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連載 進化する幸せ産業

我慢を重ねるトレーニングから、時代は心身を整えるエクササイズへ【ウィズコロナで進化する幸せ産業】

2023年のフィットネストレンドは
心も体も整う総合的なボディーメイク

 毎年、新年を迎えると今年こそ体を引き締めるぞ、と決意する。目的は美容から健康維持に変わってきているが、しなやかで機能的な体のほうが人生楽しいに決まっている。「もうこんな自分とはおさらばしたい!」と意気込みつつも、腰は重いまま。そのためには過酷な試練が続くと想像できるからだ。

 ところが、“トレーニング=きつい、苦しい、我慢の連続”というイメージが変わりつつある。モデルやタレントのボディーメイクを指導し、自らもハードなトレーニングで彫刻のようなボディーをキープするAYAさんがプロデュースする「フィーリングッド(FeelinʼGood)」がその象徴だ。2022年12月にオープンしたばかりのこのスタジオでは体だけでなく精神も整えることを目的とし、マインドフルネスの理論や瞑想を取り入れている。一過性のダイエットやボディーメイクにとどまらず、トレーニングや食事、睡眠、瞑想など多角的なアプローチで“フィットライフ=自分にフィットしたライフスタイル”を構築する。

 「コロナ禍で体型の変化だけでなく、日常生活のさまざまな変化の影響により、知らず知らずのうちにストレスを受けています。『フィーリングッド』ではボディーだけでなく、メンタルケアも意識し、それぞれの目的や状況に合わせたセミプライベートなプログラムを提供します」とAYAさん。フィットネスモデルのAYAさんをはじめとするトレーナー陣も個性豊か。元プロレスラーやボディーコンテストの世界大会で優勝経験がある競技志向の高いトレーナー、第二子出産後のダイエットを機にフィットネスに目覚めたというウオーキング講師など、背景はそれぞれ。自らもLGBTQのトランスジェンダーであり、さまざまな立場の人が掲げる理想に導くトレーナーなど、得意分野を生かして、個々が目指すボディーメイクをサポートする。

それぞれのレベル、状況に寄り添う
セミプライベートのメリット

 では一人一人のレベルや目的に合わせたエクササイズとはいったいどんな内容だろう。4つのプログラムのうち、まったくのトレーニング初心者でも参加できる「フィーリングッドボディプログラム」を体験してみた。

 どのクラスも体を動かすフィットネスが約45分、メディテーションなど心身ともにクールダウンする時間が約15分という構成だ。まずは目を閉じ、全身を緩めてリラックス。ゆったりと全身を伸ばすストレッチが心地いい。機能的な体を目指すファンクショントレーニングでは、腹筋・スクワット・腕立て伏せを3本柱に、バイクやボートを漕ぐようなローイングなどマシンを使った有酸素運動などのメニューを交互こなす。例えば200m漕ぐ、45秒の縄跳び、12回ずつのスクワットなどのエクササイズを7分間できる限りの強度で繰り返す、という具合だ。一人一人の負荷は調整されるので、レベルや目的が違っても、同じスタジオ内でともに追い込める。1セット終了したらリラックスして、次のメニューへ。

 参加者はスタジオ内のディスプレーと連動した心拍モニターをつけ、心拍数などが表示される。それが個々に合わせたセミプライベートレッスンを可能にする。息が上がって心拍数が100%に近くなったら少し緩めるように、逆にまだ余裕がある場合は200mを250mに、など負荷を上げるよう指示される。この、サボったらバレる状況にはかなりの緊張感が。フィットネス後も運動時間などが記録され、仲間にシェアできるなど、モチベーション維持にも役立っている。

 汗だくになった後は心を整える時間。楽な姿勢になり、メディテーションを行う。7時から開始する早朝クラスもあり、整ってから出社する会員も多いのだとか。虎ノ門というオフィス街の中心にあるスタジオだが、リモートワークの増加を見据えて、自宅でのオンライン会員も受け入れている。通常のスタジオ会員も、オンラインクラスを受講できる。今後、自宅でのエクササイズでも心拍モニターを活用することで、遠隔でも的確な指示を受けることができるようになり、臨場感のあるトレーニングが可能に。スタジオでのセッションと自宅でのオンラインを自由に選べることで、より継続しやすくなる。心地よさやリラックスを追求するだけよりも、1コマの中に緩急があることで、達成感も緩める心地よさも得られることが、私にはフィットした。

自らの体験をもとに
不調ケアにシフトしたスタジオも

 またコロナ禍をきっかけに、不調を整えるケアを目的としたプログラムにシフトしたヨガスタジオもある。世田谷区の「スタジオ ザ ビーツ(studio the BEETS)」主宰の山本華子さんは感染後に、胸痛や息苦しさ、気管支の違和感に苦しんだという。そこでその経験を生かし、肺の経絡やツボにフォーカスしたコロナ不調ケアのセッションを2022年春からスタートした。コロナ不調症ケアのストレッチはタイ式マッサージのようにダイナミックなものではなく、座位や寝転がってできる緩やかなストレッチがメイン。手技によるもみほぐしや、背部のオイルマッサージなどで整えていく。肺に関連する腕もほぐす。体力に応じて積極的に動くエクササイズを取り入れることもあるが、基本は受け身だ。自律神経に働きかけるため、体のあらゆる不調を和らげることにも気付いたという。

 「スタジオ ザ ビーツ」ではコロナ後遺症に悩む人だけでなく、病後のケア、ストレスによる不調、高齢者などを対象にしたパーソナルプログラムもあり、また夫婦で取り組む健康維持のためのヨガストレッチといった需要も。産前産後、英語でのレッスン、臨床心理士の資格を有するなど、さまざまな得意分野を持つヨガインストラクターと提携している。それぞれの要望に応えるセミプライベートレッスンは、今後さらに増えるだろう。

 これまではフィットネスはある程度動ける元気な人のためもので、ダイエットや美容目的がほとんどだった。しかし今は不調を和らげたい、メンタルケアも必要という声が増えてきた。

 コロナ禍前は「激しく動くパワフルなレッスンで発散したい!」と語っていた人も、今は「ただただ伸ばしてほぐしたい……」と、リラックス志向にシフトしているという。地元の小学校で開催した「親子でできるセルフケア講座」も好評だったそう。生活の中で体を整える、自然の流れに沿った持続可能なフィットネスライフだ。「これからは不調改善や疲労回復、歪みやコリなど、ボディーケアのスペシャリストが必要とされると思います。目指すは駆け込み寺となる“かかりつけスタジオ&サロン”です」と、山本さんはこれからの抱負を語る。

 コロナ禍以前は大きなスタジアムで何百人単位で参加するヨガイベントなども話題となった。コロナ禍以降は一転して、小規模のパーソナルトレーニング専用スタジオが次々オープンした。日常に戻りつつある今、バーチャルとリアルをうまく組み合わせた、ハイブリッドなセミプライベートセッションが求められていくだろう。時代は整えるフィットネスへ。

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