パリで発表した2015-16年秋冬コレクションのフィナーレに登場した阿部千登勢デザイナー
WWDジャパン6月29日号では「サカイ(SACAI)」を6年ぶりに特集した。2009年8月24日号で特集した当時は、ブランド設立11年目で、阿部千登勢が「モンクレール エス(MONCLER S)」のデザイナーに抜擢された頃だった。09年当時(5月決算)の小売価格換算での売り上げは国内が6億円、海外が7億円の計13億円。旗艦店を持たず、ファッションショーも行っていない、他とは違う「デザイナーズ・ビジネスのニュースタンダードを模索する」注目ブランドとして紹介した。
あれから6年。「サカイ」を取り巻く環境は大きく変わった。11年3月、パリコレで初めてランウエイショーを行い、同年9月には青山に旗艦店をオープンした。昨年、ロンドンのセルフリッジやパリのボン・マルシェにコーナーを構え、ソウルの新世界百貨店にショップ・イン・ショップをオープンするなど、海外進出を一気に本格化した。今年に入って、香港と北京に路面店を開いたのに続き、ニューヨークのバーグドルフ・グッドマンのコーナー展開やソウルに路面店のオープンも控えている。3月に発売されたナイキラボとのコラボ「ナイキラボ×サカイ」は大きな話題を呼び、4月には、ブランド初の書籍を米リッツォーリ社から出版、ホワイトハウスの公式晩さん会に招待された。
17年間、ビジネスは伸び続け、現在34ヵ国に160アカウント、250店舗以上の卸先を持つ。特に海外での売上高は、この数シーズン続けて前季比120〜130%の成長を達成した。14年5月期決算では、ついに小売り価格での売上高は100億円を超えた。5年間で売り上げは実に8倍になったことになる。一口に100億円ブランドというが、これは今人気絶調の「セリーヌ(CELINE)」の日本での年商(小売り価格・弊社推定)に匹敵するものだし、日本を代表するデザイナーズ企業の年商が100億円から200億円とみられることを考えると、快挙と言っていいだろう。
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次ページ:「サカイ」成長の陰にはチーム力 ▶
「誰もが知っているスタンダードなものを他にはないものにデザインする」という「サカイ」のクリエイションは、レースやチュール、フリルといった素材・ディテールを用いながらも、決してガーリーに転ばず、新しいフェミニニティーを提案している。それは、セクシーささえもはらんだ鮮度の高いモードであり、スペシャルな日常着でもある。
阿部はかつて海外に出たときに「折衷する術に長けている日本人の強みを再認識した。『サカイ』に“折衷のエレガンス”を感じてもらえている」と話していた。その独自のミックス感覚に加え、知的でありセクシーであることも海外でウケた要因だろう。セクシーなスタイルは、多くの日本ブランドの足りない部分でもある。また、1着でも「サカイ」とわかる“服力”のある面構えのコレクションは、海外に出て“ハイブリッド”というキーワードを手に入れた。素材やディテールを巧みに切り替えて対比で見せるミックス感を指すが、これは新しいデザインの手法になり、現在ではさまざまなブランドが取り入れるようになっている。
「サカイ」2015-16年秋冬パリ・コレクションから
デザインのオリジナリティーもさることながら、「サカイ」がここまで成長したのは、外部スタッフの力によるところが大きい。特に阿部のブレーンとして「サカイ」を支えるのが、05年からグローバル・セールス・ディレクターに就任し「サカイ」の国内外のディストリビューションを手掛ける島田昌彦イーストランド社長と、07年からクリエイティブ・アドバイザーに就任した源馬大輔だ。島田が入ったタイミングで海外ビジネスを本格始動し、今では海外の売り上げが約7割を占める。一方、源馬が入ってまず着手したのがルックブックの制作だ。結果“、単品の積み重ね”から“スタイル提案のクリエイション”に変わった。12年3月(12-13年秋冬)からは、カール・テンプラーがチームの一員となり、ショーのスタイリングを手掛けるようになった。テンプラーが入ることで、サウンド・イラストレーターのミシェル・ゴベールやフレデリック・サンチェス、ヘア・アーティストのグイド・パラウ、メイクアップ・アーティストのダイアン・ケンダル、キャスティングを手掛けるミシェル・リーら一流のクリエイターがショースタッフとして参加し、トップモデルが「サカイ」のランウエイを歩き出した。その結果、海外の有力モード誌の編集長がフロントローに座るようになった。13年2月には、グローバル・ブランド・ディレクターとしてアニータ・ボジシュコスカが参画し、さらなるグローバル化へとかじを切った。
大成したデザイナーには必ず有能なビジネスパートナーがいる。イヴ・サンローランにピエール・ベルジェ、カルバン・クラインにバリー・シュワルツ、ジョルジオ・アルマーニにセルジオ・ガレオッティ、マーク・ジェイコブスにロバート・ダフィーがいたように。天才デザイナーと呼ばれた彼らには強力なビジネスパートナーがいた。「サカイ」のユニークな点は、ビジネス、クリエイション、ブランドマーケティングにおいて、一流のメンバーを集め強固なチームを編成したことだろう。今回、阿部千登勢デザイナーに初めてロングインタビューを行い、彼女には圧倒的な伝える力と、相手を共感させる考え方、そして相手の求めることを読み取る力があると感じた。チャーミングな笑顔で語る一方で、慎重に選ぶ言葉の一言一言に凄みがある。彼女の人をひきつける人間力こそが「サカイ」が成功した大きな要因と言えるだろう。
※文中の肩書き・事実関係・為替レートなどは2015年6月29日時点のものです
記者 廣田悠子