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サステナビリティって何? 専門家が答えます。連載Vol.7 ファッションの名門セント・マーチンの教授に聞く“未来の素材”

 サステナビリティに取り組まない企業は存続できない――といわれる一方で、具体的に何をどうしたらいいのか分からないという声も聞く。そこで「WWDジャパン」11月25日号では、特集「サステナビリティ推進か、ビジネスを失うか」を企画し、経営者やデザイナー、学者に話を聞きその解決策を探る。今回は名門セント・マーチン美術大学(Central Saint Martins)マテリアル・フューチャーズ学科のキーラン・ジョーンズ(KIERAN JONES)=主任教授に“未来の素材”を問う。

「重視しているのは、最新技術を
どう産業に組み込むか」

WWD:修了生の就職先はナイキ(NIKE)のような人気企業から、バイオテクノロジーの有力スタートアップ、モダンメドウ(MODERN MEDOW)まで幅広いが、いずれも分野のトップ企業ばかりだ。企業ですぐに活躍できる学生を送り出しているが、マテリアル・フューチャーズ学科の強みは?

キーラン・ジョーンズ=マテリアル・フューチャーズ学科主任教授(以下、ジョーンズ):学生は自らセルロースなどを培養していて、そうした最新技術を身に付けながら、その素材をどう生産工程に組み込んでいくか、どうスケールアップしていくかを重視している。サンプルを意味あるモノに変えていくことが重要だからね。この9月から学内にバイオラボを開設して専門家2人が常駐することになったのも、そうした考えからだ。

10年前は、私たちがやっていることはクレイジーだと不思議がられた。けれど今は真逆で、さまざまな分野の人たちが訪ねてくる。専門知識を求めてね。例えば「ステラ マッカートニー(STELLA McCARTNEY)」やLVMHもそう。

WWD:学生はほかにどういうところに就職するのか。

ジョーンズ:例えば、菌やバクテリアなど微生物のセルロースでスニーカーを編み上げるバイオ編機を開発したジェン・キーン(Jen keane)は、ちょっとした競争入札になって、ナイキ、アディダス(ADIDAS)、プーマ(PUMA)が争っていた。パイナップルの葉の繊維から織物を作る技術を開発したナタリー・スペンサー(Nathalie Spencer)はパイナップルの葉の繊維からレザー風の素材を作るアナナス・アナム(ANANAS ANAM)に行った。

「学生たちは自然を操れる力があると信じている。想像もできなかったことが起きているから」

WWD:学生が就職したいと思う企業も変わっている?

ジョーンズ:ファッション学科全体では、現在のメインはクチュールハウスだろう。しかし、これから大学に入る若い世代は企業に変化を求めているし、彼らは全く新しい道を選ぶだろう。

だから、変化できない企業は大きなリスクを背負うことになる。5年先は大丈夫かもしれないが、その後は絶望的なトラブルに見舞われるだろう。

われわれが教える学生たちは産業に合わせるのではなく、積極的に改善し、産業を破壊するのではなくリードして新しい方向に導く人物だ。

WWD:今学生たちが一番面白いと感じていることは?

ジョーンズ:間違いなくバイオデザインだ。特にラボで育てる菌糸体、バクテリア、キノコ類、粘菌などがそう。新しい分野であり、錬金術のような魔法みたいなところがあるから。プラスチックを食べる酵素が開発されたりと、遠い未来に起こると思われたことが今起こっている。そして今の学生たちは、自然を操れる力があると信じている。2年前に想像できなかったことが目の前で起こっているから。

「デザインは強いツールだが、今までとは異なるアプローチが求められる」

WWD:なぜ今、サステナビリティがかつてないほど大きなトピックになっているのか。

ジョーンズ:人類の歴史上、今ほど変わらなければいけないという証拠がそろっていることはないから。エクスティンクション・リベリオン(Extinction Rebellion:英国を中心に起きている気候変動に抗議する非暴力行動)やグレタ・トゥンベリ(Greta Thunberg:スウェーデン出身の環境活動家)を見ていたらそれが分かる。けれど、(抗議活動ばかりが報道されていて)それらは問題の本質から目をそらせてしまっているのも事実。国連のSDGs(持続可能な開発目標)やどの信頼できるレポートを見てもどれも同じことを言っている。これから10年、20年、30年後、具体的な数字は定かではないが、今までのようにはやっていけないということは明らかだ。

私たちはこれまで、モノを作ることを学んできた。特に売れるモノをね。だけどこれからの学生たちは、“デザインとは何か”を考え直さなければならない。デザインは本当に強いツールであり、私たちが持っている最も魅力的でパワフルな道具だけど、今までとは異なるアプローチが求められる。

WWD:デザインを根本的に変えなければいけないのはなぜ?

ジョーンズ:ファッション、デザイン、アート、建築は実はとても破壊的なんだ。特にファッションは廃棄物が多い産業トップ3に入る。英国におけるファッション産業の環境への負荷は輸送産業よりもひどいと言われている。そう考えるとショックだよね。

素材でいうと、1950~60年代は合成繊維の開発に突っ走っていたけど、それ以降、技術的進歩はあまり見られなかった。それよりもトレンドやデザインといった見た目を重視していたから。でも今はまた素材に関心が戻ってきていて、面白いことができるようになっている。

「問題は山積み。
状況に合うパズルを見つけて
はめ込むイメージで取り組むこと」

WWD:ファッション産業の問題点は?

ジョーンズ:全て。何かに限定できない。一つ一つの問題に関して深く考えていくことが必要だ。例えば、循環型の仕組みにはまらない合成繊維を使うべきではないのは明らかだけれど、天然繊維だったとしても、コットンの栽培には水が大量に必要だし、農地も必要でしょう。ほとんどが農薬も肥料も使う。モノによっては合成繊維よりも環境に悪い可能性もある。仕組みや状況に合うパズルを見つけてうまくはめていくイメージで取り組むことが必要だね。

WWD:今、循環型の考え方が重視されている。

ジョーンズ:循環型の考え方は絶対に必要だ。素材や仕組みから考えなければいけないけれど、今ある仕組みに適応できなかったら意味がない。今のベストは、すでにある合成繊維や山ほど捨てられているものを再利用して新しい服を作ること。そのプロセスも最低限のエネルギー使用にとどめて、染料の使用も控えて永遠にリサイクルすること。そして、素材をミックスするのをやめて単一素材に替え、解体できるデザインにする。素材の構成はもちろん、どう回収するかまで考えなければならない。

WWD:単一素材だと面白味がなくなるかも。

ジョーンズ:単一素材か、もしくは簡単に分解できる構成素材ならばよし。循環型の生産をするには、法律を変える必要があるかもしれない。各企業が分解できるもののみの生産を許されるなどね。

WWD:今後ファッション業界はどうなると思う?

ジョーンズ:ファッションのぜいたくなところはなくならないと思う。ファッションは退廃的で、だからこそ好きだし遊び心があると感じる。それはたぶん誰も失いたくない点だろう。一番変わるのは消費者が服とどうつながるかだと思う。

私たちは今、目に見えるデザインが気に入ったから購入するという習慣だけど、これからはブランドが取り組むサステナビリティのここが好き、と選ぶことになると思う。一つの会社が全部をカバーするのは無理だからね。例えば、循環型、バイオマテリアル、生分解性、山林破壊をしていない、節水、汚水を出さないなど、全ての要素をカバーできるわけがない。だから企業はよく考えて、サステナビリティの何にフォーカスするのかを決めなければいけない。