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「レモンイエローの囚人服」と対話で更生する受刑者たちの物語 映画「プリズン・サークル」

 突然だが、「囚人服」と聞くと、どういうものを思い浮かべるだろうか? 映画「刑務所の中」(2002年)で主演の山崎努が着ていたコンクリート塀と同化するようなグレー、または「怪盗グルーのミニオン大脱走」(2017年)でミニオンたちが着ていたブラック×ホワイトのボーダー、あるいは「ライフ・イズ・ビューティフル」(1997年)でアウシュビッツに収容されたユダヤ人たちが着ていたグレー×くすんだブルーのストライプかもしれない。

 いずれにしてもそれ自体は暗く鬱々とした印象を与え、アイデンティティーを抑圧し、囚人の象徴として着る者に恥辱感を植え付けるだろう。しかし、先日公開された「プリズン・サークル」で受刑者が着ているのは、レモンイエローやライムグリーンの服。これは「懲罰」というより「更生」のために用意された服なのだ。

 「プリズン・サークル」は、官民協働型の刑務所「島根あさひ社会復帰促進センター」(以下、島根あさひ)で行われている更生プログラムの受講生に2年間密着し、彼らが新たな価値観や生き方、他者と関わる別のすべを身につけていく姿を描き出すドキュメンタリー映画だ。

 2008年に開所した島根あさひは、受刑者同士の対話をベースに犯罪の原因を探り更生を促す「TC」(Therapeutic Community=回復共同体)なるプログラムを日本で唯一導入しており、ICタグと CCTV カメラが受刑者を監視する代わりに独歩が許され、語り合いが推奨されている。

 これまで「ライファーズ 終身刑を超えて」(2004年)「トークバック 沈黙を破る女たち」(2014年)と、アメリカの刑務所内部や受刑者、元受刑者たちを取材してきた坂上香監督も、「あんなに明るい雰囲気の刑務所は初めて見ました」と言う。「服装にしても、民間が入ることによって従来の暗いイメージを払拭したいという気持ちがあったそうです」。

 「彼らの改善・更生が少しでも進むように、明るめの色にしました」と語るのは、島根あさひの立ち上げに携わった元職員。確かに黄色は有彩色の中で最も明るい色で、太陽や光、希望といったイメージを喚起する。「われわれ民間事業者が見本を何種類か作り、最終的に法務省が決めました。服の製作で一番苦労したことは、ICタグをいかに外れないようにするか。受刑者が簡単に取り外せない仕組みになっています」。

 一般的な囚人服について補足すると、かつては冒頭で書いたような見た目の粗悪な作りのものが使われていたが、1957年に採用された国連のガイドライン「国連被拘禁者処遇最低基準規則」で「決して被収容者の品位を傷つけ、または恥辱感を与えるものであってはならない」とされたことで改善される傾向にあり、オランダ政府は1995年に「望ましい監獄実務に関するハンドブック」で「品位を保った衣類は被収容者の健康のみならず気力にも影響を与える」と記している。

 ちなみに近年アメリカでは「バットマン ダークナイト ライジング」(2008年)でアン・ハサウェイ(Anne Hathaway)が着ていたようなオレンジのツナギが多用されていた。それは鮮やかさによって脱走をより困難にするという意味もあった。しかし、刑務所を舞台にしたコメディードラマ「オレンジ・イズ・ニュー・ブラック」(2013〜2019年)の流行によりそれが過剰にもてはやされてしまったため、ブラック×ホワイトのボーダーに戻す刑務所が出てきたという。

 暖色の照明が灯る木調の所内でレモンイエローの普段着を、緑の葉が繁る庭でライムグリーンの作業着を着て、辱めにあうでもなく、過剰に疑われるでもなく歩き話すことができる島根あさひでは、更生に比較的前向きになることができそうだ。

 さて、囚人服の話は興味深い(縞模様についてはここでは書ききれないほど)のでつい長くなってしまったが、「プリズン・サークル」および島根あさひの核心は、更生プログラム「TC」にある。

 英国の精神病院で始まり、1960 年代以降、米国や欧州各地に広まったTCは、問題を抱える当事者を主体とし、コミュニティーのなかで相互に影響を与え合い、新たな価値観や生き方を身につけることで人間的成長を促すアプローチだ。島根あさひでは40名ほどの受講者が刑務作業や食事を共にしながら、半年〜2年の間に週12時間程度のプログラムを受ける。心理や福祉などの専門性を持つ民間職員のサポートもあるが、メインは車座(サークル)になっての受刑者同士の対話だ。

 作中では、窃盗や詐欺、強盗傷人、傷害致死などで服役する4人の若者たちが、対話の中で自分の犯した罪やその背景に潜んでいた幼少期の記憶などに向き合い、抑え込んできた感情やそれらを表現する言葉を獲得し、心を改めていく。

 ある者は、別の場では刑務官から番号で呼ばれ罵倒され、日々自分を守ることしか考えられなかったが、TCに参加し、名前で呼ばれ、尊重され、人間らしいコミュニケーションがとれる環境になってようやく、ため込んできた感情を吐き出し、自分の罪と向き合い、被害者のことを考えられるようになってきたという。

 TC出身者の再入率(出所した受刑者のうち一定期間内に再入所する者の割合)は1割弱で、島根あさひの非TC出身者が2割弱であるのに対し半分以下。さらに全国では約4割とされているのでその4分の1ほどということになる。なお、全国約4万人の受刑者のうち、島根あさひで収容できるのは犯罪傾向の進んでいない男性約2000人で、そのうち一度にTCを受講できるのは希望者の中で条件を満たした約40人程度のみ。

 厳罰化が叫ばれる昨今だが、私たちの社会が暴力や貧困から脱するためには本当の意味での更生、そのための対話がもっと必要なのではないだろうか。彼らの変化を見ると、彼らが自分とかけ離れた存在ではないこと、自分のかけていた眼鏡の色こそがくすんでいたことに気づかされる。

■映画「プリズン・サークル」
シアター・イメージフォーラム(東京・渋谷)にて公開中。名古屋シネマテーク(2月22日〜)、横浜 シネマ・ジャック&ベティ(3月7日〜)、フォーラム八戸(3月13日〜)、ホール・ソレイユ(4月3日〜)、川崎市アートセンター(4月4日〜)など全国順次公開

小林沙友里/ライター・編集者:1980年生まれ。「ギンザ(GINZA)」「アエラ(AERA)」「美術手帖」などで執筆。編集者としては「村上隆のスーパーフラット・コレクション」の共同編集など。アートやファッションなどさまざまな事象を通して時代や社会の理を探求