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アシックスの強さの秘訣
トップが現場で働くというのは、なかなかないのではないでしょうか。アシックスの近年の快進撃ぶりに納得しました。
ウイークリーの11月3日号で企業文化について特集したのですが、経営層が現場で働くことが研修として組み込まれていて、ちゃんと実施されている。そこにアシックスの真面目さと現場主義が表れていて、まさにそういう企業文化なのだな、と。迎える店側にとっても、すごくいい刺激ですよね。
アシックス廣田会長、「オニツカ」の店舗スタッフになる
アシックスの廣田康人会長CEO(69)が「オニツカタイガー」表参道店で店舗研修を受けた。オープン前の店舗でスタッフの指導を受けながら、入荷された商品をストックルームに搬入したり、店頭の陳列を整理したり、オープン準備に汗をかく。売上高8000億円(25年度見通し)、時価総額2兆7286億円(11月7日時点)の大企業のトップが受ける研修とはどんなものなのか。
「えーと、メキシコのキッズは……」
11月7日朝、「オニツカタイガー」表参道店のストックルームに、黒いシューズボックスを抱えて置き場所を探す廣田会長の姿があった。店舗スタッフ用の黒いジャケットの制服を着て、慣れない納品作業を行う。メキシコとは「オニツカ」の代表的なモデル“メキシコ66”である。
表参道には「オニツカタイガー」「ニッポンメイド」「ジ・オニツカ」「オニツカタイガー キッズ」の4店舗が隣接しており、インバウンド(訪日客)を中心に連日たくさんの客でごった返す。そのため毎朝、大量の商品が補充される。この日の入荷はシューズだけで約2000足。これをモデル、色、サイズごとに決められた場所に正確に収めるのが日課だ。入荷品は売れた商品の補充が主なので、モデル、色、サイズがまとまっているわけではない。一点一点きちんと収納されていないと、客から求められた際、速やかに探せなくなる。
「精度が第一」。廣田会長はスタッフから言われた言葉を復唱しながら、真剣な表情でシューズボックスを棚に収めていく。
指示をする側から受ける側に
アシックスには、執行役員以上の幹部による年に一度の店舗研修制度がある。18年に導入され、コロナ禍の中断を経て、昨年再開した。廣田会長は「『踊る大捜査線』ではないけれど、『事件は現場で起きている』。本社で報告を受けるだけでは、店頭のことは分からない。だから、とにかくスタッフと一緒に体を動かす。(店頭業務を)理解はできなくても何かしら感じることはできる」と研修の意義を語る。
昨年は「アシックス」原宿店で店舗研修を受けた。ランニングシューズが飛ぶように売れる店舗だ。開店前に膨大な入荷品をスタッフがてきぱきと整理し、11時の開店時にはさわやかな笑顔で客を出迎える。開店してからもスタッフは、引っ切りなしに訪れる客の対応に追われる。客は国籍もニーズもばらばら。スタッフはそれに全力で対応する。在庫を持ってくるように言われた廣田会長は足早にストックルームまで行き、シューズボックスを届けたが「サイズが違います」と言われてもう一度取りに行った。試し履きを何足も繰り返して、購入には至らないケースもある。
「シューズ1足を売るのが、どれだけ大変なのか。僕らは店舗営業中に視察することはあるけれど、それだけだとやっぱり分からない。研修は短い時間だが、現場の手触りのようなものが感じられた」
ふだん本社オフィスで「DXが」「マーケティングが」「グローバルの販売目標が」など、大所高所で議論している経営層が身をもって「現場の手触りを感じる」体験をする。経営層こそ現場と目線を合わせなければいけない。
現場が好きな廣田会長は、これまでボランティア活動にも積極的に参加してきた。神戸マラソンでは過去4回、ボランティアとして働いた。廣田会長は60歳を過ぎてから出場した大阪マラソンで3時間53分の記録を持つ市民ランナーだが、大会を黒子として支える立場で経験すれば、新しい気づきが得られるという。今月16日開催の神戸マラソンでもゴール直後のランナーにタオルを配る予定だ。
関西・大阪万博のボランティアに個人で応募し、3日間の休暇取得と合わせて計5日間、会場案内や迷子センター、ベビーカー・車椅子の貸し出しなどの業務を行なった。「万博は開幕前に批判の声もあったけれど、実際の現場はどうなっているのか知りたかった」。ベビーカーの貸し出しでは、絶え間なくやってくる家族連れに組み立て方、畳み方、注意事項をやさしく伝える。ボランティアの同僚もベビーカーを借りる人も、目の前の男性がアシックスの会長だとは知らない。
「会社とは違って、マラソン大会でも万博でも僕は一介のボランティアとして指示を受ける側になる。どういう指示であれば、きちんと意図が伝わるのか、受ける側が気分よく仕事できるのか。学ぶべき点はとても多い」
見えない仕事が強いブランドを作る
「オニツカタイガー」表参道店での廣田会長の店舗研修は、場所を売り場に移して続けられた。オープンまでに商品陳列の隅々に目を配る。
ディスプレーするシューズの靴ひもをマニュアル通りきれいに整える。壁面の棚のたくさんのシューズが乱れなく並ぶようにする。ハンガーにかけられた服の間隔を均等にそろえる。服から飛び出た下げ札を内側に収める。シューズの形を美しく見せるための紙の詰め物(アンコ)も、崩れている場合は紙をたたみ直して入れる――。
オープンまでにやる仕事はけっこう多い。廣田会長は一つ一つ教わりながら手を動かす。
廣田会長が腰をかがめて布巾でガラス棚を磨いていると、店の外にはオープンを待つ行列が伸び始めていた。
オープン20分前、朝礼が始まった。4店舗のスタッフ30人ほどが集まる中、マネージャーが前日の販売実績や新作シューズの概要を説明する。「よろしくお願いします!」の唱和の後、スタッフたちは持ち場に散る。
11時にエントランスの扉が開けられ、外で行列していた約60人の客が入店する。約8割がインバウンドだ。廣田会長は一人一人の客に「いらっしゃいませ」と声をかけた。「午前中からこれだけ多くのお客さまが駆けつけて下さることに胸が熱くなった」。
午前中の研修を終えた廣田会長は「まさに『神は細部に宿る』だ」と、しみじみ語った。
「『オニツカ』のブランドは、商品力やマーケティングだけで成り立っているわけでない。シューズに詰めるアンコ一つとっても、こんなに丁寧にやるのかと驚いた。現場の一人一人の細かい仕事の積み重ねでブランドが作られていることがよく分かった」。
アシックスの業績は目下、絶好調だ。過去5年で連結売上高を2倍以上に伸ばし、2025年12月期には前期比18%増の8000億円を見込む。ランニングシューズの「アシックス」、ファッションスニーカーの「オニツカタイガー」「スポーツスタイル」の人気が世界中で加速しており、1兆円の大台も見えてきた。急成長中だからこそ、経営と現場が目線を合わすことの重要性は増す。
資生堂が挑む「“資生堂人”を育て会社の風土を変える」中期経営戦略の全貌

資生堂が新たな中期経営戦略を打ち出した。長期にわたる業績・株価の低迷を「真摯に受け止める」(藤原憲太郎社長CEO)とした上で、これまでの構造改革を基盤に「ブランド価値最大化による成長軌道への転換」を掲げる。
同社は「強いブランドも技術もありながら、低成長・低収益率に甘んじている」と多くの指摘を受けてきたという。藤原社長CEOは「この状態を変える」と明言し、「当社の本来の力はこんなものではない。今回の2030中期経営戦略でしっかり成し遂げる」と言い切った。
2030年のビジョンとして掲げたのは、「ひととの繋がりの中で新しい美を探求・創造・共有し、一人ひとりの人生を豊かにする」こと。その象徴として、05年に打ち出したスローガン「一瞬も一生も美しく」を再び採用。全社員が連携しながら、R&D、生産技術・品質保証、クリエイティブ、おもてなし体験の各分野の強みを融合しながら最大限発揮し、ブランド力を向上する。
26年は、アクションプランで掲げた営業利益率7%の目標を堅持する。加えて、コスト構造の最適化により3ポイント分のマージンを上乗せし、10%の利益率確保を計画する。効率化で生まれた利益はブランド強化に再投資する。売り上げ成長率は年平均2〜5%を想定しており、30年には営業利益率10%以上の収益体質を目指す。
成長の3本柱を掲げ、新たなフェーズへ
資生堂は新たな中期経営戦略の下で、今後の成長を支える「3つの柱」を掲げた。ブランド力の強化、グローバルオペレーションの進化、そしてサステナブルな価値創造だ。いずれも、ここ数年の構造改革で得た基盤を生かしながら、次の成長フェーズへ移行する。
1つ目の柱「ブランド力の向上を通じた成長加速」を掲げる。従来は短期的な売り上げ拡大を優先した結果、ブランドポートフォリオの分散や投資効率の低下を招いていたという。その反省を踏まえ、今後は研究開発(R&D)の強みと競争優位性を最大限に発揮できる領域に経営資源を集中させる。
中核となるスキンケアカテゴリーでは、最新技術の投入を進める。藤原社長CEOは「すでに成長を支える新製品導入の準備は整った」と胸を張る。グローバルブランド「シセイドウ(SHISEIDO)」はメディカル&ダーマ領域への拡張を計画する。「アネッサ(ANESSA)」はアジアでの地位を生かし、グローバル展開を強める。フレグランスはブランドポートフォリオの充実とともにグローバル展開を加速する。
メディカル&ダーマでは「dプログラム(D PROGRAM)」、ライフスタイル領域では「バウム(BAUM)」を重点育成ブランドとし、戦略的投資を進める。一方で、「ドランク エレファント(DRUNK ELEPHANT)」や「イプサ(IPSA)」は、収益モデルや成長性を再点検し、「今後の投資判断を慎重に進める」とした。
メディカル&ダーマ領域では美容医療との共創も進め、将来的に1000億円規模の事業化を目指す。さらにシニア層を対象とした事業や「美の検診」事業など、新たな価値創造にも踏み込む。
ブランドポートフォリオは「規律と戦略性をもって管理する」との方針を明確にした。非注力ブランドの整理を進めることで全体の効率性を高める一方で、競争力と成長ポテンシャルを備えたブランドには重点的に投資を行う。強いブランドをさらに磨き上げ、収益基盤の安定と成長の両立を図る。
「30年までの成長額の7割は、イノベーションによる新製品とヒーロー商品の育成から生み出す。SKUの最適化も進め、収益性の最大化を図る」としている。
グローバル最適化とAIによる効率化
2つ目の柱は「グローバルオペレーションの進化」。地域ごとに独立していた経営体制を見直し、グローバル本社と地域本社との連携を強化する。公式なレポートラインを再設計し、人事権限の明確化を進めるなど、組織としての一体運営を図る。
また、サプライチェーンやバリューチェーン全体で「グローバル最適化」と「リードタイム短縮」を進める。AI投資を強化し、バックオフィスに至るまでの自動化と高度化を推進。顧客体験の向上やブランドロイヤリティ強化にもAIを活用する。
組織文化の再生と人財育成
3つ目の柱は「サステナブルな価値創造」。同社は今後5年間で、リーダー人材育成への投資を25年度実績の3倍水準に拡大する。新しい価値創造を担う人材育成と、挑戦を後押しする企業文化の再構築を目指す。

藤原社長CEOは「厳しい構造改革が続いた結果、新しい価値創造、化粧文化の創造への挑戦の機会が失われ、資生堂らしい組織文化が希薄になったことを痛感している」と述べる。今回の中期経営戦略では、単なる業績目標の達成にとどまらず、「資生堂ならではの企業価値を持続的に高める」ことを柱に据える。新しい価値創造への挑戦を促し、成果にこだわる文化の再構築を目指す構えだ。
「今こそ人や社会と真摯に向き合い、美を問い続け、たとえ困難な時であっても、この世界と“本物の価値”を分かち合おうとする人を増やしていきたい。そんな“資生堂人”を育て、会社の風土を変えていく。社員全員で美と向き合い、人生を豊かにする美の文化を共有していく」と力強く締めくくった。
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