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逆風の中で未来への希望を説き続ける、名門紡績の若き5代目 長谷享治【ネクストリーダー2021】

 1887年創業の長谷虎紡績は、日本の毛織物の産地である尾州の名門企業の一つだ。規模は決して大きくないものの、スパイバーの人工タンパク質素材や、同社が世界で唯一生産し宇宙ロケット「H2ロケット」に採用されている超耐熱性素材のフェノール繊維など、数々の革新的な素材を糸に紡いできた。素材が革新的であればあるほど、最初に糸に変えるのはとても難しい。同社は表にこそ出ないものの、そうしたハイテク素材が世に出る重要な一歩を支えてきたスペシャリストなのだ。2019年12月に5代目として就任した長谷享治(たかはる)社長は「日本の繊維には輝かしい未来がある」と咆哮(ほうこう)する、日本の繊維産地企業の“若き虎”だ。

WWDジャパン(以下、WWD):「日本の繊維には世界を変えられる力がある。未来のある輝かしい産業だ」が持論だ。

長谷享治(以下、長谷):だってそうでしょ?繊維以外に、お風呂に入る時などのごく一部の時間を除き24時間365日、人間が触れているものってありますか?つまり、それだけ人間に身近でありふれたものであるからこそ、繊維を変えれば本当の意味で世界を変えられる。当社はフェノール繊維やスパイバーの「ブリュードプロテイン」など、さまざまな繊維を手掛けているが、それでもごく一部に過ぎない。われわれが知らないだけで素晴らしい素材はまだまだある。それだけ可能性を秘めているのに、繊維産業に関わっている人たちこそがその可能性に気付いていない。

WWD:しかし日本の繊維産業はこの数十年、縮小を続けてきた。希望を捨てないのは大事だが、あまりにも楽観的に過ぎるのでは?

長谷:実家はすぐ工場の隣りにあって、物心ついたときから繊維業が身近にあった。特にここ羽鳥市は、紡績から織り・編み、染色加工、縫製までさまざまな工程に関わる中小企業が集積する“産地”。産業の縮小はそのまま、僕らのすぐ身近にあった企業の廃業や倒産に直結していて、閉塞感はずっと感じてきた。同業者や取引先と会っても、メディアでも「繊維はダメだダメだ」とそればかり。僕もほんのつい最近まで、そう思っていた。それを変えたのがゴールドウインの渡辺(貴生)社長とスパイバーの関山(和秀)社長という2人との出会いだった。

WWD:お二人との出会いをもっと詳しく。

長谷:2014年3月ごろに当社の桂川(誠也・取締役)がすごいスタートアップがあるといううわさを聞いて、翌月には私も含め、山形県鶴岡市のスパイバーさんの本社に行って「これはすごい、とんでもない素材だ」と。

WWD:当時のスパイバーはまだ、立ち上がったばかりのスタートアップ企業で、極端なことを言えば、海の物とも山の物とも判断がつかないようなステージだったと思うが。

長谷:関山社長を筆頭に、スパイバーの経営陣は僕よりも年下で、そんな若者たちがとんでもない革新的な繊維を通じて本気で世界を変えようとしている。その姿勢は衝撃的だった。さらに、当社とは長いお付き合いのあった、恩人とも呼べるゴールドウインの渡辺社長もそうした思いに共感して加わっていた。そこで僕も思ったんです。「繊維は世界を本当に変えられるんだ」と。

WWD:15年9月には、ゴールドウインと同じタイミングでスパイバーの第三者割当増資を引き受け、20年にはベンチャーのエム・テックスと共同でナノファイバー製品を開発するスピタージュを立ち上げた。

長谷:当社の紡績工場は小規模ながら、多種多彩な機械をそろえており、ずっと「どんな素材でも紡績してみせる」という自負があった。ただ、それではまだ受け身。ゴールドウインの渡辺社長とスパイバー関山社長に触発され、こちらの方から画期的な素材を主体的に掘り起こして世の中に出していこう、という考え方だ。

WWD:長谷虎紡績の業績は?

長谷:フェノール繊維や「ブリュード・プロテイン」などの最先端素材などを扱う紡績事業、衣料向けの糸や製品を製造する繊維製品事業、法人向けのタイルカーペットの3つが主要事業で、従業員数はグループ全体で195人。19年10月期の売上高は74億円(単体)、営業利益が2億円。ただ、コロナで20年10月期は苦しかった。赤字です。

WWD:原点は?

長谷:新卒で入って配属された大阪支店で上司になった、当時の支店長の教えだ。当時ですでに70歳になっていたその支店長はだれよりも早く6時半には出社し、トイレなどオフィスの清掃を行っていた。決して新しい建物ではなかったが、常にトイレはピカピカだった。ビジネスにしろ、人の生き方にしろ、入り口と出口が大事なんだ、ということを叩き込まれた。今になって思えば、社員の、そして会社自体が荒んでくればトイレに現れるというのは、ある種の真理だと感じている。

【推薦理由】
日本の繊維産業はピークをとっくに過ぎており、この30年縮小を続けてきた。繊維産地には紡績から織り・編み、染色・加工まで各工程の中小企業が集積しており、産地企業は外側にいるわれわれの想像を超えた閉塞感の中にいる。それらを裏側に秘めつつ、なお発する希望の言葉は強く深い輝きを持つ。

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