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デザイナーは、シーラカンスになってしまうの?
ドリス・ヴァン・ノッテンの第一線からの引退に続き、「ヴァレンティノ」のピエールパオロ・ピッチョーリが退任。ピエールパオロは引退しないかもしれませんが、洋服作りに心血を注いできた2人の退任は、時代の転換期を感じさせます。
世界で活躍する先輩デザイナーからは、「我々は、シーラカンスになってしまうの?」というLINEがありました。否、そう信じたいです。実際「グッチ」のサバト・デ・サルノは、やはり洋服作りに心血を注いでいます。「ドリス ヴァン ノッテン」も「ヴァレンティノ」も、そんなデザイナーが後を継ぐことでしょう。
「ヴァレンティノ」のピエールパオロ・ピッチョーリが退任 「私の旅路と夢を皆と分かち合えて光栄だった」
「ヴァレンティノ(VALENTINO)」のピエールパオロ・ピッチョーリ(Pierpaolo Piccioli)=クリエイティブ・ディレクターが退任する。業界関係者の情報により明らかになった。新たなクリエイティブ組織の体制は、近日中に発表される予定だ。
ピッチョーリは1999年、「フェンディ(FENDI)」で10年間共に働いてきたマリア・グラツィア・キウリ(Maria Grazia Chiuri、現「ディオール」ウィメンズ・アーティスティック・ディレクター)と共に「ヴァレンティノ」に入社。アクセサリービジネスの活性化に貢献し、創業者のヴァレンティノ・ガラヴァーニ(Valentino Garavani)が引退した2007年に2人でアクセサリー部門のクリエイティブ・ディレクターに就任した。翌年、2人はブランド全体を監修するクリエイティブ・ディレクターに昇進。16年7月にキウリが「ディオール(DIOR)」に移籍した後は、ピッチョーリが1人でメゾンのクリエイションを率いてきた。創業者が築いたオートクチュールメゾンの伝統や職人たちの手仕事に敬意を表しつつ、彼は多様かつ包摂的なアプローチを採用。コレクションを通して現代的なメッセージを発信すると共に、巧みな布使いと独創的な色合わせを生かしたクリエイションでクチュールの現代化にも取り組んできた。
米「WWD」の取材に対し、同ブランドは声明を発表した。ヤコポ・ヴェントゥリーニ(Jacopo Venturini)最高経営責任者(CEO)は「ピエールパオロのクリエイティブ・ディレクターとしての役割、そして彼のビジョン、コミットメント、創造性によってメゾン・ヴァレンティノが今日の地位を築いたことに感謝している」とコメント。ラシード・モハメド・ラシード(Rachid Mohamed Rachid)会長は「メゾン・ヴァレンティノの歴史に重要な一章を刻んでくれたピエールパオロに深く感謝している。過去25年にわたる彼の貢献は、忘れがたい足跡を残すことになるだろう」と述べた。
また、ピッチョーリー=クリエイティブ・ディレクターは、「全ての物語に始まりや終わりがあるわけではなく、影を残さないほど明るく輝く永遠の今を生きるものもある。私はこの会社に25年間在籍し、25年にわたり、私そして私たちのものであるこの美しい物語を織りなしてきた人々と共に存在し過ごしてきた。私が出会い、共に働き、夢を分かち合って美を創造した人々、そして、全ての人の属し変わることなく形に残るものを築き上げた人々のおかげで、全ては存在している。この愛と夢と美と人間らしさに満ちた財産を、私は今日も、そして永遠に大切にしていく」とコメント。「私たちが創り出した美とは、世界のあらゆる可能性、特に一人では想像もできなかったような可能性を与えてくれる人生、希望、機会、感謝、そして私の人々、私の心、そして愛。ヴァレンティノさんとジャンカルロ・ジャンメッティ(Giancarlo Giammetti)さんの信頼に感謝し、さまざまな点でこれを可能にしてくれた全ての人々に感謝している。私の旅路と夢を皆と分かち合えて光栄だった」と続けた。彼のこれからについては明らかになっていない。しかし、インスタグラムに投稿したメッセージの最後には、18歳になる自身の娘から聞かれた「どんな気分?」という問いに絡めて、「若く自由。そして、夢に満ちている。いつでも」と綴っており、今後の動向にも注目だ。
後任に関して、「ヴァレンティノ」のオーナーであるカタールの投資会社メイフーラ・グループ(MAYHOOLA GROUP)は、アレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)前「グッチ(GUCCI)」クリエイティブ・ディレクター、あるいはキウリを視野に入れているのではないかという憶測が流れている。しかし、昨年7月に同グループは広範な戦略的パートナーシップの一環として、「ヴァレンティノ」の株式30%をケリング(KERING)に売却。契約には、ケリングが28年までに「ヴァレンティノ」の株式の100%を取得するオプションが含まれているほか、メイフーラはケリングの株主となる可能性がある。このため、ケリング傘下の「グッチ」を突然去ったミケーレが「ヴァレンティノ」に加わるのは無理があるようにもみられる。
「クリスチャン ルブタン ビューティ」国内百貨店撤退 苦戦の理由は?
「クリスチャン ルブタン ビューティ(CHRISTIAN LOUBOUTIN BEAUTY)」が国内の百貨店から撤退する。輸入代理店を務めるエフ・ジー・ジェイとの6月末での契約終了によるもので、現在展開する松屋銀座、伊勢丹新宿本店、ジェイアール名古屋タカシマヤ、阪急うめだ本店、大丸心斎橋店の5つの店舗と各百貨店ECサイトでの販売が順次クローズする。
2016年に日本上陸、
阪急うめだ本店に1号店をオープン
「クリスチャン ルブタン」は、2013年にニューヨークを拠点とするバタルア ビューティ(BATALLURE BEAUTY)と合弁会社クリスチャン ルブタン ボーテ(CHRISTIAN LOUBOUTIN BEAUTE)を設立。14年にブランドのアイコンシューズをモチーフにしたボトルのネイルカラーを発売し、「クリスチャン ルブタン ビューティ」がデビューした。最初のステップで話題を集め、ブランドイメージの構築に成功すると、米国のほかフランスやイギリスをはじめグローバルな市場開拓を進めた。日本市場へは、16年に阪急阪神百貨店を中核とするエイチ・ツー・オー リテイリングの子会社で、セミセルフ型コスメショップのフルーツギャザリング(FRUIT GATHERING)などを展開するエフ・ジー・ジェイがクリスチャン ルブタン ボーテと日本における独占販売権を締結。同年6月に阪急うめだ本店と松屋銀座に店舗をオープンし、上陸を果たした。阪急うめだ本店の初日の売り上げは約500万円を記録するなど、化粧品高感度層に加えてファッション感度の高い層からも注目を集めた。
プーチとライセンス契約を締結し
グローバル展開を加速
以降、高発色リップ“ルビラック リップ ラッカー(Loubilaque Lip Lacquer)”やフレグランス、17年には4つ目のカテゴリーとしてアイメイク中心のメイクアップコレクションを発売して商品カテゴリーを拡充。18年には、流通チャネルの開拓と幅広い購買層の獲得を目的に、スペインのファッション・フレグランス企業プーチ(PUIG)と化粧品の製造と開発、販売に関する長期ライセンスを締結した。これによりバタルア ビューティとの合弁契約は終了。当時、「クリスチャン ルブタン ビューティ」のチーフ・オペレーティング・オフィサー(COO)だったアレクシス・ムーロ(Alexis Mourot)は、「当社同様、プーチもバルセロナで3代続くファミリー経営。共通点も多く、ビジョンが一致した。中国、南米、欧州で参入していない地域も多く、プーチのグローバルな流通チャネルでビューティ事業をステップアップしたい」と意気込み、その後中国にも進出を果たした。実店舗のほか大手ECサイトのTモール(T MALL)やJDドットコム(JD.com)にも出店し、トラベルリテールの要所である海南島で大々的なキャンペーンを打つなど成長を加速させた。
グローバルでは中東や南米の売り上げが伸びており、プーチの直近のメイクアップカテゴリーの成長に貢献している。商品カテゴリーもファンデーションやフェイスパウダーなどのベースメイクまで広げ、日本ではネイル、リップ共にブランドの象徴であるレッドが人気で、シューズ売り場からの買い回りや、男性のギフト購入などが見られることも特徴だった。
同ブランドは、アイコンシューズのヒールを思わせる先の尖ったモチーフをネイルカラーのキャップに用いたり、古代バビロニアにインスパイアされたゴールドとブラックの豪奢なデザインをリップケースに取り入れたり、デコラティブなデザインで認知度を上げてきた。製品開発をリードするメイクアップアーティストには、イサマヤ・フレンチ(Isamaya Ffrench)や、昨年12月に新グローバル メイクアップアーティストとしてパリを拠点に活動するモルガン・マルティニ(Morgane Martini)を起用。イサマヤ・フレンチはメイクアップの既成概念に囚われないユニークなルックを手掛けることで知られ、モルガン・マルティニは油絵、デッサン、ファッションをインスピレーション源とし、1970年代と80年代のグラムスタイルに現代的なひねりを加えたメイクとクリエイティビティの高さが評価されている。
日本は機能や効果重視のトレンド
総合ブランドに押されシューズにも翳り
気鋭のアーティストとのコラボレーションを通してブランドの世界観を作り上げてきたが、日本では近年、化粧品に機能性を重視する傾向が強まっており、使い勝手や効果をうたうメイクアップ商品が増えている。また、コロナ禍でスキンケアニーズが高まり、メイクアップカテゴリーは復調しつつあるものの、メイクアップのみを展開するブランドが苦戦。華美な世界観を打ち出す中国ブランドの存在感も増しており、競争環境は厳しさを増していた。価格帯もアイコン商品のネイルカラーが7590円、リップアイテムが6930〜1万5290円と競合ブランドと比べて高めの設定で、新商品がシーズナルでタイムリーに発売されなかったことも成長にブレーキをかけた。
また、ファッションの世界では「シャネル(CHANEL)」や「ディオール(DIOR)」「エルメス(HERMES)」「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」などの総合ラグジュアリーブランドが、シューズ専業ラグジュアリーブランドを凌駕。シューズ単体のブランドは、「ロジェ ヴィヴィエ(ROGER VIVIER)」を除き、総じて厳しい。
コロナ禍の外出自粛で売り上げを落とした「クリスチャン ルブタン」も、総合ブランドに押され、かつての勢いを取り戻せていない。販路が限られたビューティにとって、シューズの勢いに翳りがあったことも影響しているかもしれない。
「WWDJAPAN」12月22日&29日合併号は、創業90周年を迎えた吉田カバン総力特集です。「ポーター(PORTER)」「ラゲッジレーベル(LUGGAGE LABEL)」「POTR」の3ブランドを擁し、日本を代表するカバンメーカー・吉田のモノ作りに迫ります。日本が誇る伝統技術を持つカバン職人たちと深い関係を築きながら、最先端の技術・素材を使い名だたるデザイナーズブランドとコラボレーションする相反した性質はどんな文脈から生まれているのでしょうか。