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どうしたら「外商顧客」になれるの? 百貨店外商7つの基礎知識

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 百貨店が外商の強化に乗り出している。外商事業を担う人員を増強したり、デジタル上の仕組みを整備したり、富裕層が好むラグジュアリーブランドや宝飾・時計、美術品など高額品の品ぞろえを拡充したり――。この30年間で中間層の購買力が低迷する中、純金融資産1億円以上を保有する富裕層は増え続けていることが背景にある。まずは、あまり知られていない外商について基本的な7つの要点を抑えておこう。(この記事は「WWDJAPAN」2022年10月31日号外商特集からの抜粋です)

1.ルーツは江戸時代の呉服屋の商い

 今から400年以上前の江戸時代初期、呉服屋は大名や裕福な武家、商家などの屋敷に、複数の反物などを持参し、そこから選んで購入してもらっていた。代金は後日受け取る「掛け売り」で、お得意様ごとに台帳を管理していた。明治から昭和にかけて呉服屋から百貨店に業態転換した三越、大丸、松坂屋、そごうなどが、その商いの手法をそのまま引き継いだ。阪急百貨店や西武百貨店などの電鉄系百貨店もこれを取り入れた。外で商いを行うから「外商」。日本の百貨店の独自のビジネスモデルであり、海外のブランド関係者にもGAISHOの名前は浸透している。

2.どうすれば外商の顧客になれるのか

 外商の顧客になるには、百貨店ごとに異なる会員基準があり、審査を通る必要がある。大まかにいえば、百貨店あるいは百貨店が連携するカード会社などによって、年収や職業、百貨店での購買実績、カードの支払い実績などが確認される。必ずしも「年収いくら以上」とか「年間100万円以上の購買実績があるか」などの条件が存在するわけではないが、結果的には経済力のある人たちが残る。ある百貨店では「特別なお金持ちではなくても、上場企業の部長クラスであればまず問題はない」と説明する。

 外商会員になるには自分で申し込むこともできるが、既存の外商会員からの紹介、外商会員である親から引き継ぐ、百貨店での買い物実績から勧誘されるといったケースが多いようだ。

 一口に外商会員といっても年間の購買金額や会員歴によって、受けられるサービスに差がある。外商員が担当として付くのは、年間購買実績でかなり上の顧客に限られる。

3.代々続くオーナー社長からIT起業家、芸能人まで

 外商の上位顧客は、オーナー社長や開業医、政治家などの名家が多い。顧客の自宅をよく訪れる外商担当は、家族ぐるみでの付き合いとなるケースもあり、その子や孫まで途切れることなく関係を築く。ひと目を気にする芸能人・著名人にも外商利用者がいる。以前に取材した外商員は、某プロ野球監督が同店の熱心な外商顧客であると教えてくれた。一方近年は、IT起業家など若い外商顧客も増加傾向。大丸松坂屋百貨店では、直近の20〜40代の外商顧客の購入金額が「コロナ前(18〜19年)の水準と比較して1.5倍以上」(加藤俊樹・取締役 常務執行役員営業本部長)という。

4.自宅訪問&デジタルツールで接客

 外商といえば、百貨店の外商員がお金持ちの顧客の自宅を訪れて、持参したジュエリーやバッグなどを販売する姿を思い浮かべる人が多いだろう。呉服屋の外販がルーツの百貨店の外商では、自宅訪問が現在でも有力な手段だ。外商員はクルマで担当エリアの顧客の家を訪ねる。自宅に入れるような信頼関係は百貨店の財産であり、顧客の家族や暮らしまで深く知った上で、さまざまな提案が可能になる。

 ただ現在はデジタルの発展と顧客の世代交代によって変化している。顧客とはLINEワークスなどで連絡し合うのが当たり前になった。訪問しなくても、外商員からおすすめ商品の画像を送ったり、顧客から探しているもののリクエストが入ったり、気軽に頻繁にやりとりができる。若い世代の富裕層は、自宅訪問をあまり望まない傾向にあり、さらにコロナも重なって拍車がかかった。訪問するよりも、LINEワークスで密接にやりとりしつつ、百貨店に来店してもらって外商員がアテンドしながら多くの商品を手に取ってもらうケースが増えている。百貨店内の外商ラウンジの拡大やサービスの充実が相次いでいる。

5.ネギ1本からプライベートジェットまで売る

 外商員が販売するものは、百貨店で取り扱う商品だけにとどまらない。数億円のスポーツカーを集めた店外催事を開催することも。要望とあれば、クルーザーやプライベートジェット機まで手配する。「お客さまのリクエストに『できない』は禁物」と三越伊勢丹外商統括部個人外商グループ計画部の金井脩平=計画・商品担当長。とはいえ、いきなり“大物”を買ってもらうことは難しい。日常利用する外商顧客も多い中、たとえ数百円のネギ1本であっても、小さな信頼の積み重ねが重要だとする。

6.外商顧客だけの特別なサービスって何?

 外商会員には割引やポイント還元、店内の外商ラウンジの利用、駐車場の無料提供、スペシャルイベントへの招待、専任の外商員によるアテンドといったサービスが提供される。これも年間の購買金額によってランク分けされており、一口に外商会員といっても年間購買1億円以上の人と数十万円の人とで受けられるサービスには、かなりの開きがある。外商ラウンジは売り場の奥の方に立地し、ショッピングの途中でソファや椅子でくつろげ、無料のドリンクが提供される。上位顧客のための専用ラウンジはさらにぜいたくな空間で、外商員との商談の場にもなる。ホテルを会場にした外商会員向け催事を行う百貨店も多く、希少な宝飾品や絵画が紹介され、一流シェフの料理が振る舞われたりする。ラグジュアリーブランドや宝飾・時計ブランドも外商顧客向けのイベントを定期的に行っている。

7.外商が強い百貨店はここだ!

 外商の売上高は会社によって算出方法が異なり、非公開の会社もあるため、正確な順位を出すのは難しい。店舗売上高で東西2強と呼ばれる伊勢丹新宿本店(2536億円、22年3月期)、阪急本店(2006億円、同)は、外商比率が2割弱と言われており、金額ベースでもやはり存在感が大きい。外商比率だけでみると、外商文化が盛んな愛知県にある松坂屋名古屋店(1039億円、22年2月期)は約5割を占めるため、金額でも伊勢丹新宿本店と並び合うことになる。

 また数値は公表されていないものの、三越日本橋本店(1144億円、22年3月期)は何代も続く外商顧客とのつながりが深く、外商比率は高い。やはり公表されていないが、日本橋高島屋(1239億円、22年2月期)も外商に強い。高級住宅街・松濤が足元にある東急百貨店渋谷本店は外商比率が4割を占めるが、来年1月末に閉店を控えており、ライバル百貨店との顧客争奪戦が注目されている。

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