ファッション

平松店長に聞く、渋谷パルコ流「 世界中から人を呼び、街と共生するメソッド」

渋谷パルコは1973年の開業以来、都市生活者に向けたライフスタイル提案や演劇や映画などのエンタメによる文化的な情報発信を行ってきた。2019年の建て替えオープンでは、さらに「渋谷」という街そのものと共鳴する館作りを行ない、ファッション、カルチャー、音楽、アート、飲食などを縦横無尽にミックス。コロナ禍を経て世界中から訪日客を呼び込み、24年2月期は前期比57.3%増の358億円と絶好調だった。渋谷パルコは大きく変貌する「渋谷」とどう共生し、新たな歴史を刻もうとしているのか。平松有吾・渋谷パルコ店長に聞いた。

24年3〜11月期は前年同期比で30.7%増、今期(25年2月期)に入って以降も絶好調が続く渋谷パルコだが、キーになったのは2019年の建て替えリニューアルだ。建て替えを決めた2016年は、ファッションビルとしては新宿駅直結の「新宿ルミネ」が圧倒的な存在感を誇り、渋谷自体も再開発で駅直結の「渋谷スクランブルスクエア」の開業が目前に迫っていた。「だからこそ、渋谷という街にある『渋谷パルコ』を徹底的に再定義した」。平松店長ら当時の開店準備室メンバーはリニューアル準備の最初の1年間を「渋谷の街を徹底的にリサーチと再定義することに費やし、その結果、重要なテーマとして『渋谷の街を濃縮して館の中に再現する』という考えに至った」と振り返る。

では、渋谷という街をどう定義したのか。「当時も今もよく使っているのは、『無数のグローバルニッチの集積場』という考え方。渋谷には、ファッションからアート、カルチャー、音楽までエンタメと文化に関わるお店や場所がそれこそまさに集まり、かつ点在している。僕らや西武百貨店のような大型商業施設もあれば、セレクトショップが集積した神南エリアのような場所も、小さなレコードショップが集まるエリアもある。どれもエッジの立ったお店が集積した世界的にもユニークなエリアなのに、そうしたエリアが一本道を隔てただけでガラリと雰囲気を変えて多数存在する。新生・渋谷パルコでは、こうした渋谷の街そのものを表現した」。

渋谷は駅前の商業とオフィス、ホテルなどの大型複合施設の開業など、コロナ禍以降、街自体が大きく変化した。その象徴とも言えるのが、インバウンドだ。渋谷パルコも2022年に12%だったインバウンド比率は、23年には30%に、24年の春先以降は40%前後で推移している。「訪日客も以前とは大きく変わった。リニューアル以前は中国の団体旅行客が、いわゆる大御所ブランドをめがけてきていたのが、現在は訪日客の居住国・地域のシェアが月単位でコロコロ変わる。ある月は米国が多かったと思えば、ある月はインドネシアになり、またある月は台湾に、という感じだ。このバラエティーに富んだ訪日客こそが渋谷という街を象徴しているし、同時に新生・渋谷パルコのリニューアルが上手くフィットした結果だとも捉えている」。

渋谷の街をぎゅっと濃縮したことで、渋谷パルコが街のハブのような役割となり、渋谷パルコを巡回し、渋谷やその周辺の街に回遊するという流れもできた。「渋谷パルコに来れば、世界中の若い人から親子連れまで幅広い人たちが楽しめて、例えば小さな子どもを連れてきても、親は1階の『ロエベ』『コム デ ギャルソン ガール』で、子どもは6階の『ニンテンドートウキョウ』『ポケモンセンターシブヤ』で楽しめる。デザイナーズブランドが好きな人なら、2階・3階を巡ったあとにキャットストリートを通って裏原の路面店を楽しむことができる。これは新宿や銀座の百貨店にはできない。渋谷という街を、パルコ流の解釈で表現したからこそできたことだ」。

渋谷パルコは春から夏にかけて、19年11月の建て替えオープン以来の初の本格的な大型リニューアルを予定している。「この数年の渋谷の街の変化をさらに先鋭化してグローバルニッチをキーワードにさらに価値を高める」と語る。開業前の取材時に牧山浩三社長(当時)は、確かに「館の中にもう一つの渋谷を作れ」とか「渋谷のヘソになれ」と言っていた。開業から5年が経った今、その言葉の意味がよく分かる。さらに進化する渋谷パルコに注目が集まりそうだ。

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