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「カルバン・クライン」出身のフローリストが語る 「僕がフラワーアレンジメントにハマる理由」

 ニューヨーク・ブルックリンに店を構えるフラワーショップ「FDKフローラルズ(FDK FLORALS)」は、その美しくモダンなフラワーアレンジメントと共に、創業者の経歴やクライアントの華やかさが注目を集めている。同フラワーショップは、「カルバン・クライン(CALVIN KLEIN)」でハンドバッグのデザイナーをしていたフェルナンド・カビグティン(Fernando Kabigting)が2018年5月にオープン。それから半年あまりの間に、フェルナンドは「グッチ(GUCCI)」のパーティーやセレクトショップのトトカエロ(TOTOKAELO)をアレンジメントで彩り、カイリー・ジェンナー(Kylie Jenner)のメイクアップアーティストであるナム・ヴォー(Nam Vo)と協働している。それに加え、フェルナンドはニューヨーク・ウィリアムズバーグにある「アーバンアウトフィッターズ(URBAN OUTFITTERS)」のコンセプトショップであるナインティ8(NINETY8)でフラワーアレンジメントの教室を開き、生徒たちに生け花の心について語りかけている。

 18年秋、フェルナンドはパートナーと共に来日し、東京や横浜、そして京都の郊外を訪れた。華道家と会い、日本古来の美意識であるわびさびや非対称性の美について、また日本のフラワーアレンジメントが自然を反映していることについて学んだという。「日本人が思う“自然”には、曲がった枝や、枯れかけた葉が生き生きとしたツタの隣に落ちていることも含まれているんだ」。

 フェルナンドがパートナーと愛犬と共に住むブルックリンの洒落たアパートメントのテーブルには、円筒型の缶やガラスの花瓶が置かれ、小さな赤いバラのつぼみやスイカズラの実、家の外に生えているイチョウの木の葉などが無造作に並べられている。それらをひとつかみずつ取り、ざっくりとまとめていくフェルナンドの手には、あっという間にセンスのいいフラワーアレンジメントが出来上がっていた。「カルバン・クライン」で買ったというストーン製の花瓶にそれを生けると、枝を少し切って整え、最後に友人の家からもらってきた古ぼけたマッシュルームを添える。「ほらね?」とフェルナンドが示す。花という美しいものの隣に、不格好なマッシュルームがあることによって生まれる、非対称性の美。完璧ではないからこその美しさが、絶妙なバランスで表現されている。

 フェルナンドがファッション業界で働き始めたのは、2000年代の初め、ロサンゼルスでのことだった。「ビーシービージーマックスアズリア(BCBG MAX AZRIA)」に3年ほど勤め、2010年にニューヨークに引っ越した。非営利団体で働いたり、マーケティングに携わったりした後、香港企業のリー&フォン(LI & FUNG)に勤務。そして「カルバン・クライン」の手頃な価格帯の製品を扱う部門でハンドバッグのデザインを担当したが、やがて別のブランドに転職した。しかし、ラフ・シモンズ(Raf Simons)が「カルバン・クライン」を率いるようになった頃、戻ってこないかと声がかかり、フェルナンドはそれを快諾する。「ラフが示した新たな方向性はとてもエキサイティングで、それに参加したいと思ったんだ」と話す。ラフの指揮の下、クリエイティブ・チームやデザイナーたちは自由に仕事をすることができたという。「ある日は、インスピレーションを受けるためにチーム全員でニューヨーク郊外にある現代美術館のディア・ビーコン(DIA:BEACON)を訪れた。別の日には、届いたサンプルの写真を撮ったり、国外の工場とやりとりしたり。そしてまた別の日には、革をひたすらカットしていたよ」。

 花やフラワーアレンジメントへの興味は、フェルナンドがまだロサンゼルスに住んでいた09年当時からすでにあった。自宅でパーティーを開く際には、天井のパイプに木の枝をくくり付けるなどの飾りつけをして楽しんだ。「カルバン・クライン」にいた時代は、同僚の誕生日に手製のフラワーアレンジメントを贈ったり、みんなの机の上に植物の茎を飾ったりした。そして18年1月、フラワーショップを開くことを決め、5月には「カルバン・クライン」を退職して「FDKフローラルズ」を開店した。

 その後の活躍は前述の通りだ。フェルナンドによれば、集中力が長く続かないために転職を繰り返したが、フラワーアレンジメントに必要なクリエイティビティーを発揮するには、むしろその方がいいという。色彩とテクスチャーをぱっと見極め、花材で物語を紡いでいくのだ。「僕はテレビのコマーシャルは飛ばすし、本を最初から最後まで読み通せない。先に最後のページを読んでしまう。映画でもそれは同じで、とにかくすぐに面白い部分が見たい。ファッションは、そこが僕に合っていたんだと思う。美しくスタイリングされたものをぱっと見て、すぐにその素晴らしさに感動できる。僕はそういうことを意識してハンドバッグをデザインしていたし、フラワーアレンジメントも同じだよ。バッグの、肩にかけられたストラップのしなやかな美しさを愛でるように、植物の茎が描く細長いラインを愛でるんだ」。

 フェルナンドは、今でもブランドのコンサルティングやバッグのデザインといったファッション関連の仕事を依頼されることがあるが、「FDKフローラルズ」を最優先している。そのかいがあり、設立当初に目指した理想の形に半年でかなり近づいた。19年は、世界中をもっと旅してさまざまなフラワーデザインを学び、新たな花材と出合いたいという。「フラワーアレンジメントについてさらに深く学び、見聞を広めようと思っている。『FDKフローラルズ』の仕事は、ハネムーン期間のような楽しさがずっと続いている感じなんだ」。