フォーカス

「バーバリー」2021年春夏を読み解く 森の中の無観客ショーで表現した”人魚とサメのラブストーリー”

 2021年春夏シーズンのロンドン・ファッション・ウイークが9月17日、開幕した。トップバッターはリカルド・ティッシ(Riccardo Tisci)がチーフ・クリエイティブ・オフィサー(CCO)を務める「バーバリー(BURBERRY)」。アマゾンが提供するライブストリーミング配信プラットフォーム、ツイッチ(Twitch)を通して、イギリスの大自然の中で行なった無観客ショーを配信した。ここでは、「WWDジャパン」編集長の向千鶴と、ロンドン・ファッション・ウイーク担当記者の大杉真心が対談し、それぞれの視点で今回のコレクションを読み解く。

向:さあ、21年春夏ロンドン・ファッション・ウィークが始まりましたね。皮切りは「バーバリー(BURBERRY)」。発表した日付は今回も17日。なぜなら17はリカルド・ティッシのラッキナンバーだからです。先シーズンまでは現地ロンドンを取材していた大杉さん、バーチャルで見た「バーバリー」はどうでしたか?すごい情報量でしたよね。

大杉:驚きが満載でした!ライブストリーミング配信プラットフォーム、ツイッチを使った発表でしたが、私は昨日までツイッチの存在を知らず……(笑)。調べてみるとゲーム実況などで有名なツールなんですね。

向:ファッションショーをツイッチで見るのは初めて。正直、最初はユーチューブでいいじゃない、と思ったけれどショーが始まってそのスケール感ある表現にびっくり。森の中に没入してゆく感を楽しめました。大杉さんはショーの前の4人のインフルエンサー対談から見たでしょ?どうでした?あの右上の占い師のような女性は誰? 

大杉:歌手のエリカ・バドゥ(Erykah Badu)です。モデルのベラ・ハディッド(Bella Hadid)、歌手のロザリア(Rosalia)、ギタリストのスティーヴ・レイシー(Steve Lacy)の4人が前座のようなライブトークを行いました。皆、リカルドとつながりがあって、彼との思い出話や、デザインの好きなところなどを語っていました。一緒にショーを見る前のワクワク感を共有できるのは、デジタルでもちょっとリアルな感覚が味わえました。

向:今あらためて4人のトーク映像を見ながら話をしているけど、最初はちょっとぎこちない4人がだんだんと仲良くなっていく様子がリアルで親近感を覚えますね。ベラの部屋の壁が気になって仕方ない(笑)。そうこうしているうちにショー本番へと導かれるから、この“オープニングトーク”はプロモーションの観点から見ても有効だと思います。リアルのショーの場合は「誰がフロントローに座るのか」が一つの取材ポイントだったけど、今後は「ショー直前のトークイベントに誰が来るのか」が話題になるかもしれないですね。

アンネ・イムホフによる“秘密の儀式”のような演出

大杉:本題のショーは、イギリスの大自然の中で無観客ショーの配信を行うという内容でしたね。森の中でダンサーたちのパフォーマンスがあり、モデルが登場。レールカメラやドローンを使ったカメラワークが映画のようで、迫力がすごかったです。ドイツのアーティスト、アンネ・イムホフ(Anne Imhof)とのコラボレーションによる演出でしたが、向さんはどう感じましたか? 

向:それはいい質問(笑)。なぜならすごく意味深なショーで、それぞれに「どう解釈したか」を語りたくなるショーだからです。森林に突如現れたサークル状のスペース、その中で展開される戦いをほうふつとさせるアンネの無言のパフォーマンス、それを円形になって無言で見守るさまざまな肌の色・年齢のモデルたち。秘密の儀式を見るようでした。ツイッチだけにこういったストーリーのゲームがあるのかなと推察したけどちなみにプレスリリースにはなんとありますか?

大杉:「リカルドは深い海の中で繰り広げられる人魚とサメのラブストーリーを思い描き、ファッションの力を通して、感情を動かし喚起することを試みた」とあります。なんと、人魚とサメのラブストーリーというファンタジーだったんですね……!続けて、「海は常に美しく、時に残酷で、ロマンチック。衣服にインスピレーションを与え、イギリスが持つ多面性と自由を表現している」と。演出については、「ファッションとアートの不一致を表現」したとのこと。「海岸に波が無作為に打ち上げられるように、モデルやパフォーマーの体の流れで、自然と人間の共存を称えた」そうです。深いですね。

向:人魚とサメのラブストーリーか〜。なるほど〜。なんてね(笑)。全然わからなかったけど、自由に受け止めて楽しむのが正解だと思う。アンネは去年、ロンドンのテート・モダン(Tate Modern)のパフォーマンス・プログラムに参加して、そこでは孤独やテクノロジーといった現代人が持つ不安を表現していました。見る人を引き付けるのは、多くの人が漠然と持っている感情を掻き立てるからなんでしょうね。話は変わって肝心の洋服について。写真で見るとよくわかるけど、一つ一つのアイテムがかなり攻めてる。トレンチコートやデニム、ニットといったスタンダードな素材・アイテムをドッキングするアイデアが多くて、いろいろなスタイリングが楽しめそう。

大杉:トレンチコートといえば「バーバリー」の代名詞ですが、原型はイギリス陸軍が用いた防雨オーバーコートです。水をはじくトレンチの生地で有名なギャバジンは、ブランド創業者のトーマス・バーバリー(Thomas Burberry)が開発したもの。今回のキーワードである“水”は「自由を象徴し、新しい命を花開かせることを意味している」そうです。水面をフォトプリントしたコートもアイコニックですが、私が驚いたのは、一見、幾何学模様に見える柄――よく見るとサメの尾びれです!

向:なるほど!よく見つけましたね。“水”につながるタイダイの使い方も印象的。個人的には私はこのマリアカルラ・ボスコーノ (Mariacarla Boscono)のルックが好き。乳房の部分が丸く穴が開いている上に、レザーのベルトを飾ったフェティッシュなメンズのTシャツなど、リカルドらしいダークで強い世界観のルックも多かった。アクの強いプリントを使ったりして、どこかゲームのキャラクター的。自然の中では異質に映るデザインだけに、その非現実的感が記憶に残ります。

大杉:私リカルドの色使いがとてもタイプなんですが、今季はブルーの補色のオレンジがメンズのルックで多用されていました。救助用の浮き輪の色のようです。“SWIM WITH THE GREAT BURBERRY AT YOUR OWN RISK(バーバリーと泳ぎましょう、自己責任で)”のメッセージがくすっと笑えます。リカルドがデザイナーに就いてから刷新したロゴも随所にあしらわれています。

「バーバリー」のメンズが好調! 若い男性にロゴ入りアイテムがヒット

向:「バーバリー」の強みはメンズとウィメンズ、若者と大人の全方位にリーチしている点。ここ数週間、百貨店特選売り場の取材を行って、「バーバリー」のメンズが好調との声を多く聞きました。特に若い男性にロゴ入りアイテムが幅広く売れているそう。メンズとウィメンズを同じ売り場に展開している店が多いから、ウィメンズのアイテムを買う男性も多いそうです。ショーと売り方の考え方が連動しているのは強いね。

大杉:客層が広がっているんですね。目を引くアクセサリーもたくさんありました。私が気になったのはフィッシュネット風のベストとネットバッグ。ネットベストはシャツやコートの上に合わせたりとジュエリー感覚で着る提案が新鮮です。あと、帽子にミニポーチが付いているのも斬新!財布にもなっちゃいそうです(笑)。

向:細かいところをよく見ているね!最後に登場したスーツ軍団はなんだったのだろう?あれはシンプルなビジネススーツを強化するメッセージかしら?すぐビジネスに結びつけてショーを見ちゃうのは私の性だけど、若い男性が頑張って買う初めてのブランド物のスーツが「バーバリー」というアプローチは正解だと思う。

大杉:いいですね。「バーバリー」はサステナビリティに注力していて、過去2回のショーはイベント開催で発生する二酸化炭素をオフセットするために植樹などを行なっていました。今回のショーもカーボンニュートラル(二酸化炭素の排出量と吸収量を同じにすること)のイベントとして認定を受けているそうです。今年に入って世界各地で森林火災が多発し、コロナ禍に見舞われるなど、自然の力を考えさせられることが多かったのですが、今回の森の中というロケーションもサステナビリティと自然へのメッセージが感じられましたね。 

最新号紹介

WWD JAPAN

デジタルコマース特集2020 コロナで変わったもの/残すべきもの

「WWDジャパン」10月26日号は、デジタルコマース特集です。コロナ禍でデジタルシフトが加速し、多くの企業やブランドがさまざまなデジタル施策に注力していますが、帰るべきものと残すべきものの選別など、課題が多いのが現状です。今年はそんな各社の課題解決の糸口を探りました。巻頭では、デジタルストアをオープンしたことで話題の「シロ(SHIRO)」の福永敬弘=専務取締役やメディアECの先駆け的存在「北欧、暮…

詳細/購入はこちら