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LVMHのライバルも黙っていない
「LVMH一強時代突入!?」「それでいいの?どうなの?」という話を聞く機会が増えていますが、ライバルのケリングやリシュモンも黙ってはいない、ということでしょう。下記2つの取引は、双方にとってなかなか良い“お買い物”のように思えます。まず、洋服に強い思い入れがありそうなケリングにとって、同じくウエアを重んじる「ヴァレンティノ」の株式取得は、アティチュードの共鳴と表明という意味においてなかなかの妙案。一方リシュモンの「ジャンヴィト ロッシ」は、欠けていたシューズカテゴリーの強化はもちろん、「ジャンヴィト ロッシ」にとってもシューズ以外の動向を知り、時代感を高めるため手立てになりそうです。
リシュモンが高級シューズブランド「ジャンヴィト ロッシ」の過半数株式を取得
「カルティエ(CARTIER)」や「ヴァン クリーフ&アーペル(VAN CLEEF & ARPELS)」などを擁するコンパニー フィナンシエール リシュモン(COMPAGNIE FINANCIERE RICHEMONT以下、リシュモン)は、イタリアのラグジュアリーシューズブランド「ジャンヴィト ロッシ(GIANVITO ROSSI)」の過半数株式を取得し支配株主となった。取引額などの契約条件は非公表。創業者であるジャンヴィト・ロッシ(Gianvito Rossi)最高経営責任者(CEO)兼クリエイティブ・ディレクターも、引き続き同ブランドの株式を保有する。
今回の取引は、リシュモンがベルギーのラグジュアリー・レザーグッズブランド「デルヴォー(DELVAUX)」を買収し、ファッションやアクセサリーブランドからなる同社の“その他”の事業分野の強化を図った2年後に行われた。現在、同分野には、「クロエ(CHLOE)」「アライア(ALAIA)」「ダンヒル(DUNHILL)」「AZファクトリー(AZ FACTORY)」「モンブラン(MONTBLANC)」「セラピアン(SERAPIAN)」などが含まれる。フィリップ・フォルトゥナート(Philippe Fortunato)=リシュモン ファッション&アクセサリー メゾンCEOは「何よりもまず、これはパートナーシップだ」とし、ロッシCEO兼クリエイティブ・ディレクターが培ってきたサヴォアフェールや独創性あふれるセンス、スタイル、快適さを称賛。それを現在は娘のソフィアに伝えていることを挙げ、「リシュモンは、ファミリーの発展をとても大切に考えている」と話す。
また同社は、市場を席巻している“クワイエット・ラグジュアリー”の流れと、その中での靴専門ブランドの可能性を信じている。「ハイエンドシューズ市場は、ラグジュアリーの発展において極めて重要なフロンティアになるだろう。私たちは、顧客がより多くの靴を購入しているという根本的な傾向を目の当たりにしている」と、フォルトゥナートCEOは説明。近年、多くのラグジュアリーブランドはスニーカーに重点を置いてきたが、「洗練されたエレガントなシューズが今後、非常に強く加速していくと見ている」と付け加える。
一方、ロッシCEO兼クリエイティブ・ディレクターは「世界中に小売ネットワークを構築し、非常に高いレベルで顧客に素晴らしいサービスを提供できるパートナーを探していた」という。そして、ラグジュアリー市場における競争の激化を挙げ、オブジェとして鑑賞したり手に取ったりするのと同様に履いても“心地良い”ハンドメードシューズのデザインと制作にさらなる力を注ぎたいと明かす。
「ジャンヴィト ロッシ」は、著名シューズデザイナーである父のセルジオ・ロッシ(Sergio Rossi)から靴作りを学んだジャンヴィト・ロッシが2006年にイタリアで設立。08年にミラノに初の路面店を開き、現在はローマ、パリ、ロンドン、ニューヨーク、ロサンゼルス、東京、香港、ソウル、ドバイ、北京など世界に36店舗を構えている。また、セルフリッジ(SELFRIDGES)やバーグドルフ・グッドマン(BERGDORF GOODMAN)といった主要百貨店や「ネッタポルテ(NET-A-PORTER)」などのオンラインショップでも取り扱われている。市場関係者によると、22年の売上高は1億ユーロ(約153億円)弱で、新型コロナウイルスのパンデミック前の水準を上回ったという。また、経営状態は良好であり、利益を上げていると見られる。
フォルトゥナートCEOは、「ジャンヴィト ロッシ」がまだわずかにしか展開できていないアジア市場において、リシュモンが不動産と小売の専門知識を提供し、オムニチャネル戦略の発展をサポートできると言及。ハンドバッグとレザーグッズを当面の優先事項とし、製品ラインアップを拡大することもほのめかした。
「グッチ」の親会社ケリング、「ヴァレンティノ」の株式30%を取得
「グッチ(GUCCI)」「サンローラン(SAINT LAURENT)」「ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)」などを擁するケリング(KERING)は7月27日、ヴァレンティノ(VALENTINO)の株式の30%を、同ブランドを擁するカタールの投資会社メイフーラ・グループ(MAYHOOLA GROUP以下、メイフーラ)から17億ユーロ(約2669億円)で取得したことを発表した。取り引きは2023年末には完了する見込み。なお、これは両社のより幅広い戦略的提携の一環で、契約にはケリングが28年までにヴァレンティノの株式の100%を取得するオプションが含まれているほか、メイフーラはケリングの株主となる可能性があるという。
「ヴァレンティノ」は、1960年にデザイナーのヴァレンティノ・ガラヴァーニ(Valentino Garavani)とビジネスパートナーのジャンカルロ・ジャンメッティ(Giancarlo Giammetti)がローマで創業。2012年に、同ブランドを運営するヴァレンティノ社をメイフーラが8億5800万ドル(約1209億円)で買収した。現在のクリエイティブ・ディレクターであるピエールパオロ・ピッチョーリ(Pierpaolo Piccioli)は16年に、最高経営責任者(CEO)のヤコポ・ヴェントゥリーニ(Jacopo Venturini)は20年に就任。「ヴァレンティノ」は、現時点で世界の25カ国以上で211の直営店を展開しており、22年の売上高は14億ユーロ(約2198億円)だった。なお、18年11月には、ケリングがヴァレンティノの買収を検討しているのではないかとの憶測が広まっていた。
フランソワ・アンリ・ピノー(Francois-Henri Pinault)=ケリング会長兼CEOは、「メイフーラの下での『ヴァレンティノ』の進化に感銘を受けており、同社が今後のパートナーとしてケリングを選んでくれたことをうれしく思う。ヤコポが率いる『ヴァレンティノ』を、メイフーラとの強固な戦略的提携に基づいてさらに成長させることを楽しみにしている」と語った。
ラシード・モハメド・ラシード(Rachid Mohamed Rachid)=メイフーラCEO兼ヴァレンティノ会長は、「『ヴァレンティノ』はイタリアを代表するラグジュアリーブランドの1つであり、その発展のための戦略的パートナーとしてケリングを迎えたことを大変うれしく思う。同社と共に、今後もブランドのさらなる強化のために尽力する」と述べた。
ケリングは、売上高のおよそ半分を主力の「グッチ」に依存しているが、同ブランドは現在、転換期にある。22年11月に退任したアレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)前クリエイティブ・ディレクターの後任として、23年1月28日に「ヴァレンティノ」出身のサバト・デ・サルノ(Sabato De Sarno)を任命。また、ミケーレと二人三脚で「グッチ」を立て直したマルコ・ビッザーリ(Marco Bizzarri)社長兼CEOも、デ・サルノ新クリエイティブ・ディレクターのデビューショーを見届けた後、9月23日付で退任する。ケリングはこれに伴い人事の刷新を行っており、今回の取り引きに続く買収なども視野に入れ、新たな発展を目指すとしている。
「WWDJAPAN」12月22日&29日合併号は、創業90周年を迎えた吉田カバン総力特集です。「ポーター(PORTER)」「ラゲッジレーベル(LUGGAGE LABEL)」「POTR」の3ブランドを擁し、日本を代表するカバンメーカー・吉田のモノ作りに迫ります。日本が誇る伝統技術を持つカバン職人たちと深い関係を築きながら、最先端の技術・素材を使い名だたるデザイナーズブランドとコラボレーションする相反した性質はどんな文脈から生まれているのでしょうか。