ファッション

「日本人のおしゃれしたい気持ちは消えてない」 大丸松坂屋がファッションサブスクで得た確信

 大丸松坂屋百貨店が運営するファッションレンタルのサブスクサービス「アナザーアドレス(ANOTHER ADDRESS)」が3月12日でサービス開始から1周年を迎える。2月末時点で、すでに初年度目標(会員数1000人)を大きく上回る獲得会員7000人、貸し出し着数は計2万5000着に達した。

 同サービスは1カ月に3着までレンタルでき、料金は月額1万1880円。気に入った商品は買い取りも可能だ。「エアークローゼット(AIRCLOSET)」「メチャカリ(MECHAKARI)」といった国内の主要ファッションレンタルサービスの相場は月額6000〜7000円程度。競合と比較すると2倍近い料金設定だが、「メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)」「マルニ(MARNI)」など海外のデザイナーズブランドの取り扱いがある点が差別化要素になっている。サービス発足当初は会員が殺到し、21年5月には年内の有料プラン会員登録を一時休止。以降も貸し出し商品の在庫が不足する状態が続いている。

 事業責任者の田端竜也氏は発足からの1年を「さまざまな課題は山積するが、ファッションサブスクの可能性を大いに感じることができた」と手応えとともに振り返る。22年春夏には「ディースクエアード(DSQUARED2)」「イザベル マラン(ISABEL MARANT)」「ザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE)など63ブランドを新規導入(計113ブランド)し、在庫点数を年度内には3倍まで増やす。「5年後に日本一のファッションレンタルサービスに成長させる」ことを目標に、さらにアクセルを踏み込む。

WWD:立ち上げ当初の計画を大きく上回った。

田端竜也アナザーアドレス事業責任者(以下、田端):ファッションレンタルという百貨店としては初めての挑戦だったが、お客さまから大きなレスポンスをいただけたことにほっとしている。1年前は取引を開拓するのも一苦労という状況だったが、今ではブランド側からアプローチをいただくことも増えた。

WWD:スタートから申し込みが殺到し、5月には有料プラン登録の停止を余儀なくされた。

田端:当初用意していたのは会員1000人分を想定した商品在庫。だがふたを開けてみれば、サービス開始から3日間で初年度目標としていた会員数3000人を超え、完全にパンクしてしまった。「借りられる服がない」とお客さまからクレームもいただく事態となり、(有料プランの)ご案内を年内は停止せざるを得なかった。今は再開しているものの、登録からご利用までには少しお時間をお待ちいただくことになり、ご迷惑をおかけしている。

 1年を通じ、シーズンの変化に対応した品ぞろえの切り替えも課題だった。「シーズンレスに使える=長い期間貸し出しができる」と考え、そういった類の商品を重点的に仕入れた結果、季節感を感じられるような服がほとんどなくなってしまった。例えば薄手のノースリーブトップスやダウンジャケットなどだ。「夏(冬)に着られる服がない」というお声も多く頂戴した。

WWD:デザイナーズブランドの品ぞろえが強みだが、人気ブランドは?

田端:貸し出し点数で見ると、「アドーア(ADORE)」「セルフォード(CELFORD)」など海外ブランドに限らず、なじみのあるブランドがレンタルでも人気だ。ただ回転率(在庫に対する貸し出し回数の割合)でみると、上位から順に「メゾン マルジェラ(MAISON MARGIElA)」「レッド ヴァレンティノ(RED VALENTINO)」「シーバイ クロエ(SEE BY CHLOE)」「マルニ(MARNI)」と海外ブランドが強い。これらのブランドは抱えている在庫は少ないため、常に貸し出し中の状態が続いている。「エズミ(EZUMI)」「ミントデザインズ(MINT DESIGNS)」などコアなファンを持つドメスティックブランドの人気も高い。

WWD:貸し出し率が高い商品の傾向は?

田端:シンプルで使いやすいデザインよりも、大きな花柄などデザイン性の高いものの動きがいい。百貨店の店頭では“見せ筋”と言われるような、店内のアクセントにはなるが売れ筋にはならない商品も、レンタルでは人気がある。「着てみたいけれど、(価格が)高くて手が出せない」「すぐ飽きてしまうかもしれない」と購入にちゅうちょしていた商品も、レンタルなら手軽に試せる。気に入って購入するお客さまも一定数いらっしゃり、売上構成の10%ほどは買い取りによるものだ。

WWD:利用者はファッションラバーが多い?

田端:そうとも限らない。一般的な会社勤めで、デザイナーズブランドは買ったことがないという方もいらっしゃる。そういった方々にもサービスの価値を感じてもらえているようで、有料会員の解約率は1%以下にとどまる。

 服は人を元気にしたり、新たな出会いを生み出したりするもの。このサービスは、多くの人に袖を通していただくことで、そのパワーを伝えることを本懐としてスタートした。日本人のファッションに使うお金は減っていると言われるが、「おしゃれをしたい」という気持ちがなくなったわけではない。まだ1年ではあるが、そこに確信が得られたことはとても大きかった。

WWD:百貨店との相乗効果は?

田端:貸し出し商品や顧客の情報を、リアル店舗のMDや出店エリアの選定に生かすなど、テストマーケティング的に活用している取引先さまもある。ブランドの売り場では「アナザーアドレス」の商品ページを販売員に見せて「この商品が欲しい」とおっしゃるお客さまもいる。

 「アナザーアドレス」での取り扱いブランドの半分以上は、百貨店では取り引きがなかったブランドだ。百貨店への新規出店交渉でも、「アナザーアドレス」への出店をセットで提案することで、先方が前向きになることもあると聞いている。会員の分布は首都圏が中心で、大阪や名古屋が中心の大丸松坂屋の顧客とは異なる。年齢層も40代前半が中心で百貨店顧客(50代中心)より若い。シナジーが生まれるのはこれからだが、さまざまな可能性が眠っているだろう。

WWD:スタート時に中長期目標として利用者3万人、年間売上高50億〜60億円を目標に掲げていた。今後の展望は?

田端:個人的な野望としては、「百貨店のファッションレンタルサービス」にとどまるつもりはない。J.フロントグループ内では大丸松坂屋百貨店、パルコといった主要子会社と並べるようなスケールを目指していきたいし、グループからスピンアウトすることもありえる。まずは3年で事業の損益分岐点を突破し、5年で日本国内でナンバーワンのファッションレンタルサービスに成長させる。

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