ファッション

「ボンジュール、マダム」で意識した性別 NY発日本生まれジュエリー「ミラモア」の稲木ジョージCEOに聞くジェンダーニュートラル

PROFILE: 稲木ジョージ/ミラモアCEO兼ブランドビジョニア

稲木ジョージ/ミラモアCEO兼ブランドビジョニア
PROFILE: (いなき・ジョージ)1987年、フィリピン生まれ。9歳までフィリピンで、その後日本で育つ。大学卒業後「アメリカン アパレル」のPRとして活躍。2014年に拠点を米ニューヨークに移し、デジタルPRとしてラグジュアリーをはじめファッションやビューティ業界に携わる。19年から現職 PHOTO:TSUKASA NAKAGAWA

ニューヨーク発、メード・イン・ジャパンのジュエリー「ミラモア(MIRAMORE)」は今年5周年を迎えた。同ブランドは、立ち上げ当時からジェンダーニュートラルなジュエリーを提案している。ブランド設立時から、今トレンドのチェーンを主役にしたジュエリーを提案。ブームが再来した金継ぎをテーマにしたり、点字をジュエリーに落とし込んだり、ユニバーサルデザインを意識してジュエリーを制作している。5年前のブランド設立時には、一見女性に見える男性モデルを起用したビジュアルを打ち出した。ここ数年で、ジェンダーニュートラルな動きは広がりつつあるが、当時はまだ一般的ではなかった。稲木ジョージ=ミラモア最高経営責任者(CEO) 兼ブランドビジョネアに、ブランドおよび、ジェンダーニュートラルな動きについて聞いた。

創業時に打ち出したジェンダーニュートラルなビジュアル

WWD:「ミラモア」をジェンダーレスなジュエリーブランドとして立ち上げた理由と目的は?

稲木ジョージ=ミラモアCEO兼ブランドビジョネア(以下、稲木):ジェンダーレスとか、ジェンダーニュートラルという概念が元々ない。小さい頃からジュエリーが好きで、高校生の時からピアスを着けていた。当時、周囲にジュエリーを着けている男性はいなかったけど、「おしゃれだね」と言われていた。コメ兵でジュエリーを販売したこともあり、そこでジュエリーの基礎を学んだ。ブランドを立ち上げた当時、メンズジュエリーというと、ラッパーが着用するようなものばかり。「クローム ハーツ(CROM HEARTS)」や「ゴローズ(GORO‘S)」がなどのゴツいシルバージュエリーが中心で、宝飾の町で知られる御徒町でオーダーした喜平チェーンなど洗練されたデザインがなかった。一方で、女性用ジュエリーは、華奢でかわいいものがほとんど。私の周りにいる女性は自立して意思を持った女性が多く、彼女たちが着けたいと思うジュエリーを作りたかった。それで、男性、女性、どちらも着けられるジュエリーにした。

WWD:立ち上げ時に女性に見える男性モデルを起用したビジュアルを撮影したのは?

稲木:約10年前パリに行ったとき、ツーブロックだったのに「ボンジュール、マダム」と言われた。ビジュアルは、それに対するオマージュ。髪型はツーブロックだったのに、自分が女性に間違えられたことに対して、どういう意味だろう、面白いと思った。フォトグラファーのベッティナ・ランス(Bettina Lheims)による1990年代の写真集「モダン ラバーズ」がすごく好きで、女性に間違えられた自分のパロディーとしてビジュアルを制作した。男性がジュエリーを着けてもいいと思ったし、他のブランドとは違った表現がしたかった。自分でキャスティングをし、濃いブルーのシャドウにピンクの口紅というメイクアップのディレクションもした。2019年に、ベッティナのパリのスタジオで撮影した。

ユニバーサルな“金継ぎ”をベースにヘリテージブランドに

WWD:ブランドのコンセプトは?

稲木:デザイン・イン・ニューヨーク、ハンドクラフテッド・イン・ジャパン。約10年前に渡米した。元々、日本製のものは好きだったが、ジュエリー業界で有名な日本ブランドは少ない。日本のブランドは日本人に合うデザインを提案するが、私は、全世界で通用するジュエリーをデザインしたいと思った。一過性のトレンドではなく、不動のファインジュエリーブランドとしての確立を目指したい。日本の文化や職人には、“ものを長く大切にする”という意識があり、それがアメリカとの大きな違いだ。だから、ジュエリーで日本の文化や職人技を反映したジャパニーズ・ヘリテージブランドを作ろうと思った。私の年代でヘリテージブランドを作る人は少ないが、継承するという意味で、とても大切なこと。金継ぎのジュエリーを作ったのは、その哲学が、国籍、年齢、関係なくユニバーサルだと思ったから。私は母子家庭に育ったので、経済的にも大変で、幼少期に逆境を体験した。当時は怒りと葛藤しかなかったが、金継ぎの哲学に出合い、傷ついた自分が好きになった。ユニバーサルデザインというと、障がい者にフォーカスしたものと思われがちだが、傷ついたことのない人なんて世の中にいない。傷を認めてこそ、その人がある。ジュエリーを身に着けることでその人が金継ぎされるというのがコンセプト。それが、「ミラモア」が発信するメッセージだ。

社会的許容性の広がりから広がるジェンダーニュートラル

WWD:ここ数年、日本で男性のジュエリー着用が広まっているが?

稲木:すごくいいことだと思う。最近、ネックレスでは、チョーカー、ピアスはフープを着けている男性が多い。約5年前にイタリア・ミラノでおしゃれな若い男性がそれらを着け始めた。若い人が着けているものは、どんどん広まると思う。だから、原宿や渋谷で彼らを観察してデザインに反映している。

WWD:ここ数年のジェンダー意識の変化についてどう考えるか?

稲木:私が20代の頃は、男性がバッグを持っていたら、一般的にゲイと呼ばれた。ピアスも、左、右、どちらに着けるかで属性が決められていたが、今はそれがない。ここ10年で、急速にその意識が変わった。ジェンダーニュートラルなファッションも増えているが、Z世代の男性はちょっと違う。以前は、マッチョな男性像が当たり前だったが、社会的許容性が広がり、若い世代はもっと自由だ。ソーホーに住んでいるが、Z世代ではジェンダーフルイドが進んでいる。25歳以下だと、ファッションにおける男性、女性という固定観念が崩れ、交差している。だから、男性、女性、ノンバイナリー、さまざまなジェンダーがあって、それは、各自が決めること。だから、“彼(He)や“彼女(She)”ではなく、“彼ら(They)”という呼び方が一般的になっている。

「WWDJAPAN」2024年4月8日号では、ジュエリー中心に広がるジェンダーニュートラルの波を特集している。メンズジュエリーの今のリポートを始め、Z & ミレニアル世代の4人のリアルな声を通して、ファッションにおけるジェンダーの意識を探る。Z世代で「リメルリック」のジュエリーデザインを手掛けるRENさんの記事は4月15日公開予定。

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