デザイン誌「AXIS」は、空間設計を手掛ける船場にフォーカスした増刊号「SEMBA NEW STATEMENT 空間の解放」を10月5日に発売した。同社が次世代の空間づくりとして掲げるテーマ“空間の解放”を軸に、気鋭の写真家6人による撮り下ろし企画を展開。商業施設や生産拠点など、特定の目的や機能を持って設計された空間を写真家それぞれの視点で切り取り、当初の役割から解き放って捉え直す意欲的な試みだ。
今回の企画に参画したのは、安藤瑠美、金本凜太朗、草野庸子、小林健太、小見山峻、濵本奏の6人。「ウルフギャング・ステーキハウス 高輪店」をはじめ、「サントリー天然水 北アルプス信濃の森工場」、原宿の「KAWAII MONSTER LAND」などを舞台に、それぞれの作家性をぶつけた。
刊行を記念し、10月2〜4日には東京・表参道のスパイラルで写真展「空間の解放展」を開催。前日の1日に行われた発刊記念レセプションでは、船場の小田切潤社長が登壇し、内装業界の歩みと自社の展望を語った。「戦後から始まったこの業界において、第1世代は良い内装を作る時代、現在は体験価値や感動を生み出す第2世代にある」としたうえで、デジタルやAIが浸透する次なる“第3世代”への変革に言及。「本当の空間の価値とは何なのかを徹底的に考え、体現していく。“原点”に立ち返ることが、結果的に次世代への道筋になるのではないか」。今回の写真展も、空間のあり方を根本から見直す取り組みの一つに位置付ける。
イベント内では、写真家の小見山峻と小林健太、「AXIS」編集部で本誌を担当した平木輝正氏、船場の丸山朋子ブランド戦略部部長の4人によるトークセッションも行われ、「視点の違いが生み出す価値」をテーマに語り合った。
竣工写真の枠を超えた“再解釈”
企画を立案した平木氏は、「船場が手掛けてきた空間は、時代や施主の意図によって役割や機能が定められたもの。従来の竣工写真は、そうした意図をいかに美しく正しく伝えるかが目的だった。しかし、これから空間の解放へ向かうのであれば、その定義を一度解きほぐす必要があると考えた」と振り返る。そこから生まれたキーワードが「再解釈」だ。「独自のスタイルやカラーを確立している写真家こそが、この趣旨にふさわしい」として6人に白羽の矢を立てたという。
“光の当たらない角度”から照らし出す
小見山が撮影したのは、高輪ゲートウェイシティの「ウルフギャング・ステーキハウス 高輪店」。象徴的なシャンデリアや重厚な円形テーブルをフィルムカメラで捉えた。シャンデリアそのものではなく落ちる影を写し取り、フィルムの黒い縁をあえて残した構図も用いている。「エントランスから特別な空気が漂い、まるで食事の時間を彩る“舞台”のようだった」と振り返る小見山。空間を演出する要素に自ら照明を足して撮影したカットもあり、「光の当て方によってドラマチックな見せ方ができないかと考えた。普段はファッションやポートレートの撮影が中心だからこそ、絶対に光が当たらない角度からライティングしてみたら面白いのではないかと思い描いていた」と明かす。
色とテクスチャーで紡ぐ、空間の体験と物語
小林は、原宿の「KAWAII MONSTER LAND」を撮影した。ユニコーンや扉などを捉えた3枚の組写真で空間のストーリーを表現し、撮影後にデジタルエフェクトを加えて仕上げた。写真の色情報をデジタル処理し、ストローク(線)として重ねる手法を持ち味とする小林にとって、色彩やテクスチャー、照明まで念入りに作り込まれた空間は「非常に撮りがいがあった」という。自身の技法と空間本来のアイデンティティーが衝突しないよう配慮しつつ、「猛暑日の撮影だったが、一歩足を踏み入れると涼しく薄暗く、一瞬で空間が切り替わる感覚が印象的だった。その空間が宿すストーリー性や空気感を大切に表現したかった」と語る。
条件に縛られても、写真家は写真家であり続ける
「再解釈」という主題の下での作品制作は、写真家たちにとっても新しい発見をもたらした。小林は「空間をきれいに見せること以上に、その空間の中で自分自身の体験がどう立ち現れたかを表現した」と述懐。他の作家の作品と並んだ展示を見て「条件に縛られていても、写真家は写真家であり続けられる」と改めて実感したという。
小見山は、写真には「記録」と「再解釈」の二つの軸があるとし、「極端な話、消しゴム1個を渡されて『あなたならどう撮るか』と問われる。街でも、空間でも、人物でも、服でも同じだ。『自分ならば、どう捉えるか』という問いをひたすら繰り返すことこそが、写真を撮るという行為そのものだと考えてきた。今回の空間撮影も、普段の制作とすんなりフィットした」と語った。
平木氏は「“空間の解放”は、船場がこれからの未来に向かう姿勢を象徴する言葉。写真家に自由に撮ってもらうことこそが肝だった。それを船場側が理解して受け入れてくれたからこそ、作家たちが表現を振り切ることができ、いい企画になったのだと思う」と総括した。
「AXIS」2026年11月号増刊「SEMBA NEW STATEMENT 空間の解放」
発売日:10月5日
価格:1300円
仕様:104ページ、A4変型、日本語・英語併記
発行:アクシス