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「ヘアドネーション」第一人者に聞いた 小学生でもできる社会貢献

 “ヘアドネーション”という活動について耳にすることが最近増えてきたと思いませんか。実は周りにもロングヘアをバッサリとカットした人が何人かいて、聞けばヘアドネーションをしたということでした。“ヘアドネーション”とは特別非営利活動法人ジャパン ヘアドネーション アンド チャリティー(ジャーダック)が2009年に始めた小児がんや先天性の脱毛症、不慮の事故などで頭髪を失った18歳以下の子供のために、寄付された髪の毛でフルオーダーのウイッグを作り無償で提供する活動のこと。開始当時は月1~2件の寄付だったのが、18年には1日200~300件の寄付数となり、過去10年間で増加し続けています。今では髪を寄付する人は20~40代の女性にとどまらず、小学生や中学生といった10代にまで広がっています。しかし、実際には“ヘアドネーション”とはどんな活動なのか、なぜ必要なのか、寄付した髪の毛がその後どのようにウイッグになるのかを知っている人は少ないのではないのでしょうか。そこでヘアドネーションの第一人者でジャーダックの代表を務める渡辺貴一さんにヘアドネーションが始まった経緯や注目されるようになったきっかけなどを聞きました。

WWD:ヘアドネーションとはどのような活動ですか。

渡辺貴一(以下、渡辺):ジャーダックでは18歳以下の子どもに、寄付された髪の毛だけでフルオーダーのウイッグを作り無償で提供しています。今、一般に販売されているウイッグの多くは手ごろな価格を実現するために少ないサイズ展開で大量生産され、そのほとんどが大人用です。小児用ウイッグもありますが種類が少なく、オーダーで作ったとしても成長によるサイズの変化などで買い換えを迫られ、治療と並行してその費用を捻出することは家計への重い負担になってしまうんです。

WWD:そもそもジャーダックを設立したきっかけは何だったのでしょうか。

渡辺:美容師として美容室で働いていたのですが、独立することを考えたとき、お金儲けではなく、せっかく独立するのだから自分たちができる何かをやりたいと考えたんです。自分たちが携わる美容を通じて何か行動を起こせればと独立した1年後にジャーダックを立ち上げて10年になります。けれどもすごく社会貢献を意識していたわけではありません。

WWD:では初めからヘアドネーションというわけではなかったんですね。

渡辺:お店を一緒に立ち上げたもう1人のパートナーと自分は海外で生活したことがあって、アメリカではヘアドネーションがあるけど日本にはないことに気がついたんです。美容師だから毎日髪を切るし、取り組むにはいいかなと軽い気持ちで始めました。美容師だからこそ、美容を通して何かできるんじゃないかっていう単純な発想です。

WWD:美容師だからこそできるという点でも広がっていますか。

渡辺:僕らが始める10年ほど前にアメリカでヘアドネーションは始まりました。チャリティーが根付いている国では美容室を介さずに個人で取り組みます。日本は少し特殊で、賛同店という形で美容室の協力の下行っています。美容業界では一緒に取り組もうという意識が高く、月100店ほどのペースで賛同店は増え、今では4000店に上っています。

WWD:日本でヘアドネーションを取り入れることにどんな困難がありましたか。

渡辺:何もない状態からスタートしたので、規定作りから始めました。最低でも31cmの長さを必要とするということも、ウイッグを作る企業と工場からのアドバイスによって決定しています。ジャーダックのウイッグは耐久性を上げるために、1本の髪の毛を折り返して植え付けるので、31cmあってもボブスタイルにできるぎりぎりの長さになります。髪の色や質を均一に整えるためにトリートメント処理が施されるため、31cm以上の長さがあれば、カラーやパーマ、グレイヘア、白髪、くせ毛、性別、国籍問わず寄付することが可能です。15cmという団体もありますが、その場合帽子に毛束を付けたものになります。このような団体ごとの違いや、フルウィッグが作れるのか、帽子になるのかはいろいろあるのですが、ヘアドネーションは新しい文化なのでイメージが独り歩きしてしまっている部分もあると思います。

WWD:ヘアドネーションの認知度が急激に上がったきっかけは何でしょうか。

渡辺:2015年の後半に女優の柴咲コウさんが髪を寄付したことですね。規模はそれまでの3倍になりました。ジャーダック設立当初は年間20体ほどのウイッグを手渡すことが精一杯でした。彼女のおかげでヘアドネーションの認知度は格段に上がり、20代のおしゃれな女性たちに広まりました。そんな女性たちが子育て世代となり、その子どもたちがヘアドネーションをするという流れもできてきています。最近では男の子が寄付することも話題になっていますね。

WWD:拡大した活動についてどのように思われますか。

渡辺:誰でも伸びる髪の毛だからこそ、参加のハードルが低いとも言えます。また10代の間に広まっているのは、お金の寄付を訴えているわけではないからだと思います。髪の毛の寄付であれば、自分にもできると思ってもらえます。始めた当初はこんな風に広がるなんて想像もしていませんでしたし、活動が広がり安定するためには、キャッチ―さやおしゃれさも必要です。ただ、ブームとしてもてはやされるのは違います。入り口はヘアドネーションであっても、なぜヘアドネーションという活動が必要なのか、脱毛症とはどんな症状なのか、髪の毛がないことが生活においてどんな苦労や困難があるのか。髪の毛があることが当たり前という常識に少し疑問を持ってほしいんです。

WWD:今後の活動をどのように考えていますか。

渡辺:以前に比べればたくさんの髪の毛が集まるようになってきてはいますが、年間で手渡せるウイッグの数はまだ少ないのが現状です。よほど資金が集まったり企業のバックアップが得られない限り、これ以上のペースアップは難しいと感じています。僕一人でやっていたときの年間20体から5倍の、現在の100体にするまで10年がかかりました。そんな中でウイッグを制作するペースを上げるとしたら、抗がん剤治療などで一時的に必要な人のためにフルオーダーではなく安価に作って、ジャーダックの毛を植えるというものも構想しています。

WWD:ウイッグの違いや置かれている状況によって求めるウイッグが違うことを知っている人は少ないでしょうね。

渡辺:日常的にウイッグが必要な脱毛症の人と、がんの治療の際に必要な人とは、求めるウイッグの質や手元に届くまで待てるのかなど条件が違います。ジャーダックのフルウィッグを待つのか、他の団体の帽子を待つのか、求めているものや用途は人によって全然違うんです。来月から抗がん剤治療が始まるからすぐにでも欲しいという人もいます。そういう方には子ども用サイズの規格物を素早く手渡せたら、それはそれで価値が生まれます。それにジャーダックへ寄付してもらった髪の毛を植え付けることで、ヘアドネーションとしての意味も出てくると思います。そういった提供実績といった面でも取り組んでいけたらと考えています。