ファッション

2020-21年秋冬のトレンドは“エコ”と“エゴ” 世界最高峰の素材見本市が提案

 世界最高峰のファッション素材見本市「プルミエール・ヴィジョン(PREMIERE VISION以下、PV)」がフランス・パリで開催中だ。48カ国2056の出展社が、テキスタイルを中心に糸、レザー、資材、図案などを提案している。2020-21年秋冬向けのトレンドキーワードは“エコ”と“エゴ”。その意図についてPVのトレンドを統括するパスカリーヌ・ウィルヘルム(Pascaline Wilhelm)=ファッション・ディレクターに話を聞いた。

「エコの付加価値ではなくモードとして面白いものが増えている」

WWD:“eco responsibility(環境への配慮)”を全面に打ち出した。

パスカリーヌ・ウィルヘルム=「プルミエール・ヴィジョン」ファッション・ディレクター(以下、パスカリーヌ):これまでもPVとしてエコを打ち出してきたけれど、技術革新が進み、選択の幅が広がって出展社の提案が増えたことがある。それがエコだからという付加価値の提案ではなくて、モード的に見ても非常にいいものが出てきている。環境を考慮することは、クリエイションだけでなく原料から工程まですべてで考えること。また、市場そのものが環境に配慮した製品を求めていて、それが今動いている。今回は変化のシーズンでもある。

WWD:変化のシーズンとは?

パスカリーヌ:移行のシーズンということ。私たちは“変態”、すなわちミューテーション(突然変異)する用意ができている。それには、環境への責任を持つこと、装いが変化すること、ノージェンダーということなどがある。装いの変化はストリートウエアから構築的なテーラリングに移行しつつあり、ノージェンダーにはさまざまな可能性が表れていて、選び方に広がりが出てきている。

WWD:今回のPVが掲げたトレンドキーワードは“エコ”に加えて“エゴ”があった?

パスカリーヌ:今の世の中、みんな自分のおへそが一番大事よね(笑)。フランスのことわざに、自分のことばかり考えているときはへそばっかり見ているというのがあるのだけど、そういうこと。今、みんな自分が一番大事でしょ?セルフィ―の時代だし。みんなが、「自分自分」と言っている市場は、オファーする側としては挑戦しなきゃいけない。個性を求めているということだからそれに応えなければいけない。小ロットの商品や個性的で特別な商品を作ることを努力しているでしょ?

WWD:PVとして特にポイントとしたことは?

パスカリーヌ:快適さや包まれる感覚、大事にされる、守られているといった感覚はもちろん必要だけど、構築的なものに変化が起こっていて、でもそれは快適ではなくなるということではない。テーラリングで“体をデザインする”という感覚で、それはフーディーやぶかぶかのパンツとは一線を画すもの。具体的な素材の話をすると、軽くて機能的、でもそれが目に見えないような生地――例えばフィルムをボンディングしたしなやかな生地などね。

WWD:しなやかな素材で構築的なものを作っていくイメージ?

パスカリーヌ:「PVアワード」でグランプリを取った素材はカシミア100%にコーティングしたしなやかな素材。固くはないけれど、張りがある。あとは、硬すぎないこともポイントで、例えばジャケットになったときにやや肩が丸みのあるラインになるようなイメージ。

「私たちは不安を受け入れなければいけない」

WWD:ベルベットやクラシックなチェック柄など牧歌的な印象の生地が多かった。

パスカリーヌ:例えばベルベットはシルクやビスコースとブレンドした生地が多く、田舎っぽいものではなくなっている。ビスコース100パーセントのベルベットなど、柔らかくて汎用性が広がるものが多いのが特徴。また見た目はゴツゴツとしたコーデュロイだけど、タッチが違うものも多い。ベルベットはメンズのアイコン的素材の一つだけど、今回のものは光沢があり流麗感がある。スカートやドレスなど、幅が広がると思う。

WWD:トレンドのメインエリアの“パースペクティブ”は、暗い森に迷い込んだようなディスプレーで、展示された生地はくすんだ色のものが多く、妖しい光を放つものもあった。

パスカリーヌ:(提案するシーズンが)冬だから(笑)。展示では、自然との関係の重要性を表現したかった。それは私たちが思い描く理想的な森ではなく、暴力的で、危険をはらむような森をね。でも最後は暗い森から飛び出すようなイメージで、それを今回のキービジュアルにした。私たちは不安を受け入れなければいけない。自然に気を付けながら、自然に配慮して、その中にいる自分を大事にしよう、という意図がある。

WWD:立ち止まって考えてみよう、的な?

パスカリーヌ:立ち止まる必要はないけれど、歩きながら考えてほしい。モードは止まることを知らないから。

WWD:あなたにとってモードとは?

パスカリーヌ:私にとってはすばらしい原動力。人の美しさや快適さを求めることで、人が生きていることを肯定してくれるもの。そのための新しい方法を提案できるもの。

WWD:なぜ今、サステイナビリティーなのか?

パスカリーヌ:先に開催されたG7など政治的な背景は大きい。あとは、アマゾンの森を燃やしっ放しといった環境問題のスキャンダルが情報として伝達されていて、個人が自分の生活の中で認識するようになっている。そうした中で個人レベルで意識の変化が起こっている。自分の外側の世界が思ったよりも脆弱(ぜいじゃく)であることが理解されるようになった。これまでは、そういったコミュニケーションが少なかったけれど、今は自分事として考えられるようになったと感じる。テキスタイル業界に目を向けると、技術が進んでサステイナブルな素材が提案できるようになったこともある。

WWD:フランスに目を向けると23年までに衣料品の売れ残りの洋服の廃棄が禁止になったり、G7に合わせて「ファッション協定(Fashion Pact)」が発表されたりと先導していると感じる。

パスカリーヌ:北欧やオランダの国に比べて環境への配慮は遅れている。彼らは日常的に行っているから。フランスは遅れを取り戻すために行っている。

WWD:フランス政府から何かアプローチはあるか?

パスカリーヌ:ない。PVは、サステイナビリティーについて考える委員会には参加はしている。コミュニケーションがあるが、直接働きかけがあるわけではない。

WWD:サステイナブルなファッション業界であるためには?

パスカリーヌ:製造工程のすべて、廃棄に至るまでのすべての段階でエコロジーを考えること。それがモードの一部になっている。クリエイションが変わるのではなく、いろんな要素を考えなければいけなくなっている。

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