ファッション
連載 鈴木敏仁のUSリポート

オフプライスストアは一日にしてならず 百貨店参入組はまだ発展途上【鈴木敏仁USリポート】

アメリカ在住30年の鈴木敏仁氏が、現地のファッション&ビューティの最新ニュースを詳しく解説する連載。米国の小売業界で大きな存在になっているのがオフプライスストアである。最大手TJマックスの売上高は4兆円以上。構造的な不振に陥っている百貨店もオフプライスストアに突破口を見出そうとしているが、現状はどうなっているのか。

百貨店のメイシーズ(MACY'S)が低価格アパレル市場を狙うために2016年に新たに開発したのがオフプライスストア(OPS)業態「バックステージ(BACKSTAGE)」である。本体のデパートメントストア内の売り場展開からスタートし、コミュニティー型ショッピングセンター(CSC)での独立店舗も開発している。

本体内の売り場とは、本体の売り上げが縮小傾向にあるため、余剰スペースを埋めるために導入したものだと考えている。トイザらス(TOYS “R” US)による玩具売場を持ち込んだのと同じ戦略である。この売り場としての「バックステージ」は増えており、昨年半ばの時点で489店舗中の310カ所と半分を超えている。近いうちに全店舗に入るのではないだろうか。

また独立店舗は同じく昨年半ばに9店舗となっていて、これから数10店舗まで増やすとコメントしていた。

テキサス州ダラスでのケーススタディ

そういう状況で、偶然、テキサス州のダラスで独立店舗を訪問する機会に恵まれた。

人口が増えている郊外の、ディスカウントストアのターゲット(TARGET)の大型フォーマットが核店舗として入っているCSCに出店していたのだが、TJマックス(TJ MAXX)とロス ドレス・フォー・レス(ROSS DRESS FOR LESS、以下ロス)という競合する2社も店を構えており、極めて興味深い出店戦略を取っていた。

結論を言ってしまうと、バックステージとロスはガラガラで、TJマックスはレジにお客が並んでおり、一見して勝負が付いていたのであった。

TJマックスは別業態としてホームグッズと呼ぶホームファッションのOPSを展開している。アパレルとホームファッションのクローズアウト商品のソーシングは重なっており、もともとTJマックス店内にもホームファッションや雑貨をそろえていることもあって、ホームグッズのみを扱う別フォーマットの開発は自然の成り行きだった。

今回ダラスで訪問した店舗は、広い面積を確保し入り口を2つ作り、看板も2つ掲げているので表から見ると別々の店舗なのだが、中はつながっていて、レジも1つにまとまっているタイプである。数は少ないのだがこのタイプはどこも繁盛していることが多く、ダラス店舗の一人勝ちはそのせいもあったかもしれない。

ただ、それだけではなく、時間に制限があり品ぞろえや価格などの調査はできなかったが、おそらく調達力の違いが客数に表れているのではないかと私は理解した。またバックステージとロスの売り場の作り方はほぼTJマックスのコピーなのだが、訴えるような何か感じなかったのは、店員の覇気のなさや客数の少なさによるにぎわいの欠落などが影響していたのかもしれない。

1店舗だけで全てを理解した気になるのは危険だが、バックステージの独立店舗は厳しそうだなと私は感じたのであった。

この別フォーマットとしてのOPSはノードストロム(NORDSTROM)もノードストロム・ラック(NORDSTROM RACK、以下ラック)という名称で展開している。昨年末の時点で本体93店舗、ローカル6店舗、ラック258店舗、ラストチャンス2店舗で、店舗数は圧倒的にラックが多い。売上高ベースでは22年度末の時点で、本体68%、ラック32%と、まだ本体がマジョリティーを占めているが、本体の新店は凍結する一方でラックを増やす戦略を取っているので、ラックの比率は今後さらに上がっていくことになる。

オフプライスストアの鍵を握る調達力

ノードストロムもメイシーズもこのOPS別フォーマットとのカニバライズを否定している。顧客層が異なる、前者は新規顧客の獲得ソースにつながっている、本体内に展開している後者はクロスショッピングによって客単価向上に寄与している等々、ポジティブな発言をしているのだが、ネガティブな見解を表明する専門家は少なくない。

既述の通り、成否はもちろん調達力にあるだろう。勘違いしている業界人が少なくないが、OPSはそもそもアパレル店舗の見切りを調達して売るのではなく、メーカーや卸といった上流での過剰在庫を調達するビジネスモデルである。ノードストロムとメイシーズはこれに自らの店頭の過剰在庫をミックスさせており、これがTJマックスやロスといった専業リテーラーとの相違となる。

TJマックスの強さはひとえにこの調達力にあるとされている。工場など絶えず現場をまわらなければならない、その場で決済しなければならないので通常では高い職位が持つような権限を現場に持たせている等々、激務と重い責任でバイヤーの離職率が高いという話も聞いたことがある。

こういったクローズアウトのノウハウでノードストロムとメイシーがTJマックスを凌駕できるのかどうかである。
メイシーズは今年初頭に本社人員13%(2350人)のレイオフと5店舗の閉鎖を発表している。また昨年には投資企業からの買収提案を受けて、リストラ発表と同時期に拒否したことを明らかにしている。投資企業によるバイアウトのターゲットとなるのは決してほめられたことではなく、業績が不安定な証左である。

ノードストロムは第3四半期の時点の9ヶ月間で減収減益、既存店成長率の公開をやめてしまっているのだが投資アナリストはマイナスだろうという見方をしている。

デパートメントストア業態はながらく構造不況と言っても良い状態で、各社ともに様々な施策を打ってきているが、爆発力のある新たな何かを見いだせずに来ている。バックステージの単独店舗を見て、強さよりも弱さを感じてしまったのは私だけではないだろう。

最新号紹介

WWDJAPAN Weekly

韓国ブランドの強さに迫る 空間と体験、行き渡る美意識

日本の若者の間で韓国ブランドの存在感が増しています。K- POP ブームが追い風ですが、それだけでは説明できない勢い。本特集では、アジアや世界で存在感を示すKブランドや現地の人気ショップの取材から、近年の韓国ブランドの強さの理由に迫ります。

詳細/購入はこちら

CONNECT WITH US モーニングダイジェスト
最新の業界ニュースを毎朝解説

前日のダイジェスト、読むべき業界ニュースを記者が選定し、解説を添えて毎朝お届けします(月曜〜金曜の平日配信、祝日・年末年始を除く)。 記事のアクセスランキングや週刊誌「WWDJAPAN Weekly」最新号も確認できます。

@icloud.com/@me.com/@mac.com 以外のアドレスでご登録ください。 ご登録いただくと弊社のプライバシーポリシーに同意したことになります。

メルマガ会員の登録が完了しました。