PROFILE:1967年3月24日生まれ、48歳。京都大学大学院高分子化学科修了。92年にエクソン化学(現EMGマーケティング合同会社)に入社。2005年に日本ロレアルに入社してセレクティブ事業部長、ロレアルシンガポール事業本部長(出向)、プロフェッショナル・プロダクツ副事業本部長。12年に健康食品のシャクリー・グローバル・グルプ社長。14年12月TSIホルディングス顧問を経て、今年5月から現職。趣味は「川原亜矢子直伝のラジオ体操と朝の寺巡り」
5月28日付で就任した齋藤匡司TSIホールディングス新社長は、石油の米エクソンや化粧品の仏ロレアルなど外資系企業でROE(自己資本利益率)重視を叩き込まれた経営のプロである。前期(2015年2月期)に初の営業黒字を計上したものの、低収益にもがくTSIをどのように変革するのか?
「社長としてのグッドジョブはTSIの時価総額を最大化すること。私の野心と情熱の全てを注ぎ込む」。自らの役割についてそう語る齋藤社長は、入社以来、株式市場の反応に目を凝らし続けてきた。4月24の社長就任内定の発表日の終値は828円だったが、5月15日のリストラの発表、28日の社長就任を経て、6月4日の終値は913円になった。「株価を上げ、グッドジョブ、さらにはグレイトジョブと言われるようにする。先日の中期経営計画で発表した営業利益率7%(前期は0.55%)、ROE5%(同1.95%)を前倒しで達成したい。それがアパレル未経験の私を社長に抜擢してくれた三宅(正彦)会長への恩返しでもある」。
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昨年12月の入社以来、真っ先に取り組んできたのがコスト構造改革だった。2011年6月に東京スタイルとサンエー・インターナショナルの統合によって誕生したTSIは、3年連続の営業赤字にもがいた。この間、「聖域なき構造改革」を推し進め、統合時61ブランド・2468店舗だった販売体制を、15年2月期には42ブランド・1570店舗まで縮小した。
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だが、事業戦略本部長を兼任する齋藤社長はそれでも不十分と判断し、追加で「プラネットブルー(PLANET BLUE)」「レベッカミンコフ(REBECCAMINKOFF)」「ボディドレッシング(BODY DRESSING)」など11ブランド・約260店舗を8月末でやめると発表した。同時に、物流集約や生産における直接貿易の比率アップなど、グループのスケールメリットを生かした効率化を推進する。「売り上げ計画はともすれば希望的観測になりがちだ。だがコスト削減は実行すれば、必ず成果が出る。前期は営業利益9億円だったが、コスト削減だけで数十億円単位を積み上げられるはずだ」と言い切る。
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自らの経験を踏まえ「ファッションは難しいが、挑戦のしがいがある業界」だという。「エクソンの商品はずっと同じ石油なので、コスト競争力が最も重要になる。ロレアルの化粧品は新製品も出すが、7割の変わらない定番商品がビジネスを支える。それに比べてファッションは前と同じ商品が全く通用しない。クリエイティビティーが要求される自由度の高い業界だ。しかし自由すぎると大量の無駄が派生する。このバランスが重要だ。事業会社で100にも及ぶ費用項目を精査し、徹底的な合理化で、ぜい肉をそぎ落としていく」。
縮小均衡にばかり注目が集まりがちだが、一方で成長戦略への布石を打っている。中期経営計画ではM&Aに200億円程度の予算を充てた。齋藤社長が成長のキーワードとしてあげるのは、海外、ムスリム、中間所得者層、シニア、美容、オーガニック、ECなど。これらに関わる事業を有望と見れば、国内外問わず積極的にM&Aを仕掛ける。「TSIの既存のファッション事業と掛け合わすことで、他社にはないビジネスモデルを構築したい。特に私のロレアルでの経験を活かせるような化粧品分野は、ファッションとの相乗効果が見込める。リストラばかりが続いていたので、全社の士気を高めるためにも今期中に第一弾を発表したい」。M&Aは海外戦略とも連動する。中国では「M.ツボミ」「キャロウェイゴルフ」といった既存事業を強化するとともに、流通網を持つ企業の買収や提携にも動く。東南アジアでは2億5000万人の人口を抱えるインドネシアで事業の可能性を探る。イスラム教徒が主流のインドネシアでは中間所得者層の増加に伴い、ファッションへの関心が高まっている。ここで支持されるブランドの買収あるいは提携を行う。また東南アジアでのECにも本格参入する。東南アジアで大きなシェアを持つECサイト「ザローナ」に「フリーズマート」を今夏出店し、シンガポール、マレーシア、香港での販売を開始する。「まずはECで先鞭をつけて、その後のリアル店舗の出店への下地を作る」考えだ。
既存事業にも改善を促す。特に旧東京スタイルと旧サンエー・インターナショナルのブランド群の改革が急務だ。ナノ・ユニバース、アングローバル、ローズバッドなどM&Aした企業の業績が好調なのに比べて、苦戦が目立つ。プロパー消化率を上げるためMDを抜本的に見直し、粗利益率の改善に取り組む。「最低でも2〜3ポイント上げる必要がある。事業会社のトップに権限は与えるが、アパレル経営のプロならば粗利改善に挑むのが最大の仕事」と注文をつける。