サステナビリティ

繊維商社、コンサルから防災士へ ファッションと防災でパラレルに働く彼女の生き方

PROFILE: 古島真子/ColorfulBosaiCreation代表

古島真子/ColorfulBosaiCreation代表
PROFILE: 1990年、東京生まれ。お茶の水女子大学卒業。モリリン、デロイト・トーマツ・コンサルティング を経て2022年から一般社団法人unistepsでサステナブル・ファッションを軸に活動中。2021年からは防災士としても活動を始め、24年2月、株式会社ColorfulBosaiCreation(カラフル防災クリエイション)を設立。2011年、大学1年生のときに東京で東日本大震災を経験し、以降定期的に岩手県・陸前高田の仮設住宅集会所を訪問してきた。現在は神奈川県・茅ヶ崎市と陸前高田の2拠点生活を送っている。PHOTO:KAZUO YOSHIDA
ファッション関係者が集まる席で笛をネックレスとして身に着けている女性に出会った。日焼けしたサーファーの肌にその笛が似合っている。聞けば彼女は、繊維商社のモリリンなどを経て現在はunistepsでサステナビリティ×ファッションの仕事をする傍ら、防災士として活動しているという。笛は災害時に身を守るためだと教えてくれた。古島真子カラフル防災クリエイション代表、通称“まこぴ”がファッションと防災の世界をパラレルで生きるユニークなキャリアに至った理由を神奈川県・茅ヶ崎の浜辺で聞いた。

いつか救える誰かの命の数を1つでも増やせるはず

WWDJAPAN(以下、WWD):茅ヶ崎と陸前高田の2拠点生活をしているそうですね。

古島真子ColorfulBosaiCreation代表(以下、古島)::陸前高田には、学生だった2011年3月11日の東日本大震災の後からずっと通っており、大好きになって家を借り、生活をしています。今は復興支援などの活動をしているわけではないけれど、友人が遊びにきたときには、街の魅力はもちろん、震災遺構や伝承施設を案内したりしています。

WWD:モットーに掲げている“カラフル防災”について教えてください。

古島:防災について周囲に話すと、「防災グッズのリストを知りたい」とか「おすすめのリュックのメーカーは?」といったパッケージ化された情報を求められることが多いのですが、それぞれに住んでいる場所も家族構成も異なるから、防災セットひとつとっても十人十色なはず。100人いれば、100の個性に合わせて防災もカラフルであるべきだと思い“カラフル防災”と名付けました。

WWD:「防災をハッピーに伝える防災士」の肩書きもユニークです。

古島:散歩中にふと降りてきました(笑)。防災がなかなか広まらない理由は「お堅い」「脅迫観念から攻めてくる点」と考えています。そんな防災を180度転換させ、「なんだか楽しそう」「やったら人生までHappyになりそう!」、そんな風に感じてもらえる伝え方をすることで、いつか救える誰かの命の数を1つでも増やすことができるはず。

WWD:広まらない理由は、「防災」を「サステナビリティ」にそのまま置き換えられますね。

古島:そうなんです。実は防災より先に、エシカルファッションに関心がありました。大学生の時に、縫製工場の劣悪な労働環境を描くドキュメンタリー映画「トゥルーコスト」を観たことをきっかけに、エシカルファッションを卒業研究テーマにすることを決めて、学生時代はエシカルファッション関連のイベントやプロジェクトに通っていました。

WWD:だからキャリアのスタートは繊維商社のモリリンだった。

古島:「アパレル産業のマスを知らなければ課題解決はできない」と思い、モノ作りのど真ん中の繊維商社に新卒入社し、しまむらの営業と生産管理を担当しました。ファッション産業の課題はいろいろ言われるけど、絶対的な悪者はいない、理想を抱きつつ、利益を出さないといけない。そのジレンマを体感しました。5年間勤めた後、ステージアップを考え、色々な企業や業界を見ることができそうなコンサルに入社。大量のプレゼン資料を作り、ここで「誰かに何かを伝える方法」を身に着けたと思う。防災への関心が高まり、サステナブルファッションはもういいかな、と思っていた矢先の2022年にunistepsの求人を見つけて、入社。今はJSFA(ジャパンサステナブルファッションアライアン)の事務局業務などを通じたサステナビリティ×ファッションと防災をパラレルで活動しています。

防災士を目指したきっかけは3.11

WWD:パラレルであり、一致している2つの世界ですね。そもそも防災士を目指したきっかけは?

古島:2011年3月11日に発生した東日本大震災です。当時大学生だった私は、募金くらいしかできることがありませんでしたが、2011年に2回、「被災地」と呼ばれていた場所を訪れる機会がありました。1度目は震災から1ヶ月ほどのタイミングで当時所属していた遺児の就学支援や心のケアを行う団体でバスを貸切り、被災した東北地域を回りました。現状を見ることだけを目的とし、誰とも話さず、写真を撮ることも禁止されていたのですが、今でも目の奥に焼き付いて離れない海岸の光景があります。見渡せど、見渡せど瓦礫の山。ニュースで見たときは心のどこかで「人間様の力があれば数ヶ月位で修復できるだろう」なんて感じていましたが、この光景でかき消されました。そのときに、浮かび上がった「人間は、自然の力には勝てない」という感情が、私が防災を考えるときの根底にあります。

その後、仮設住宅集会所を学生が定期的に訪問して現地の方と一緒にコーヒーを飲んだり、お話しを聞かせてもらったりする活動が通っていた大学で始まりました。東京に戻るとよく「ボランティアに行ってて凄いね、偉いね!」なんて声をかけてもらったけれど、正直私はボランティの感覚は一切ない。むしろ優しく温かく迎え入れてもらい、私たちが受け取ってばかりという感覚を今でも持っています。

このときの活動を学術的に括るのはあまり好きではありませんが、もしかしたら、いわゆる傾聴ボランティアや心のケア的なことだったのかもしれません。災害が起きたときに何か被災地支援をしたい!と思い立って行動する時に、ニーズのミスマッチというものが多々発生します。私が同行させていただいた大学の先生方はそのミスマッチを発生させないように、自分達のできることを明確に伝え、「もし需要があれば」と丁寧にコミュニケーションをとっていました。国際協力をメインとした学部でボランティアやフィールドワークを長年専門としている教授たちだけあって、その行動力や動き方は今でもとてもリスペクトしています。後々気づいたことですが、非常に重要な、現地支援をしようとする上で必ず踏むべき工程だと思います。

「真子ちゃん、地震が来たらちゃんと逃げなきゃだめだよ」

WWD:この写真は?

古島:陸前高田の「うごく七夕祭り」です。2013年にこの祭りに出会ってしまったのが運の尽き。惚れ込んでしまい、その後社会人になっても約10年、毎年この日だけは皆勤賞で陸前高田へ通い続け、2023年にはついに住み始めました。

元々は防災に1ミリも興味がなかった私ですが、あまりにも大きい自然のパワー、それによるダメージの大きさ、年月を経て変わっていく街と人について自分の目で見て耳で聞き心で感じ、いつしか「防災って本当に大切だな」と心から思うようになりました。だけど、ひとたび東京に帰れば学校の勉強、アルバイト、友達との遊びが待っていて防災の優先度は最底辺。防災リュックの非常食の賞味期限が数年切れている、なんてこともザラでした。

WWD:ではなぜ防災士に?

古島:2018年ころ、居酒屋でお祭りメンバーと飲んでいた時、何の流れか、初めて3.11当時の話になりました。陸前高田出身の友達同士すらもお互いに話したことってなかったみたいで、「お前そんな状況だったのか」なんて言い合っていました。仲間を失っているのは当たり前で、中には自宅やご家族の命を失っている方もいました。自分がその時どんなリアクションを取ったのか覚えていないけど、一つだけ鮮明に覚えていることがあります。酔っ払いながらもそんな話をしてくれていた大好きなお兄さんのうちの1人が私の目を見て「真子ちゃん、地震が来たらちゃんと逃げなきゃだめだよ」と言ったことです。直感的に、「やばい」と感じました。私、こんなに陸前高田に通っているのに、何も防災していない、と。大好きな人が面と向かって伝えてくれているのに、東京で大地震が起きて怪我をしたり最悪死んだりしたら、この人達に顔向けできない……。そんな風に焦りを感じて、この時生まれて初めて防災が 「自分事」 になり、体系的に学ぶため「お金を払って防災士の資格を取る」選択をしました。

防災士の合格証だけで命は救えない。伝えねば

WWD:防災士とは、どういう資格ですか?

古島:国家試験ではなく、日本防災士会のテキストを使っての予習から始まり、2日間の座学、試験合格、救命救急実技を経て認定を受けます。過去の災害の特徴や教訓・自然災害発生の仕組み・避難所運営の注意点など、これまで知らなかった内容や分野も多く、勉強になりました。2020年5月に晴れて防災士の資格を手に入れましたが、合格証を手にした瞬間に、「あれ?この合格証を持っているだけでは誰の命も救えないぞ」と、違和感を覚えて。知識を持っているだけで行動を伴わなければ、周囲の防災状況は何も変わらないですからね。結果、「これは周りに伝えることに意義がある資格、防災の大切さや知識を発信していこう」という考えに落ち着きました。最初は表明することも恥ずかしくて、「あー、意識高い系ね」とか思われるのも辛かったですが、ウジウジしながらも細々と続けたことで応援してくれる周囲が増え気づけば会社員を辞めて防災をライフワークにするほどになっていました。人生はどう転ぶかわからないですね。

WWD:普段はどんな活動をしているのですか?

古島:SNSを通じた情報発信や防災イベントの開催などを行っています。企業向けセミナーは、ビーチクリーンで拾ったものを使ったキャンドル制作などワークショップを絡めて、自分事化しやすい内容を心がけています。今後は防災のパーソナルトレーニングに力を入れたい。防災版“ライザップ”みたいに性格や生活、持っている備品を一緒に棚卸してアクションを提案し、伴走する。エシカルも10年前はその言葉すら知らない人も多かったけど、発信する人が増えてロールモデルが登場したことで、広まってきた。同じ課題と可能性が防災にもあると思います。

ファッションやビューティの企業ができること

WWD:ファッションやビューティの企業が防災に取り組む場合、何から始めたらいいでしょうか?

古島:どの産業にも共通する3段階があると思います。第一は災害が起きたときに自社の社員の命を守ることができるか?そこをおざなりにして商品開発などをするのは本質的ではないと私は思います。次は、特に店舗であればお客様の命を守れるか。今年初めに羽田空港で起きた事故に見るJALの現場スタッフの対応は日ごろの訓練や教育のたまもの。素晴らしいとも言えるし、もし死傷者を出していたら企業の信頼を損失していたでしょう。防災訓練は後回しにしたり、形骸化しがちですがトップが意識をもって社員に徹底させることが重要です。最後に事業継続です。誰も見ない分厚いマニュアルを作って終わりではなく、事業を継続し経済を止めないためにもいざというときに本当に命を守れる本質的な防災を実行することです。

WWD:ファッションやビューティのビジネスを通じてできる防災活動はないでしょうか。

古島:災害からの復興には段階があり、発生直後は衣料はファッションではなく防寒など命を守り生き延びるためのものとして重要な役目を果たします。ただひとつエピソードとしてお伝えできるのは、陸前高田での避難所で数か月過ごしていた年配の女性が、支援物資の化粧品で久しぶりにお化粧をした後「女性として生き返った」と話していたのが印象的でした。昨日まで身だしなみに気遣っていた人がいきなり何もない環境に置かれて、「取材者に写真を撮られて本当にストレス、映りたくない」と話すのを聞いて、化粧は命にはかかわらないけれど人間の尊厳として大切なことなんだと知りました。

WWD:商品開発の観点からは?

古島:おしゃれでワクワクする防災グッズをぜひ生み出してほしい。ファッションやビューティの業界は見せ方が上手でワクワクするものを作ることが得意だから、防災のプロと協業してはどうでしょうか。私はポータブルバッテリーを必ず持ち歩いていますが、そっけないデザインだったので友人のデザイナーに頼んで可愛くしてもらいました。防災はひとつの業界があるわけではなく、製品によって企業が異なります。それらを束ねてブランディングするのもいい。レインコートなどの雨対策グッズは大きな需要がありますよ。災害と気候変動は密接ですからサステナブル×防災の発想も重要です。

WWD:2月には新会社、カラフル防災クリエイションを立ち上げました。今後の目標は?

古島:企業担当者や行政など、防災を伝えようとしている人と伝えたい相手を繋ぐ架け橋的な役割を担い、防災レベルの高い人の裾野を大きく広げることです。これまで個人向けに培ってきたハッピー&カラフルな防災の在り方を企業・行政向けにアップデートし、楽しくて自ら取り組みたくなる、かつ本質的な防災の在り方を日本社会に広めていきたいです。
若い人のロールモデルになることです。防災は大事だけど仕事にはならないから諦めます、という大学生も多い。それって社会の大きな損失だと思う。だから防災をビジネス化して、そういう志ある若い人たちを雇えるような企業に育てたいです。

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