PROFILE: キルシー・パーッカリ/カレワラCEO

フィンランドのジュエリーブランド「カレワラ(KALEVALA)」は、2027年に創業90周年を迎える。自然から着想を得た独創的なデザインが特徴のジュエリーは“ウエアラブルな彫刻”とも呼ばれる。1977年の映画「スター・ウォーズ(STAR WARS)」でレイア姫が着用し、ジョン・レノン(John Lennon)がヨーコ・オノ(Yoko Ono)に贈ったという知る人ぞ知るブランドだ。日本には2022年に上陸。自社ECとポップアップショップで地道に販路を広げ、9月にニュウマン高輪に日本初のコンセプトショップを出店した。1937年にフィンランドの女性たちにより創業された「カレワラ」は代々女性が率いてきたユニークな歴史を持つ。キルシー・パーッカリ=カレワラ最高経営責任者(CEO)は8代目の女性トップだ。同CEOにブランドやビジネス戦略について聞いた。
女性が率いる文化的・社会的意義のある循環型ビジネス
「『カレワラ』が90年継続してきたのは、創業時からの文化的背景とデザイン、モノづくりへの姿勢を守りつつも、時代に合わせて変化してきたから」とパーッカリCEOは語る。ブランド名の「カレワラ」とは、フィンランドの国民的叙事詩のこと。女性の社会的地位が低かった1937 年、創業者のエルサ・へポラウタと社会活動家の女性グループは、文化支援と女性のエンパワメント推進を目的に、非営利団体の「カレワラ女性協会」を設立。同協会が「叙事詩に登場する女性を讃える銅像を作ろう」と、その資金集めを目的に作ったのが「カレワラ」だ。設立以来、「カレワラ」の活動は文化振興やチャリティー活動と深い結びついてきた。同CEOは、「『カレワラ』が目指すのは単なる商業的な成功ではない。フィンランドの文化を伝え、事業活動で得た利益を文化活動につなげる役割がある」と話す。現在、「カレワラ」は、利益の3分1をチャリティー活動及び社員の福利厚生へ宛てている。「文化的、社会的意義は創業時からブランドのDNAとして引き継がれている。利益が、社会、文化、従業員に還元される循環型ビジネスモデルだ」。この仕組みは、従業員の大きなモチベーションになっているという。
"ウエアラブルな彫刻”と呼ばれるタイムレスなデザイン
博物館のブローチから始まったデザインは、フィンランドの厳しい自然や文化から得たインスピレーションを元に独自のデザインへと昇華されてきた。パーッカリCEOは、「強い文化的背景と自然美をデザインに落とし込み、時代と共に進化させていく、それが『カレワラ』らしさ」と話す。「スター・ウォーズ」で採用された”スペースシルバー”は、今でも「カレワラ」のベストセラーの一つだ。最近では、松をモチーフに有機的なデザインで仕上げた”マンニュットゥ”コレクションや建築から着想を得た”ヴェトヴォイマ”コレクションなど、デザイナーたちがモダンで独創的なジュエリーを生み出している。「私たちには、半世紀以上愛され続けるデザインもあれば、90年後に通用する未来のアイコンもある。いずれも、フィンランドの自然と文化に紐づいたタイムレスなデザインで、いつ見ても新しさがある。それが”ウエアラブルな彫刻”と呼ばれる所以だ」。
10人の職人の手を経て完成する真のハンドメード
「カレワラ」の90年という歴史を支えるもう一つの柱が、フィンランドでの生産とクラフツマンシップだ。海外に生産拠点を持つジュエリーブランドが多い中、「カレワラ」は、自国でのモノづくりにこだわり、代々受け継がれてきた技術とノウハウを守っている。へルシンキ郊外の自社工房で生産されるジュエリーは、3Dプリンターなどの最新技術と代々受け継がれてきたクラフツマンシップを融合し、10人の職人の手を経て完成する。金属を鋳型に流し込んで終わりではなく、鋳型のパーツ1つから職人が手掛ける真のハンドメードだ。パーッカリCEOは、「クラフツマンシップは自動的に残るものではない。その背後には必ず人がいる。テクノロジーを取り入れながらも、伝統を守りつつ人を育て残していかなければならない」と話す。
ジュエリーに宿る意味も引き継ぐ"プレラブド”
ジュエリーの材料であるシルバーやゴールドはほぼ100%リサイクルしたもの。工房は、風力及び太陽熱エネルギーで稼働。ジュエリーの制作時に出る金属粉を吸収しリサイクルする空調システムと使用水の浄化システムを完備し、再利用している。「カレワラ」が考えるサステナビリティは、環境負荷の低減だけではない。『カレワラ』のジュエリーは、フィンランドでは、祖母から母、娘へと引き継がれるブランド。自社の中古品を買取り、メンテナンスして再販する"プレラブド”事業にも力を入れている。同CEOは、「ジュエリーとは、その背後にある意味も一緒に次の世代へ受け継がれる価値があるものだ。タイムレスであるということは、1つのジュエリーを長く使うだけでなく、次の人や世代に引き継いでいくこと。その循環を生み出すのもサステナビリティの一部だ」と話す。自社工場の中には”プレラブド”専用の部屋もあり、修復されたジュエリーはヘルシンキの旗艦店や工場内のショップで販売している。
2ケタ増成長する日本では旗艦店出店も視野に
「カレワラ」は現在、フィンランド中心にヨーロッパで約200店舗に卸販売しているが、ビジネス戦略の中心にあるのは自社ECだ。22年日本に上陸するにあたり、本社で日本人スタッフを採用し投資を続けてきた。その成果もあり、日本はフィンランドに次ぐ市場に成長。日本市場に注力してきた理由についてパーッカリCEOは、「日本人の美的感覚と合理性に親和性を感じたから。シンプルなデザインと質の高いものを好み、クラフツマンシップに対する理解も深い。またEC市場が成熟しているという点が大きい」と言う。上陸以降、年商は毎年2ケタ増と好調で、9月に高輪ゲートウェイ内にコンセプトストアを出店した。「ECとポップアップだけでは十分ではない。実際商品を手にしてもらい、『カレワラ』が大切にしている価値やクラフツマンシップを感じてもらう場所が必要だ」と同CEO。日本でも"プレラブド”の展開を予定しており、ゆくゆくは、旗艦店の出店も視野に入れているという。