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ドーバーストリートマーケットに学ぶコミュニティーの作り方 ランウエイの熱を店頭にまでつなぐには?

ヴァウズのライブ

 「コム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS)」の川久保玲がディレクションするコンセプトストア、ドーバー ストリート マーケット ギンザ(DOVER STREET MARKET GINZA、以下DSMG)は10月19日、2019-20年秋冬の“オープンハウス”を開催しました。“オープンハウス”は19年春夏シーズンにスタートしたイベントで、同店で商品を取り扱うデザイナーや関連するクリエイターが来場し、店頭での接客や限定品の販売などを行うものです。2回目の開催となる今季は前回よりもさらにパワーアップし、40組以上のデザイナーやアーティストが集結。それを目当てに顧客だけでなく新規客も集い、非常に賑やかな1日となりました。

 “オープンハウス”開催の意図を、エイドリアン・ジョフィ(Adrian Joffe)ドーバー ストリート マーケット最高経営責任者(CEO)兼コム デ ギャルソン インターナショナルCEOは、「キーワードはコミュニティー。この場のエネルギーを感じてほしい」と前シーズンに語っています。当日は、同店とは直接関係のない業界関係者も客として多数駆け付けており、店内のそこかしこから「久しぶり!」「元気?」といった挨拶が聞こえてきました。もはや、人に会い過ぎてなかなか前に進めないほどの状態です。こんなたとえ方はDSMGに失礼かもしれませんが、ワイワイした雰囲気は学生時代の文化祭にも通じるものを感じます。

 イベントのハイライトは、米国ロサンゼルスを拠点にするデスポップデュオ、VOWWS(ヴァウズ)のライブ。デスポップって何?という方も多いと思いますが、同デュオは、ゴスなムードを打ち出していた19-20年秋冬の「コム デ ギャルソン・オム プリュス(COMME DES GARCONS HOMME PLUS、以下オム プリュス)」のショーでも音楽を担当し、ライブを披露していました。ライブ会場となったDSMG5階には「オム プリュス」の売り場があり、ライブ直前まで、そこではフィンランド・ヘルシンキ発のファッション&アートマガジン「SSAWマガジン」がサイン会を実施。同誌は今秋冬号で「オム プリュス」を特集しており、サイン会を行っていたのはクリス・ヴィダル・テノマ(Chris Vidal Tenomma)編集長、トーマス・ライトネン(Tuomas Laitinen)ファッションディレクター、そして同特集を撮影し、19-20年秋冬の「オム プリュス」にも影響を与えたというゴススタイルの写真家、ジョーダン・ヘミングウェイ(Jordan Hemingway)さんの3人です。

 その光景を見て感じたのは、ランウエイショーから店頭までがしっかりつながるようにイベントが設計されているということ。「オム プリュス」のファンなら(いや、ファンならずとも)、シーズンのクリエイションの背景に一体どんなストーリーがあるのかを知りたいですよね。それが叶うのがまさにこの場というわけです。ファンはブランドのインスピレーション源であるヘミングウェイさんから直接話を聞き、耳と目でライブを楽しみ、ブランドが今何を面白いと思っていて、どうしてこういった商品を作っているのかを知ることができます。それにより、これまで以上にブランドに興味が沸くという仕掛けです。私も「この特集ではプロのモデルだけでなく、本物のゴスも起用しているんだ」などといった彼らの真摯な話しぶりや、ヘミングウェイさんの独特の色気にすっかり引き込まれてしまいました。

 SNSが発達し、いつでもどこでも写真が見られるようになったことで、昔に比べてランウエイショーそのものに興味を抱く人は減っています。ショーの写真をパーッと見る人の数は増えているのかもしれませんが、「どんなショーだったかを知りたい」と強く思っている人は確実に減っている。自身の媒体の読者動向からもそんな風に感じています。「オム プリュス」は熱狂的なファンがいるブランドなのでそれは当てはまらないのかもしれませんが、ランウエイへの興味が薄まっている今のような時代には、こうやってショーの熱を店頭にまでつなげて、消費者の興味を湧き立たせていくことが非常に重要だなと改めて感じました。「オム プリュス」に限らず、“オープンハウス”の取り組み全体がまさにそれを意図したものですよね。

 とは言え、同様のことを他の百貨店やセレクトショップがやろうとしても、それは難しいと思います。川久保玲がディレクションするDSMGだからこそ世界中から有力なデザイナーやアーティストが集まるし、ジョフィCEOが持つ国際的なネットワークによってこそ、これだけ面白いメンバーをブッキングできる。ですから、そっくりそのままは参考にできないにしても、コミュニティーの作り方という点で他社にとっても参考になる事例にあふれているなと感じたDSMGの“オープンハウス”でした。来シーズンはどんな風にパワーアップするんだろうかと、今から既に楽しみです。

【“オープンハウス”に参加していた主なデザイナーやアーティスト、ブランドはこちら】

シハラ

 取材班がまず出会ったのが、1階で扱う日本発のジュエリーブランド「シハラ(SHIHARA)」の石原勇太。販売していた数字の“7”をかたどったピアスなどの説明をしてくれましたが、人の良さから担当者不在だった同フロアの別ブランドの商品概要まで教えてくれました。相変わらずイイ感じに脱力感があってすてきな人です。本人は顔出しNGのため、着用していたジュエリーを撮影

クボラム&インナーラム

 「今DSMGで最も売れているブランドの1つ」と同店PRに紹介された「クボラム(KUBORAUM)」は、ベルリン発のサングラスブランド。スタッズなどを埋め込んだスペシャルなサングラスは、まるでアイウエアのオートクチュール!「“ジャングル”っていう、1990年代にロンドンで流行っていたアフリカンとエレクトロの融合みたいな音楽からイメージしたカプセルコレクションだよ」とデザイナーの2人は教えてくれました。売り場向いには2人が手掛けるバッグブランド「インナーラム(INNERRAUM)」も

ダブレット

 DSMGを後にしようとしていた「ダブレット(DOUBLET)」井野将之デザイナーを強引にキャッチ。同ブランドのDSMGの売り場といえば、今季はB級ホラー映画風なゲームセンターの演出でおなじみ。設置してあるUFOキャッチャーのゲーム機の中には、血しぶきを浴びた白熊と食いちぎられた(?)生首や腕(注:マネキン)が……!なんでも、“オープンハウス”の目玉商品である白熊風モコモコアウターとかけたスペシャルVMDだったそうですが、残念ながら取材時には既にアウターは完売!さすがです

エヴァン キノリ

 「シーズンのテーマは特に決めていなくて、プロダクトを作るように服を作っているんだ。イタリアで、1つ1つの工程を別の職人がそれぞれの家で作っているんだよ」と教えてくれたのは、高感度メンズに人気のブランド「エヴァン キノリ(EVAN KINORI)」のデザイナー。シャイな感じが非常にチャーミングな人で、ところどころ差しはさむ日本語も味があってすてき。「もともと自分が着る服を作るためにパターンを少しずつ学びだして、数年経った頃に『それがほしい』と言われて服を売り始めたんだ」とのこと

Y/プロジェクト

 「Y/プロジェクト(Y/PROJECT)」の売り場は、当日の朝3時までデザイナーのグレン・マーティンス(Glenn Martens)が作り込んでいたという力作!「ちょっとホテルで休んできたからもう大丈夫!」と午後の取材では元気いっぱいでした。売り場のメインは映像だったのですが、この映像、マネキンたちがあんなコトやこんなコトをしているというなかなかに刺激的な内容。「センシュアルな感じと機械仕掛けの無機質な感じ」のミックスが独特で、折衷主義や脱構築を標榜するブランドらしさ全開。

デラックス×ペンドルトン

 日本のメンズブランド「デラックス(DELUXE)」と「ペンドルトン(PENDLETON)」のコラボでは、キャンペーン写真を撮影したマイケル・アヴェドン(Michael Avedon)に遭遇。言わずと知れた伝説のフォトグラファー、リチャード・アヴェドン(Richard Avedon)のお孫さんです。「意識したのは『ペンドルトン』の伝統を革新すること。撮影対象を決める時に重要なのはエモーションを喚起されるかどうかだね」とアヴェドンさん。「ペンドルトン」はアメリカ西部開拓時代のいわば白人文化にルーツがあるブランドですが、「デラックス」とのコラボでは黒人カルチャーとの融合で多様性を意識したと、「デラックス」のHUEデザイナーは語っていました。

オールブルース

 スウェーデン発のジュエリーブランド「オールブルース(ALL BLUES)」は、その場で3Dスキャンしてペンダントヘッドや文鎮を作ってくれるというサービスを実施。「これは僕の友人を象ったペンダントトップで、こっちは僕のおじいちゃんとおばあちゃんをスキャンして作った文鎮だよ」とチャーミングに紹介してくれたのはファウンダーのヤコブ・スクラゲ(Jacob Skragge)。取材班もスキャンしていただきました!6週間後以降に商品は届くそう

ランドロード

 DSMGにチーマー(死語)がいる……!と思ったら、「楽天 ファッション ウィーク東京」にも参加していた「ランドロード(LANDLORD)」の川西遼平デザイナーでした!“オープンハウス”に合わせ、ブランドデビュー時からのアーカイブを1990年代の東京のイメージで再編集して売り場で表現。「僕は地元の鳥取にいたから当時の東京のことは知らないけど、あの頃、東京にこういうイメージを抱いていたんだよね。僕の服に赤いペイントが飛んでいるのは、商品ラックに飾ってるクマと戦って返り血を浴びたっていう設定だから」とのこと。チーマーファッションも90年代ゆえ……!?

アルテック

 フィンランドの家具ブランド「アルテック(ARTEK)」では、アーティストデュオのアワレガシー(OUR LEGACY)と組み、その場でイスに絵を描いてくれるというサービスを実施。ちょうど飼い犬の絵を描いてもらっていた男性客がいたので話を聞くと「最近フィンランドと仕事をすることが多くて、『アルテック』がこんなイベントをしているとSNSで知って見に来たんだよね。買うつもりはなかったんだけど、イラスト込みでも3万円台と買いやすいし、思わず買っちゃった!」とのこと

バイボレー

 「バイボレー(BYBORRE)」はオランダのニッティングラボによるニットウエアブランド。編み方を独自にプログラミングし、編み機に読み込ませることで、刺し子のようなタッチなどを編み立てで表現。生地名も“8ビット”“3D”などテクノロジーを感じさせて楽しい。CEOが“オープンハウス”特別商品のマフラーを巻いて写真撮影に応じてくれました

平野啓一郎

 著書「マチネの終わりに」が福山雅治主演で映画化もされ、ヒット中の小説家、平野啓一郎さんにも館内で遭遇。当日は菅付雅信さん率いる出版社United Vagabondsが実施した7階ローズベーカリー&ブックスペース“BIBLIOTHECA”でのトークイベントに登壇されていました。DSMGは「ラフ・シモンズ(Raf Simmons)が手掛けていた時の『カルバン・クライン(CALVIN KLEIN)』が好きでよく見に来ていましたね」とのこと

オフ‐ホワイト c/o ヴァージル アブロー

 「オフ-ホワイト c/o ヴァージル アブロー(OFF-WHITE c/o VIRGIL ABLOH)」の売り場では残念ながら誰にも会えませんでしたが、今夏~秋にシカゴ美術館で開催されたヴァージルの個展オフィシャルカタログのスペシャル版を展示・予約受付をしていました