ファッション
連載 You’d Better Be Handsome

変化したジェンダープロナウンの定義を説明できますか?【まだ、あなたが知らないニューヨーク最新トレンド】

 ニューヨークのファッション業界で活躍するクリエイティブ・ディレクター、メイ(May)と、仕事仲間でファッションエディターのスティービー(Stevie)による連載“You’d Better Be Handsome”の23回目。ファッションだけでなく、カルチャートレンドに詳しいレイチェルも加わって今回もトーク。毎年6月はプライド月間(Pride Month)としても知られる。LGBTQの権利を主張する活動やイベントが多く行われている中で、ジェンダーアイデンティティーを今どきどう解釈したらいいのか、LGBTQの活躍抜きでは語れないファッション業界で働く3人でさえ、頻繁にアップデートをしていかないとついていけない今どきのジェンダー代名詞、“プロナウン”について一緒に考えてみる。

 ノマド(NOMAD)、イレブンマジソン(ELEVEN MADISON)など、話題の高級店で経験を積み上げた注目シェフ、ジェームス・ケント(James Kent)による初のレストラン「クラウン シャイ(CROWN SHY)」 。2020年にアールデコのデザインで知られるビルの1階にオープンし、ミシュラン一つ星も獲得している。季節の素材を生かした前菜、味わい深いショートリブステーキなどが活気溢れるオープンキッチンから運ばれてくる。同じビルの63階にも、ジェームス・ケントによる「サガ(SAGA)」が昨年オープン。夜景を楽しみたいときはこちらがおすすめ。

CROWN SHY
70 Pine Street, New York, NY 10005
TEL 212. 517.1932

変化したジェンダープロナウンの定義

メイ:メールのやりとりの中で、自分の名前や肩書きの並びに、自分が呼んでほしい “プロナウン”を入れる人がちらほらいるよね?

スティービー:自分の周りでは特にフォトエージェントやモデルエージェントの男性に多い気がする。

レイチェル:生まれたときに割り当てられた性別とは別に、自分は自分のことをどう捉えているか、周りにはどう呼んでほしいか。それが女性ならばShe/Her、男性ならばHe/Him、ここまではシンプルなのだけど、どちらにも当てはまらない、またはニュートラルという場合はThey/Themを選択する人もいる。

メイ:単純にプロナウンを「彼、彼女」などの“代名詞”とした場合、1人の人で単数なのに、なんで複数形になるの?って思ってしまったりしたけど、これもすぐに慣れてくるもの。今は、この人はThey/Themなんだって一つの情報として認識する程度。

スティービー:複数とか単数とかが分かりづらい、Ze/HirやZe/Zirという選択肢もあるみたい。They/Themと同じで、ニュートラルなプロナウンになっている。周りで使っている人にはまだ会ったことはないけど。今どきの高校生や大学生だったら普通にいるのかもね。

レイチェル:そうそう。その関連の話になるとよく聞く、ジェンダーアイデンティティーやセクシャルアイデンティティーは、どちらも別のことを指すのにもかかわらず一緒にされがちで、さらにややこしくなっている気がする。

メイ:ジェンダーアイデンティティーは出生時に割り当てられた性別だけではなく、その後自身の本来のジェンダーに気づくことで決まってくるけれど、セクシャルアイデンティティーは、基本的に自分のパートナーに選ぶ人や自分が性的に求める人が男か女か、またはどちらもなのかなどで決まってくる。

スティービー:その性別が生まれたときに割り当てられる性別と違う場合には、受け入れてくれる環境がとても大切になってくるよね。

レイチェル:ニューヨークではそうやってメールに自分はこれって書くくらいオープンにはなってきているけれど、米国でも保守的な州ではトランスジェンダーの子どもにホルモン治療をしたら医者も親も罰せられたりとかなり差があるのも事実。

教育の場でも浸透しているプロナウン

レイチェル:最近では、高校生とかは新学期に先生が子どもたちに、どのジェンダープロナウンで呼んだらいいかを1人ずつ確認されるらしい。

メイ:以前からある名前を覚えるためのネームステッカーも、最近ではプロナウンを書く欄があったりする。

スティービー:例えば小学校や大学の受験票の記入の仕方も、数年前とはまったく違うんだよ。知ってた?900校以上の大学が参加しているコモン・アプリケーション(Common Application)というシステムがあるんだけど、そこでの願書上に、“どのプロナウンを使うか?”と、まるで誕生日や住所と同じレベルで書く欄がある。

レイチェル:He/Him, She/Her, They/Them、または“他の呼び名を入れる”という選択肢も。ちなみに性別の欄=ジェンダーでは、Female、 Male、 Non-binary、(ノンバイナリー)、Add Anotherという選択肢が。

メイ:ノンバイナリーは、男女の分け方には当てはまらないが、それ一つのジェンダーアイデンティティーとして認知されている。

スティービー:大学受験の際はそれくらいで済むけど、小学校や中学校に入学するときの書類はさらにもっと詳しい情報を聞かれる。まずはジェンダーアイデンティティー。僕が見たものでは、8つの選択肢があって、Girl, Boy、Trans Girl、Trans Boy、Non-binary、Gender Fluid(ジェンダーフルイド)、Prefer not to say、Prefer to self-describeとなっていた。

メイ:“ジェンダーフルイド”というのは、こういう公の場所でもジェンダーアイデンティティーとしてすでに認知されているものなんだね。2017年に、 モデルのジジ・ハディッド(Gigi Hadid)がパートナーのゼイン・マリック(Zayn Malik)と米「ヴォーグ(VOGUE)」のカバーを飾った際に、「ヴォーグ」のライターが彼女のスタイルを“ジェンダーフルイド”と表現したことで、かなり炎上していた記憶がある。

レイチェル:私も覚えてる。メンズっぽい服をジジが着たくらいで、気軽に彼女をジェンダーフルイドと呼ぶな、みたいな。おまけに、2人がジェンダーフルイドと書かれた時点で、実はこのリアルライフカップルはノンバイナリーということをカミングアウトしたのか、と勘違いした人たちも多かったらしい。

スティービー:そこにはジェネレーションギャプもあるね。ミレニアル世代にジェンダーフルイドというと、性を超えたり、変えたり、自分の気持ちに自由に生きているというイメージ。その上の世代、特にファッション誌でジェンダーフルイドというと、“アンドロジニー”とか“メンズライク”というスタイルを今っぽく表現してみた、みたいな。

メイ:例えば、ゼインと同様、ポップアイドルグループのワン・ダイレクション(One Direction)のハリー・スタイルズ(Harry Styles)も、よく「グッチ(GUCCI)」のフローラルプリントを着たり、ネイルカラーのブランドを作ったり、これまでの概念でいうところの女性っぽいファッションを楽しんでいるようだけど、あくまで性別は男性で、これまでのパートナーも私たちが知る限り全員女性。そういう人のことは“ジェンダーフルイド”とは呼ばず、あくまでファッションやスタイル、もしくは生き方がジェンダーフルイド、みたいな表現が合っているんだと思うけど、気をつけないと米「ヴォーグ」のときみたいに批判される。

スティービー:話を戻して、学校の書類だけれど、生まれたときの性別を聞く欄があって、そこでの選択は、Female、Male、Intersex(インターセックス)、Prefer not to sayだった。言わなくてもいいというのもすごいなと。

レイチェル:ちなみに“インターセックス”とは、染色体や性器など、生物学的に男女の線引きに使われる特徴が中間であったり、どちらにも一致しない人たちのこと。国連の資料によると世界人口の0.05-1.7%がインターセックスの特徴を持っているというデータも。これはジェンダーアイデンティティーや性的指向以前の身体的な話。

スティービー:モデルのハンネ・ギャビー・オディール(Hanne Gaby Odiele)がインターセックスとしてカミングアウトしたとき、それって一体なんだろう?って思ったのを覚えている。彼女みたいな一緒に仕事をしたことがあるモデルが声をあげたことで、僕もそれについて調べたり、知識を得たりすることができた。

メイ:社会全体の知識がついていかないと、一部の人たちにとって本来のジェンダーのまま生きていくのが大変な社会になってしまう。だけど、この学校のシステムを見ても、社会の意識が大きくシフトしているのを感じるね。


 

メイ/クリエイティブディレクター:ファッションやビューティの広告キャンペーンやブランドコンサルティングを手掛ける。トップクリエイティブエージェンシーで経験を積んだ後、独立。自分のエージェンシーを経営する。

スティービー/ファッションエディター:アメリカを代表する某ファッション誌の有名編集長の下でキャリアをスタート。ファッションおよびビューティエディトリアルのディレクションを行うほか、広告キャンペーンにも積極的に参加。

レイチェル/プロデューサー:PR会社およびキャスティングエージェンシーでの経験が買われ、プロデューサーとしてメイの運営するクリエイティブ・エージェンシーで働く。最新のイベントに繰り出し、ファッション、ビューティ、モデル、セレブゴシップなどさまざまなトレンドを収集するのが日課

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