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マッシモの正直な言葉に共感

「“クワイエット・ラグジュアリー”は正直あんまり好きじゃない」「(サステナビリティの追求は)難しさを感じるのが正直なところ。それでもブランドとしてもっと挑戦していきたいし、可能性を探りたい」――。かなり率直な言葉が出ていると感じる、「MSGM」のデザイナー、マッシモ・ジョルジェッティのインタビューです。

こんなふうに迷いも悩みもさらけ出して、共感するファンとコミュニティーを築いていくデザイナー像は、非常に今の時代っぽいですね。ファンだけでなく、同じようにモノ作りに携わっている業界人にとっても、共感できる部分は多そう。ぜひお読みください。

「WWDJAPAN」編集委員
五十君 花実
NEWS 01

ロゴのない「MSGM」、デザイナーがブランドの変化を語る

「MSGM」が変化している。2024年春夏コレクションには、以前のように大きなブランドロゴはなく、抽象的な花柄やさまざまなチェック柄が主役だ。イエローやライラックなど、カラフルな色使いは変わらないが落ち着いた色調で洗練度を増した。ロゴブームが終焉し、“クワイエット・ラグジュアリー”のトレンドが盛り上がるなか、「MSGM」はどう生き残るのか。このほど来日したマッシモ・ジョルジェッティ(Massimo Giorgetti)デザイナーは楽観的だ。むしろ、削ぎ落とされたクリエーションのなかで見えてきた強いブランドアイデンティティーについて語ってくれた。

WWD:2024年春夏コレクションは、抽象的で大人っぽくなった印象だった。

マッシモ・ジョルジェッティ(以下、ジョルジェッティ):「MSGM」は今進化する時期だと思う。モノトーンの色調や抽象的なプリントを多用したアプローチは、6月のメンズコレクションから続けている。以前のようなアシッドカラーと大きなロゴは控えめで、フェミニンかつクールな印象だったと思う。ブランドを始めた時は30代前半だったが、今は46歳。チームのみんなも大人になっているのだから自然な変化だと思う。東京の店舗では、カシミアのメランジェニットやロゴを小さく配したスエット、カーゴパンツが売れ筋だという。顧客の求めるものも変化している。もちろん、今回のコレクションもとても気に入っている。ただ、直前にショー会場を悪天候で変更せざるを得なかったのがとても残念だった。当初はミラノ工科大学近くの屋外の素晴らしいロケーションで計画していたんだ。9月は屋外を選ばないことは今回学んだ教訓の1つだね(笑)

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「MSGM」2024年春夏コレクション

カルチャー全体を体現するブランド

WWD:変化の最中、あらためてブランドのアイデンティティーを何と定義する?

ジョルジェッティ:若さ、フレッシュさ、常識にとらわれない若さゆえの勢い、大胆さ、そして音楽と深いつながりを持ち、カルチャー全体を体現するブランドであることは変わらない。たとえば今回ショーで選んだ音楽は、ベルリン発のエレクトログループ、チックス・オン・スピード(Chicks on Speed)。僕が1990年代から夢中になっているバンドだ。以前は、「イタリア発のストリートウエアブランド」と呼ばれることが多かったけど、それは僕の認識とは違う。確かに若さというマインドは共通しているけど、「MSGM」は最初からメードインイタリーにこだわるテーラリングを核に持つブランドだ。それが支持されているからイタリアでも日本でも50〜60代の女性も着てくれているのだと思う。「シュプリーム(SUPREME)」や「パレス スケートボード(PALACE SKATEBOARDS)」「ナイキ(NIKE)」「アディダス(ADIDAS)」といった本物のストリートウエアブランドは今も大好きだしこの先も生き続けるだろうけど、ファッションブランド生まれのストリートウエアのブームは終わったと思う。

「今のカルチャーはスクリーンショットで消費される時代」

WWD:市場で盛り上がる“クワイエット・ラグジュアリー”の流れはどう見ている?

ジョルジェッティ:正直あんまり好きじゃない。僕にとって、“クワイエット”と“ラグジュアリー”は相反するものなんだ。“ラグジュアリー”とは、ジャクリーン・ケネディ(Jacqueline Kennedy)やジャンニ・アニェッリ(Giovanni Agnelli、※イタリアの実業家)のような昔の本当にリッチな人々が過ごしたライフスタイルのことで、そういう華やかさが好きなんだ。前回のショーの後には、「クワイエットでないショーがやっと見れたよ」と言われたよ。色使いは落ち着いても、「MSGM」らしいフレッシュな部分は失っていないから。コロナの直後はみんなで再びパーティーしようという華やかなムードが高まったけど、今はみんなグレーやキャメルばかり着ている。パーティーは終わってしまったね。ミラノの人々もブルージーンズにTシャツに、テーラリングジャケットといったすごくコンサバティブなファッションになった。今はライフスタイル全般のクオリティーに投資する時期なのだと思う。

WWD:私たちが直面している気候危機も過度な消費を避ける消費者のマインド変化に影響していると思う。この課題に対して思うことは?

ジョルジェッティ:オーガニックコットンやリサイクル認証素材を使ったカプセルコレクションにトライした。パッケージやハンガーなどの資材もプラスチックフリーに変えた。だけど難しさを感じるのが正直なところだ。それでもブランドとしてもっと挑戦していきたいし、可能性を探りたい。「プラダ(PRADA)」はブランドとして尊敬しているだけでなく、この課題に対して力強くアクションしていてすごくインスピレーションを受けている。

WWD:カルチャーを体現するブランドとして、今のカルチャーシーンをどう見ている?

ジョルジェッティ:全てが一瞬で消費されるスクリーンショットの時代だ。音楽で言えば、昔はアルバムで聴くことが多かったけど、今はSpotifyで1つの曲だけ聞くことができる。1曲、1作品、1エピソード。ファッションも同じように、何か強い1つの商品やコンテンツが求められる。「MSGM」はそうした流れの中でも、ハッピーなモーメントを共有するブランドでありたい。

WWD:具体的にどうブランドコミュニティーを広げる?

ジョルジェッティ:「MSGM」は“服”というよりも、“人”のブランドでありたい。今はみんなKOLに夢中だけど、僕は2秒後には違うブランドの服を着ている人よりも、たとえフォロワーが少なくても「MSGM」を本当に愛してくれるリアルなファンとコミュニティーを築きたい。新しい才能を発掘することにも注力したい。若きアーティストや建築家、シンガー、俳優、いろんなジャンルから真につながれる人たちと一緒にブランドを成長させていくのが僕の目標だ。

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NEWS 02

MIMOCAキュレーターに聞く「現代アート×テキスタイルの可能性」【NUNO須藤玲子の見果てぬ布の旅vol.2】

香川県丸亀市、JR丸亀駅の目の前にある美術館「丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(以下、MIMOCA)」。ゲートプラザと呼ばれる大空間から自然とエントランスへと引き込まれる。丸亀市にゆかりの深かった画家・猪熊弦一郎(1902〜1993)の全面的な協力によって生まれたこの美術館で、須藤の個展「須藤玲子:NUNOの布づくり」展が開かれている(12月10日まで。その後、水戸芸術館2024年2月17日—5月6日に巡回)。こちらは2019年に香港のミュージアム「CHAT(Centre for Heritage, Arts and Textile)」で開催された後に欧州を巡回したものに新作が加わっている。今回は本展の担当キュレーターであるMIMOCAの古野華奈子氏に、本展の見どころと現代美術館でテキスタイルを展示する意義について聞いた。

現代アートの美術館でテキスタイルを展示する意義

MIMOCAが開館したのは1991年。当時は猪熊も健在で、構想の段階から密に関わった。丸亀市は当初、猪熊の記念館を開設することをプランしていたが、本人の強い意向で美術館、それも現代美術館に変更となった。「記念館は一度訪れたらそれきりになってしまう。街に開かれた、欧州の人にとっての教会のように身近な場所を、猪熊は望みました。来たらリフレッシュできて、元気に日常に戻れる場所。そして当時としては珍しい、現代美術を紹介する場所を望んだのです。同時代のひとが先を見越してつくるものからは、多くのものが得られると説いたそうです」(括弧内古野氏、以下同)。

また、アートと生活は不可分だと考えた猪熊は、生活に関わるようなデザイン、ファッション、建築といった分野もテーマに取り上げてほしいとも希望した。猪熊自身が画家であると同時に、三越の包装紙やパブリックアートを手がけるなど、『生活』をとても大切にした人だった。このような経緯から、MIMOCAではこれまでにも、通常考える美術の範疇におさまらないジャンルの展覧会を開催してきたが、テキスタイルは初めてである。「須藤さんのテキスタイルの展覧会を開くことになり、猪熊が生きていたら喜んだに違いありません」。

とは言え、須藤がこれまでに開催した展覧会の図録などからそのテキスタイルの完成度は強く感じたものの、「テキスタイル=素材」であり、素材を作品と捉えることが最初はイメージしにくかったと古野氏は言う。「ですが今回の展覧会をキュレーションしたCHATの高橋瑞木さんから、『素材自体が作品』と言われて、腑に落ちました」。

制作過程をそのままインスタレーションに

展示内容も独特だ。テキスタイルの展覧会というと、完成品を見せるのが通常だが、本展はテキスタイルができあがるまでの制作過程を見せている。糸を撚ったり、独自に編み出した手法でプリーツ加工を施したり、布と和紙を貼り合わせたり。須藤、職人、産地、研究者が一丸となって一枚の布をつくり出す工程が、来場者の心をつかむ。制作過程がインスタレーションとして成立しているのだ。「素材そのものに魅力があることに加えて、制作過程自体がデザインと言えます。ものづくりの裏側とも言える部分を見られる機会はめったになく、テキスタイルを学んでいる学生のみなさんにも好評です」。

古野氏の印象に強く残っているのが、須藤はじめ本展関係者が、見てもらう順序を熟考したこと。これまでに須藤が手がけたテキスタイルのなかから300近くをパッチワークした幕に続いて、直に触れるサンプルや、須藤がインスピレーションを受けた裂地のハギレ。続いて、7種のテキスタイルの制作過程をダイナミックに見せて、来場者の好奇心をよりかき立てる。興奮しながら次の部屋に向かうと、パノラマティクスが手がけた、実際にテキスタイルがつくられている現場の映像が流れていて、リアリティが持つ力が迫ってくる。さらには「マンダリンオリエンタル東京」をはじめ代表的なプロジェクトの紹介がある。展覧会のタイトルである「布づくり」を体感する動線だ。「この流れで見ることで、須藤さんのテキスタイルの魅力がしっかり伝わる。印象が強いのはインスタレーションですが、映像によって、美しく独創的なテキスタイルが、日本で、人の手で、量産されていることを知ります。展示の肝となるパートと言えます。また、ミュージアムショップでNUNOのアイテムが購入でき、展示作品を日常に持って帰れるというのも今回の展覧会の大きなポイントです」。

MIMOCAの空間にあわせて制作した作品も

MIMOCAを設計したのは、谷口吉生だ。ニューヨークのMoMAをはじめ数多くの美術館設計で知られる谷口の空間のなかで、MIMOCAはそのおおらかさに特筆すべきものがある。「美しい空間をつくってほしいと、猪熊が直接指名したのが谷口さんです。広々とした大空間で、居心地よく、何度でも訪れたくなるこの場所をつくるために、ふたりは対話を重ねました」。

空間のポテンシャルを感じ取り、呼応した須藤が新たに制作したのが、ファサードにたなびく「ビッグパステルドローイング」と、エントランスに掲げた、猪熊の原作を刺繍で再現した「顔80」。その日の天候で表情をコロコロと変える「ビッグパステルドローイング」は実におおらかで、空間になじんでいる。「そう、なじんでいるのです。NUNOの作品だと思わずに見ている方も多い。それはほかの美術作品と異なる点であり、デザイナーの須藤さんだからこそできたアプローチなのではと思います。その点でも、『生活に美しいものを届ける』『この時代から新しいものが生まれる面白さ』に着眼した猪熊と通じるものがあります。MIMOCAにぴったりの展覧会で、私たちとしても猪熊からの宿題をひとつ仕上げたようにも感じています」。

次回は、須藤の「布づくり」の土台を支える職人と日本各地の産地について、展覧会で紹介されたテキスタイルを中心に紹介していく。

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最新号の読みどころ

「クワイエット・ラグジュアリー」の静寂を破り、2026年春夏のウィメンズ市場に“カワイイ”が帰ってきました。しかし、大人がいま手に取るべきは、かつての「甘さ」をそのまま繰り返すことではありません。求めているのは、甘さに知性と物語を宿した、進化した“カワイイ”です。「WWDJAPAN」12月15日号は、「“カワイイ”エボリューション!」と題し、来る2026年春夏シーズンのウィメンズリアルトレンドを徹底特集します。