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日本のモノ作り × テクノロジーで大手に勝つ 次世代スポーツD2C「テンシャル」の挑戦

 テンシャル(TENTIAL)は、月間100万PV超のスポーツメディア「スポシル(SUPOSHIRU)」とスポーツ用品のD2Cブランド「テンシャル」を運営するスポーツテック企業だ。同社は2018年2月にアスポールという社名で創業。19年4月にモバイルゲーム事業などを手掛けるアカツキからの1.3億円の資金調達とD2Cブランド「テンシャル」の始動を発表し、8月に第一弾の商品としてスニーカーの機能性インソールを発売した。今後は商品のラインナップをさらに拡充し、次世代のスポーツメーカーを目指す。なぜ、第一弾の商品がインソールだったのか?そしてどのように次世代のスポーツメーカーとなるつもりなのか。高校時代はサッカーでインターハイに出場、その後はプログラミングに目覚め、リクルートに史上最年少で中途入社するなど、異色の経歴を持つ中西裕太郎CEOに話を聞いた。

WWD:高校時代にサッカーでインターハイにも出ている中西CEOが、デジタルに興味を持ったきっかけは?

中西裕太郎テンシャルCEO(以下、中西):高校時代はサッカーに打ち込んでいて、大学にスポーツ推薦で進学するか、J2リーグでプロを目指すか悩んでいたタイミングで狭心症になってしまって。発症した時期的にセンター試験の申し込みなどが終わっていたこともあり、進学は諦め、半グレの状態でした(笑)。でも、周囲の大学生の友人に混ざって遊ぶ中で、「さすがに何もしないのはヤバいな」とも思っていました。そんな時に何かの動画でオバマ大統領(当時)が「プログラミングを学べ」と言っているのを見て、プログラミングで人生が変わるかもと思い、勉強し始めたんですよね。サッカーも学歴もなかったけど、プログラミングで本当に世界が変わった。その原体験を世の中に広めようと、ウェブキャンプというプログラミングスクールにジョインし、事業責任者として3年働きました。

WWD:起業を考えたのはいつ頃のことか?

中西:漠然と起業したいという気持ちはもともとありました。ウェブキャンプを辞めた際に、自分も起業をしようと考えたのですが、ふと「今の自分の経験でいけるのか」と疑問に感じて。周囲にも話を聞き、このまま起業しても頭打ちになるという結論に至ったので一度大きな企業に就職しようと考え、リクルートに入社しました。高卒だったし、当時はまだ21歳の中での中途入社だったのですが、役員の方にメッセージを送りまくり、たまたま声をかけてもらったのが実情です。

WWD:リクルート在籍時から、起業に向けて準備していた?

中西:そうですね。リクルートにいたこともあり、スポーツ選手のセカンドキャリアなど、スポーツ×人材領域での起業を考えていました。でも、やはり難しいという結論に至って。とはいえスポーツという軸はブラしたくない。そんな中で、お金を稼ぎ、スポーツの発展に寄与するような投資や寄付を行っている、ナイキなどの大手スポーツメーカーをインターネットの力でリプレイスするような事業をしたいと考えるようになりました。そのためにまずはネットでモノが売れるしくみを作ろうと考え、始めたのが「スポシル」というメディアです。リクルート時代から仕込んでいました。

WWD:「スポシル」単体でのマネタイズはできているのか。

中西:アフィリエイト中心ですが、マネタイズは出来ています。現在、月間で100万PV超程度で、数百万円の収益が上がっており、今後はメディアとして広告も取っていきたいと考えています。ただ、あくまで「スポシル」はどういう記事が読まれているのかやどういう検索ワードがヒットしているのか、何が売れているのか、といった社会の商流を分析するツールとしての位置付けにしています。従来は店員しか知らなかった消費者のニーズをウェブで集約し、モノ作りに生かす。これはテンシャルの強みでもあります。

WWD:「スポシル」でニーズを分析する中で生まれたのが、第一弾の商品であるインソールだったということか?

中西:そうです。僕らのユーザー層が30代以上だったこともポイントだとは思いますが、肩こりや腰痛に関する声が多かった。さらにはネット上ではケガの治療の情報はたくさんある一方で、ケガを予防するための情報は少ない。そういった問題を解決するためのツールの1つとして、インソールに辿り着きました。肩こりや腰痛などの主な原因と言われる“浮き指”を治す効果があります。また、スポーツメーカーの多くが、フットウエアやフットケアといった足の領域からスタートしていたこともインソールを第一弾の商品にした理由の1つです。

WWD:工場などはどのように手配したのか?

中西:プロスキー選手やプロサッカー選手が使用するインソールを製造している、BMZ社と共同開発しています。単にOEM先に発注するというよりは、製造側に積極的にコミットし、僕らの持っている日常的なユーザーの課題などのデータを繋ぎ合わせて素材の選定やチューニングを行っていきました。

手応えは上々
モノ作り × テックで大手と勝負

WWD:価格は7900円と比較的高いようにも思えるが、商品発売後の手応えは?

中西:確かにインソールに馴染みのない方だと高価に感じるかもしれないのですが、インソールは接骨院で作ると2万円くらいすることもあるんですよ。例えば農家の方は体の不調を治すアイテムにすごくお金をかけている。一方でインソールは半年以上使えるので、1日に換算すると数十円くらいになり、意外と安いんです。現状の手応えとしては広告費をほとんどかけていない状態で、300人近くのトップアスリートの方が使ってくれており、月に数百個は売れています。リピート購入が生まれるという確証も生まれました。今後は広告を出して、どれだけのCPA(顧客獲得単価)で広げていけるかを見るために、もう一度資金調達を行い、少し展開を広めて、反響を見て、また新しい商品を作る、というサイクルを繰り返して様子を見ていこうと考えています。

WWD:トップアスリートのほかは、具体的にどのような人が買っているのか?

中西:2パターンあります。1つ目は体が痛いといった課題を顕在的に感じている、30~40代の農家などの方。もう一つはスタートアップなどで働き、体のコンディションを整えることに気を付けている、感度の高い20~30代の方です。僕らもこの2つをターゲットにして、リアルなイベントに出たり、アスリートの方と一緒にコンテンツを作って発信したりしています。

WWD:今後の商品の種類を増やしていくのか?

中西:既に革靴用のインソールを発表しましたが、今後も女性のパンプス用やジュニア用のほか、4000円程度のエントリーモデルなどを現在制作中です。その次はビジネスマンに向けた靴下なども考えています。基本的には会社のフィロソフィーとして“人々のポテンシャルを引き上げる”ということがあるので、そのためのプロダクトや世界観を提供していくつもりです。

WWD:競合はやはり大手スポーツメーカーなのか?

中西:そうですね。中長期的にはミズノ(MIZUNO)やアシックス(ASICS)などと領域が被ってくると思います。また、僕らが勝手に競合と捉えているのはルルレモン(LULULEMON)。彼らは売上高は4000億円ほどでアシックスと同程度ながら、時価総額では8倍くらい差がついている。彼らはネット上でちゃんとモノを売っていて、広告費を限りなく少なく抑えているため利益率が高い。デジタルに強いメーカーとして競合になると思っています。

WWD:そういった競合と、どのように戦っていくのか?

中西:日本のモノ作りのポテンシャルと、テクノロジーを使えば、世界でも戦っていけると考えています。さまざまな工場を見たり、インソールを作ったりしていく中で、やはり日本のモノ作りのポテンシャルはまだまだあるなと感じています。そこに僕らがテクノロジーを持ち込み、ポテンシャルを引き上げる。例えば、腰痛などの悩みを持っている人の年齢や足のサイズ、課題などのデータをもとに、「このインソールを使ってこういう運動をすれば治りますよ」とったことを提案するなど、ユーザーと伴走していけるような会社にできればと思っています。

WWD:今後の計画は?

中西:2021年の6~12月をめどに、一気に加速する体制を作りたいなと思っています。プロダクトはある程度そろっていて、かつマーケットが見え、フィットしているので広告費を踏んでグロースしていく、という状態までは持っていきたいです。それまでの間には自社で構築しているECなどのバックエンドの枠は全て整っている状態にしたいです。