ファッション

「リンシュウ」の“リゾートテラス”は緑に染まり、鮮やかなルックは心を溶かす

 「リンシュウ(RYNSHU)」が、東京・六本木の国立新美術館で2023年春夏コレクションをランウエイショー形式で発表した。コレクションはスタートから3シーズン目となるウィメンズウエアが中心で、メンズのルックも組み込んだ。今回のショー映像は、23年春夏シーズンのパリ・ファッション・ウイーク期間に合わせて世界に公開。デザインを手掛ける山地正倫周と山地りえこの2人が伝えたかったのは、ファッションを通じた“癒し”だった。

自由な日常を再び解き放つ

 会場の国立新美術館のテラスは、波打つ建築と木立が向かい合う空間だ。“リンシュウ リゾート テラス(RYNSHU RESORT TERRACE)”と名付けた会場一帯をグリーンのライトが染め、心地良い風が時折吹き抜ける。ブランドのキーカラーであるブラックのドレスコードに身を包んだ来場者たちは、幻想的なランウエイと現実との境界線のようでもあった。

 デザイナーの正倫周とりえこは、今シーズンのコレクション“ファッション レメディ(FASHION REMEDY)”で、ここしばらくの日常生活に対して抱いてきた抑制からの解放を願った。インスピレーション源に選んだのは、2人が旅したモルディブの大自然だ。開放感のあるムードと、繊細なクチュールテクニックを融合させ、人々が求める幻想を具現化した。

 ショー開始時間の18時30分。陽が沈んでミステリアスな雰囲気がいっそう強まると、極彩色が美しいピンクの花々をプリントしたファーストルックが登場した。開始前に水をまいた水面のようなランウエイが、鮮やかなウエアとグリーンのライトを映し出した。

純粋な心地良さを追求

 コレクション前半は、開放感に溢れた内容だった。肌を覗かせる大胆なカッティングやチュール、随所に施したビジュー、砂時計シルエットのリゾートジャケットに膝上のミニ丈ドレス――女性らしさを際立たせるさまざまな仕掛けと、色彩の美しさが特に目を引いた。

 後半は一転して、シックなモノトーンカラーが中心だ。表情豊かなシルクシャンタンに、透け感のあるトリプルオーガンジーやシフォンなど、ノーブルな素材を丁寧に縫い上げるクラフツマンシップを発揮する。

 ウィメンズを本格始動して3シーズン目。今回のコレクションにはメンズやウィメンズという記載はどこにも見当たらない。ジェンダーを問わない「リンシュウ」の耽美な世界観を進化させながら、純粋な心地良さを追求していく。正倫周は「『リンシュウ』はこれまで、女性でも着られるメンズウエアを手掛けてきた、男性らしさと女性らしさを行き来する存在です。りえこが加わることでその表現が両極へと膨らみ、クリエイションは深みを増しています」と語る。

 シーズンごとに手応えをつかんでいるりえこは、今シーズンについて「洋服の着心地はもちろん、ファッションそのものが癒しの存在でありたい。袖を通すことで守られているような感覚や、気分が安定する経験が誰しもに少なからずあります。このコレクションが、心地良さについて改めて考えるきっかけになれば」と述べた。

装飾に宿る美と意匠

 アイテムの多くは、南国の楽園モルディブの大自然を想像させるディテールで彩った。澄みきった碧海やカラフルな熱帯植物が、刺しゅうやビジューなどへと変わり、デザイナー自らが現地で撮影したビーチの写真も大胆にプリントして、リラックスムードを盛り上げる。ウエアだけではなく、表情が一つ一つ異なる小花柄を配したサイドジップヒールブーツは圧巻だった。チュールを巻いたレザーに刺しゅうし、その上からさらにビーズの装飾を施すという、まさに「リンシュウ」のこだわりを集結させたかのような手仕事だ。それでいて軽やかに見せるのは、正倫周の技術とりえこのムード作りという2人のクリエイションが融合したからこそだろう。

リアルのショーにこだわる理由

 フィナーレでモデル全員が登場すると、モルディブの花々と会場一体の緑が混ざり合い、大都会の真ん中に“リゾート テラス”が広がった。この会場作りには、バレエを生業にしてきたりえこの経験も生きているという。「会場自体のたたずまいが『リンシュウ』でありたいとイメージしながら臨みました。私は元々バレエを活動の舞台にしていたため、会場の空気の捉え方は自然と身についてきました。『リンシュウ』には官能的な魅力があります。それはセクシーとはまた違う、たたずまいから漂う上品な色気です。それを感じてもらいながら、楽しんでほしかったんです」。

 モノ作りと同様に、見せ方や発信方法にもこだわるのが正倫周のクリエイションだ。「服作りはまず、イメージから始まります。今回ならばリゾートです。それを想像しながら、素材や色、形を同時進行させ、最後まで大切に作り上げていく。その世界観やムードを伝えるのに、今一番適している方法がショーなんです。見た人が『ブランドはこういう価値観を大事にしているのだな』と感じやすい。提案するからにはベストな状態を、どの場所で、どう見せるか――常にそれだけを考えています」。リアルのショーでも映像でも、世界中に“癒し”を届けたいという願いは変わらない。「映像を見てくれた海外の視聴者の中には、東京をまだよく知らない人もいるはず。日本人として、そんな人たちにもこの時間や、この和の空間の希少性も合わせて伝わればうれしいです」と、正倫周は表情をなごませた。

TEXT:KEISUKE HONDA
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