ファッション

グーグルと日本の小さな繊維会社が変える衣服の未来

 「グーグル(Google)は、アパレル産業にどのようなインパクトを与えるのか」。つい半年前までほとんど意味をなさなかったこの問いが、関係者の間で真剣味を持って語られることになった。グーグルは5月、米国リーバイ・ストラウス社(LEVI STRAUSS)と組み、ジーンズでスマートフォンなどを操作できる“スマートジーンズ ”を発表した。このジーンズに使用したテキスタイル「プロジェクト ジャカード(PROJECT JACQUARD)」は、グーグルの頭脳とも言える研究開発部門「ATAP(Advanced Technology and Projects)」が日本企業2社をパートナーに開発したものだ。だがその2社は、いずれも東レのような大手企業ではなく、親子二人で運営するテキスタイル会社アンファンテリブルと、気鋭のテキスタイルデザイナー梶原加奈子が率いるデザインハウスKDSだった。

 アンファンテリブルの工房兼オフィスは、東京・八王子の住宅街の一角にある。通常の一軒家を改造した工房兼オフィスには原田晶三・代表が全国の職人と一緒に生産した藍染めのテキスタイルやウールの糸などが所狭しと並び、ベランダにはこの工房で生産した無数の藍染めTシャツが棚引いている。かつては都心にオフィスを構え、アパレル向けのテキスタイルの企画・生産を手掛けていたが、10年ほど前に住み家のある八王子に戻り、息子と二人でこの工房兼オフィスを開いた。「サイクルが早いファッションのシステムから距離を置くことで、長い歴史を持つテキスタイルと服が、“いま”を映すファッションの中でどうあるべきなのか、きちんと向き合いたかった」と原田代表は語る。

 八王子は古くからの繊維産地で、周辺も含めると現在でも撚糸やニット、織物、染色などの小さな工場が稼働している。原田代表は澤井織物工場をパートナーに、これまで藍染めや泥染め、柿渋染め、からむし(苧麻)、縄などの日本の伝統的な技術を、デザイナーズブランドを通じて現代のファッションによみがえらせてきた。通常の紡績機では出せない凹凸のあるウルのスラブ糸はカウチンに、新潟の70〜80歳のおじいさんやおばあさんの手による“縄”はダッフルコートのループや靴ひもに。いずれもあるデザイナーズブランドが使用している。「新しいテクノロジーは大量生産には適していても、必ずしもいい服を作れるとは限らない。人の手で作る縄だけが持つ美しさもある。ファッションを通じて、その美しさを現代の生活に息づかせたい」。

 もう一方の日本のテキスタイル作りのパートナーであるKDSの梶原代表はイッセイ ミヤケを経て、イギリスのロイヤル・カレッジ・オブ・アートに留学。卒業後は日本に帰国し、デザインと日本の繊維技術の融合を掲げ、工場の現場にも入る日本では珍しいタイプのテキスタイルデザイナーとして活動してきた。「イギリス留学中に外から見た、日本のテキスタイルには世界中の人がうらやむ技術があった。ハイデザインと融合すれば大きな可能性があると思った」と梶原代表は語る。兵庫県西脇市のシャツ地メーカーである丸萬と組んで開発した、ポップな色使いと4重にも5重にもなったジャカード技術を組み合わせたテキスタイルは、欧米のラグジュアリー・ブランドで高い評価を得た。「プロジェクト ジャカード」でも特徴的なフリンジのように織物から糸を飛び出させるテクニックは、ジャカードを得意とする梶原代表らしいデザインだ。

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