWD:今回の新ロゴ「WWS」と「ワークウェア スーツ」に託した思いは?

葛西:“ニュースタンダード”という言葉が何度か出ているが、突飛なものではなく、永遠に続くもの、ジャンルを問わないようなものを目指した。広範囲に考えて、さまざまな角度のものを関谷さんにご覧いただき、試しながら広げながら探るという形を取ったが、言葉も選ぶ視点も明快で、(関谷さんには)アートディレクターの気質があるとも感じた。提案ではまず、「WORK WEAR SUIT」をWORKWEARとSUITの2単語にした。「WWS」のためにつくったロゴも「WとW」をくっつけてSの間にスペースを入れた。そして「WWS」のために考えたマークが結果的に「ultimex」のマークになり、関谷さんとの話し合いから霧が晴れるようにロゴやマークが決まっていった。生地の伸張性、撥水性や、水道に欠かせない水の象徴の色として、さわやかな水色を採用し、フレッシュさ、青春の青、青さや若さ、これから成長していく誕生感、変幻自在さなどを込めた。印刷では青100%という色で、仕事に向き合う際に気持ちにスイッチが入るようなものとした。

WWD:ブランドロゴのスローガンは?

葛西:“Be Borderless”です。企業のコンセプトから“平等”という言葉が浮かび、年齢も性別も職業も人種も全てが貴賤がなく平等であろうとしているから「ボーダーレス」だと。これから国境も国籍も超えて世界に出ていこうとしている姿勢にも合う。コロナ禍でウイルスの広がりには国境は関係ないことが際立ったが、逆に、アメリカ、中国、北朝鮮など政治的問題による国と国との対立は深刻化している。そんな世にあって、「WWS」は平等の象徴になるのではないかと思う。地球を守ろうという思想もつながっている。仕事着でもフォーマルでもカジュアルでも使えるこの服の存在はとても貴重だ。しかも、仕事に臨むというのはどんな仕事でも身が引き締まる行為だ。いい意味で儀式的な気分、フォーマルな気分をもたらしてくれる存在でもある。働く喜びを知る、そういう意味でも平等であり、平等の喜びを表す象徴的なものになればと願っている。

新アイテムも続々、
目指すは“次世代の標準服”

関谷:スーツの形をしたワークウェア、作業着としてスタートしたが、ニューノーマルな時代に、作業着でもスーツでもない、「今の時代に合うボーダーレスウエア」として、スーツだけでないものを作ろうとしている。それがウィメンズ向けのワンピースやコートだ。次世代のニューノーマルなスタンダードブランドとして打ち出していきたい。「リーバイス」が作業着からデニムをブランド化したように、今後はワークウェアやスーツを「WWS」に昇華させ、象徴的なブランドになりたい。そして、アップルやテスラのような存在になりたい。テスラは自動車メーカーではなく、しがらみや過去の研究開発を度外視した車づくりをしているところに価値がある。僕らもアパレル出身でない服作りによって、これからの時代のニュースタンダードをつくり、世界の新しいシンボルになるブランドになりたい。

WWD:今後の事業計画は?

関谷:法人の採用企業は800社を超え、直営店、ECに加えてポップアップストアを展開しているところだ。ただ、通常のアパレルメーカーは店を100店舗、200店舗と広げるが、D2C、DX型でアップルやテスラのようなショールームを全国で15カ所前後展開し、実際手で触れて体験できる場所とし、販売はECを中心に行っていく予定だ。社会に評価される企業として、上場も目指していきたい。海外についてもロンドンを皮切りに中国やアメリカにも積極的に進出していきたい。

INTERVIEW & TEXT:KUMI MATSUSHITA
PHOTO:KAZUO YOSHIDA

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